第二十一話 合流
焚き火に枝を一本くべたとき、草を踏む音がした。蓮がすぐに立ち上がり、内ポケットの銃に手をかける。
「レンさん、私です!」
低く抑えた声。クララだった。
蓮は手を下ろし、肩の力を抜いた。
「……なんで来た」
「すみません。村の人と話してたんです。……でも、ちょっと大変な話を聞いたので伝えたくて……」
クララの表情は暗かった。焚き火の前まで来て、そっとしゃがみこむ。その視線が、ミリィに向かう。
「その子……魔族、なんですよね」
蓮は頷いた。
クララはミリィに微笑みかけてから、声を落として蓮に告げる。
「最近、近隣の村でも“魔族掃討”が頻繁に起きてるそうです。教会が言うには“魔族を匿う人間にも神罰が下る”って……どの村も怯えてて、報告があれば即通報するよう指示されてるらしいです」
「……で、魔族の子供一人に、村人総出で石投げか」
「ええ。……これが、教会が言う“正義”なんですね」
ミリィが不安そうに二人を見上げているのに気づき、クララはすぐに表情を和らげた。
「大丈夫。私たちはあなたを傷つけたりしないよ。……私はクララ。元・シスター、今は……そうね、ただの旅の仲間ってとこかな」
「……クララ、さん」
ミリィは小さく声を返した。
クララは焚き火のそばに荷物を置き、少しだけ間を置いて話を続けた。
「レンさん。私、思ったんです。“誰かに決められた役割”で縛られていたのは、私たちだけじゃなかったんだって。
魔族っていうだけで、存在を否定される。逃げても、生き延びても、それが“罪”になる。
それって……“聖女の務めを果たせ”って言われ続けた私と、重なる部分がある気がするんです」
蓮は火を見つめたまま言う。
「こいつが何者かなんて、見た目だけじゃわからねぇ。角があるからって“悪”と決めつけるなら、それはただの傲慢だ」
「ええ。だったら私たちは、“違う選び方”をするべきです」
クララはゆっくりとミリィの隣に座り、静かに毛布を差し出した。
「ここではあなたを拒まない。夜は冷えるから、ちゃんと包まって寝てね」
ミリィはこくりと頷き、毛布を胸に抱えた。
火がぱちりと弾ける。
蓮は再び腰を下ろし、ぼそりと呟いた。
「俺たちが、俺たちなりのルールで生きる。それでいいだろ」
「はい」
クララが応える。
ミリィの瞳が、二人の顔を見つめていた。怯えよりも、ほんの少しだけ――信頼の色が混じっている。
そしてその夜、焚き火の光の中で結ばれた小さな絆は、この先の物語において、とても大きな意味を持つことになるのだった。




