表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極道転生~男装の姉御、異世界で組を作る。あとヒロインの腐女子がうるさい~  作者: 烏丸 燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/85

第二十二話 消失

 朝靄のかかる静かな野道で、焚き火のあとを風がさらっていた。


 蓮は立ち上がり、ベルトに銃を差し直しながらポツリと呟いた。


 「……やっぱ気になるな。ミリィの言ってた“村が突然燃えた”って話。妙すぎる」


 焚き火の消し残りを足で踏み消すと、歩き出す。


 「じゃあ、わたしも行きます!」


 すぐにクララが立ち上がった。


 「わ、わたしも……行く!」

 ミリィも毛布をたたみながら、こくりと強くうなずく。


 蓮は眉をひそめて振り返る。


 「お前ら、バカか? 焼けた村にわざわざ戻って何がある。何かいたらどうすんだよ」


 「でも、放っておけないんです。今のミリィがあるのは、その“村”が焼けたせいなんですから……知る必要があります」


 「……わたし、お母さんのこと……確かめたい」


 蓮はしばらく無言だったが、やがて大きな溜息をついた。


 「ちっ……分かったよ。ついてくるなら離れるな。俺の背中だけ見て歩け」


 そして三人は、朝靄の中へと歩き出した。


 ミリィが言っていた山の向こう、深い森を抜けた先――。


 そこには、かつて魔族の小さな集落があったはずだった。


 


 そして数時間後。


 


 その場所に着いた三人は、言葉を失った。


 地面は黒く焦げ、建物の柱すら跡形もなく崩れていた。焼け焦げた家々が無残に並んでいる。


 だが――不自然だった。


 “遺体”が、一つも見つからないのだ。


 生活の痕跡はあった。食器、家具、布きれ、靴……魔族が確かに暮らしていた名残は、数多く残っている。


 なのに、そこにいたはずの命だけが、跡形もなく消えていた。


 蓮は足元の瓦礫を蹴り、くぐもった声で言った。


 「火事じゃねぇ……焼き討ちってんなら、どこかに死体があってもおかしくねぇはずだ。これは“消えた”んだ。魔族だけが……」


 「……心当たりがあります」


 クララが、顔を険しくしながら呟いた。

 「これは、教会の“聖遺物生成術”です」


 蓮が顔を向けた。

 「……聖遺物?」


 クララは静かに頷いた。


 「教会の奥義のひとつ。かつて神と契約を交わした聖具師たちが作り出す、神の力を宿す道具……それが“聖遺物”です。

 その中には、生き物の命を“核”として魔力を凝縮させる儀式もあるんです。……特に、魔族のような“異端の存在”は、強い魔力を持つ分、貴重な供物とされやすい」


 「……つまり、ここにいた魔族たちは、殺されただけじゃねぇ。“材料”にされたってことか」


 「はい……恐らく、生きたまま魔法陣に捧げられ、霊核に変えられた……そういう痕跡です。焼き払われたのは、痕跡を消すための“処理”でしょう」


 蓮の目が、冷たい光を帯びる。


 ミリィは震えながら、声を漏らした。


 「……じゃあ、わたしのお母さんも……」


 「まだ確定じゃねぇ。……けど、少なくともこの集落で何があったか、もう“偶然の火災”って話じゃ片付けられねぇ」


 蓮は拳を握り締め、唇を噛んだ。


 この世界では、魔族は“祈りの対象”にはなれない。

 ならばその命は、“祈りのための燃料”にされる。


 どれだけ善良でも、どれだけ幼くても――ただ“魔族”である、それだけで。


 「……あの宗教白ブタ野郎共、やっぱ許せねぇ」


 蓮は呟いた。


 その声に、クララが小さく頷いた。


 「私もです。教会の中にいた者として……知らなかったとは言えません。でも、今は違います。私が“聖女クラリッサ”だった意味があるとすれば……この現実を、止めるためにあるんです」


 焔は既に消えていたが、三人の胸には、消えぬ怒りが静かに灯っていた。


 そしてそれは、この先の旅路に、決定的な覚悟を与えるものとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ