第24話 作製:アイス
「ユリウス。あなたに、お聞きしたいことがあって」
「ああ。なんだろうか」
「冷蔵とか冷凍とか、温度を下げる方法を知りませんか?」
気のせいかもしれないが最近気温が上がっている、気がする。となるとやはり飲みたくのは冷たい飲み物だ。水出しコーヒーを氷一杯で楽しみたい。
その為に必要なのは冷蔵、あるいは冷凍の技術。そんな感じの魔法的なもの。火を起こす魔法があるのだから氷魔法とか……ないだろうか。
「ああ、知ってはいる。我らが駐屯場にも調理場があるからな。だが……」
「だが……?」
「知っているのはそれだけだ。内部の構造などを知っているわけではない。少し時間を貰えれば聞いてこよう」
「ではお願いします」
アイスが出来るというだけで単純にメニューの数が倍になる。出来ればすごくありがたいのだが……。
なんて思いながら、当店は営業をしていた。
お客さんは主にユリウスの元に属する騎士の人たち、と、そんな噂を聞いた騎士たちだ。細々とだが客は来ているのだ。おかげで一人で食べるに困らない程度のお金は入ってくる。
(でもお客さん的にはアイスという選択は欲しいところ……)
コーヒー屋は当然として、喫茶店でもホット・アイスぐらいのバリエーションはある。
氷……氷さえあれば……。
なんて思いながら三日が経過した。
「リノ。魔道具屋を連れてきたぞ」
と一緒に入ってきたのは職人のような人だ。製氷機は魔道具? と呼ばれているのか。なんにせよ進展させられそうだ。
「私が欲しいのは氷を作る機械で……」
「……」
「あ、あと冷蔵が出来るものも……」
「……」
「あ、あの……」
無口。無口である。この世界で通じるのは言葉ぐらいだというのに、コミュニケーションがとれないのはなんというか……。
おろおろしているとその職人さんは紙に何かを書き始める。困った……文字も読めない。どうすれば……。
「ふむふむ。どうやら見積もりをしてくれていたようだ。その機械一式でこれくらいだと」
ユリウスづてにメモを受け取るが何と書いてあるのかわからない。
「あのこれ……銀貨でいうとどのくらいなんですか?」
「銀貨なら……1000枚くらいか?」
せっ、1000枚……。ウチのコーヒー300杯以上……! さすがにそんなお金はない。
「ぶ、分割払いとか……」
なんとか交渉を試みる。が、異世界で分割払いが通用しそうもなく。当分はアイスを作るのは我慢、か……。
「……私が用立ててもいいだろうか」
「いいえそんな! 返せるかどうかも分からないのに」
「なに。ちょっとした先行投資さ。——ではこれで頼む」
そう言ってユリウスが支払いを済ませてしまった。どうしよう、借金をしてしまった。
「あの本当にすみません。必ず返しますので……」
「はは、そこまで深刻にならなくても。これは確実にリターンのある投資だと思っている。むしろ誇らしいくらいだ」
なんていうけれど。その期待に絶対答えねば。
それから三日ほど経った。
前に会った道具屋が来てさくさくと配置を済ませてしまった。
(すごい。あっという間に製氷機が)
そして冷蔵庫もある。急冷アイスも水出しアイスも作れる。
それよりも大きいのは牛乳が保存できることだろう。オーレやラテといったものも作れるようになる。
コーヒー屋として大きな前進だ。しかし……。
(同時に借金も抱えてしまった。なる早で返済しないと)
……とか、いろんなことを考えていると。
「どうだ。これでなんとかなりそうか?」
気を使ってくれるユリウス。彼の為にも一杯淹れよう。
使う豆は店にある深煎りのもの。粉は20gほど用意。
氷を100g、落としで100gほど落とせば完成。
たまたま用意があったガラス製のコップに氷を詰めて完成。急冷のアイスコーヒーだ。
「おお、なんだか凄そうだ」
目を輝かせるユリウス。フレッシュにガムシロ、ストローがないのがアイスっぽくなくて少し残念だが、味は問題ないはず。
「……苦い」
やっぱり。
「だがそれがいいな。清涼感を感じる。美味しいというより気持ちいい、というべきかな」
「おお~」
そこまで伝わったのなら良し。今度から焙煎の発注は深煎りも混ぜてもらおう。
この店に氷が来た。店として大きな前進だろう。




