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極道転生~男装の姉御、異世界で組を作る。あとヒロインの腐女子がうるさい~  作者: 烏丸 燈


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第十三話 選択

 クレーディア峡谷への獣道は、地図で見る以上に険しかった。


 岩肌の露出した斜面、滑りやすい土、ところどころに倒木。

 元・聖女の足にはかなり酷な道だったが、クララは弱音ひとつ吐かなかった。

 ――というより、吐けなかった。


 蓮の背中が、黙々と進み続けていたからだ。

 寡黙に、迷いなく、どこか怒っているようにも見える背中。


 その姿に、クララの胸はじんわり熱くなる。


 (やっぱり……“守ってくれてる”んだ、レン様)


 と、思った直後だった。


 


 「……おい。足止めろ」


 「え?」


 蓮が片手を掲げて制止の合図を出す。

 そのまま、斜面の先の茂みに目を凝らした。


 


 カサ……ッ


 


 小さな、けれど不自然な音。


 動物の気配ではない。人間。それも、こちらの動きに合わせて位置を調整している。


 


 「……尾行、ついてるな。ひとり」


 「また暗殺者……!?」


 「いや、違ぇな。あいつぁプロじゃねぇ。素人の動きだ」


 蓮は言いながら、銃を構えながらそっとクララの背中に回り込むように立ち位置を変えた。


 「……何者か知らねぇが、出ろ。出なきゃ撃つぞ」


 


 沈黙。


 だが数秒後、茂みの向こうから現れたのは――、

 教会の白い外套を羽織った若い男だった。顔立ちは優しげで、武器らしきものも持っていない。


 


 「待ってください!武器を向けないで……!」


 両手を挙げ、ゆっくりと歩み寄る。


 「私は、クラリッサ様の旧知の者です。聖教会・聖女院の補佐官、エリアスと申します」




 クララが目を見開く。


 「エリアスさん……!?」


 男――エリアスは、小さく微笑んで頷いた。


 「お久しぶりです、クラリッサ様。あなたが無事で、安心しました」


 その声音に、敵意はない。

 だが、蓮はすぐに銃を下ろさなかった。


 


 「名乗るのはいいが、そっちが“味方”か“敵”かで話は変わる。どっちだ」


 エリアスはわずかに肩をすくめた。


 「……クラリッサ様が退位されて以降、教会内部では混乱が続いています。

 次の聖女を巡る政治闘争、権力の奪い合い……。私は、あのような教会を見ていられなかった。

 だから、あなたを追うためではなく――守るために来ました」


 


 蓮の視線が鋭く細められる。

 だが、クララが一歩前に出て彼を制した。


 「レン様、エリアスさんは、信じていい人です」


 「……チッ、信用なんざ、そう簡単にできるもんかよ」

 ぼそりと呟いたが、蓮はようやく銃を懐に戻した。


 「……だったら、聞かせてもらおうか。“クララを守る”ってのは、具体的にどういう意味だ?」


 「……クラリッサ様の“死”を演出します。――つまり、正式に“聖女クラリッサは事故で亡くなった”と発表する。

 それによって、あなたへの追跡も弱まるはずです」


 「死んだことにする……!」

 クララが小さく声を漏らす。


 「ただし――あなたが本当に生き延びるためには、教会の中に“味方”が残っている必要がある。

 私は、その拠点になります。今はそれしか、あなたを守る手段がない」


 蓮が低く唸るように言った。

 「じゃあ……この提案を呑めば、俺たちを追ってきた白ブタ野郎共は引くんだな?」


 「……強硬派の一部を除いて、はい」


 


 静かな森の中で、風がひと吹き通り過ぎた。


 蓮とクララは視線を交わす。

 選択を迫られている。


 


 ――「死んだことにする」ことで、自由を得るか。

 それとも、追われながらも「生きている」ことにこだわるか。


 


 「……ちょっとだけ、考えさせてください」


 クララがそう言ったときの表情は、少しだけ“聖女”らしかった。

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