第二話 出会い
まずは情報収集だ、と蓮は草原の中を歩き出した。
遠くに煙が見える。人が住んでる集落か、あるいは小さな村か。
道も未舗装だが、獣道ってほど荒れてはいない。人の往来はあるようだった。
「……ひとまず、あそこを目指すか」
蓮が小さくつぶやいたそのときだった。
「――あのっ、そこの方!」
声が飛んできたのは、後ろからだった。
振り返ると、丘の上の小さな祠のそばに、白い修道服姿の少女が立っていた。
道沿いに建てられたその祠は、通りすがりの旅人や商人が安全を祈る場所らしい。
少女はそこで花を供えていたようだったが、いつの間にか蓮の姿に気づき、駆け寄ってきたのだ。
「だ、大丈夫ですか!?お怪我は!?こんなところで倒れてたら危ないですよ!」
勢いよく走ってきた少女は、足元の石に気づかず――
「わ、きゃっ――!!」
見事に転んで、顔から地面に突っ込んだ。
ずさぁっ!という鈍い音が草の上に響く。
「……派手にいったな」
蓮がそう言うと、少女は顔を泥だらけにしながらも、心配そうに見上げてきた。
なめらかな金髪に青空を切り取ったような瞳、顔は整っていて、年の頃は十代後半といったところだろうか。
ふんわりした雰囲気と修道服の清楚さが合わさって、“真面目な子”という第一印象だった。
――が。
「……っ!?な、なんですかその……その、白のピッタリしたお衣装!血の匂いを感じる空気感……!?」
クララはぴたりと動きを止めた。
「顔……綺麗……まつ毛なが……でも儚い……!?えっ……えっ、これは……」
蓮が怪訝な顔をするより先に、彼女は一歩下がって、震える手で口を覆った。
「攻めに見せかけた受け――!!」
「……何語だ、それ」
少女――クラリッサ・ミルディナは、まるで奇跡を目撃したかのように目を潤ませ、両手を組んで震え出す。
「まさか、祠の掃除中に……こんな存在に出会うなんて……!神の啓示に違いありません……!」
「おい、俺は気づいたらここにいただけだ。神は関係ねぇ」
「いえいえ!これは絶対運命です!尊み……!」
蓮は溜息をついた。
変なのに見つかった。
「す、すみませんっ……わたし、聖教会の白魔道士で……クラリッサ・ミルディナと申します!クララと呼んでください!」
「神埼蓮。極道だ」
「ゴクドウ!?わかりませんけど、なんか強そう!!」
「いや、そうでもねぇよ」
――なんだこの世界。大丈夫かよ。
そう思いながらも、蓮はふとクララの表情を見た。
彼女はちらちらと蓮を見ては、鼻息を荒くしている。
「白いお衣装……素敵……金髪のウルフヘア……最高……えっ、もしかして華奢でちょっとだけ肩のライン丸い……受け補正……!?」
「お前、本当に聖職者か?」
「心は常に神と共にあります!!ただし妄想は別です!!!」
――先行きが不安しかない異世界生活が、今ここから始まった。




