第2章 隠された真実と怪しい人物
杏子とおじいちゃんが商店街を駆け回っている間、町の住民たちはずっと動揺していた。まんじゅうが消えたという事実が広がるにつれて、イベントの中止が決定的なものとなりそうな雰囲気が漂っていた。しかし、杏子はおじいちゃんとともに、まんじゅうの行方を追い続ける決意を固めていた。
「おじいちゃん、まんじゅうの一部が見つかったって、これが証拠になるの?」杏子は手に取ったまんじゅうの一部を見つめながら尋ねた。
「もちろんじゃ! これで、まんじゅうがまだどこかに隠れていることが確実じゃ。」おじいちゃんは自信満々に言い放ち、まんじゅうの欠片をじっと見つめた。
「でも、まんじゅうが動いたなんて…そんなことある? まるで生きているみたいに…」杏子は首をかしげた。
「ふふふ、ぱみゅ子もだんだん名探偵の感覚を掴んできたな。さすがはわしの血筋じゃ。あの巨大なまんじゅうには何か特別な力があるのは間違いない」おじいちゃんは得意げに微笑む。
二人が商店街を歩きながら話していると、突如、パティシエ・樹神拓哉が店から出てきた。彼はいつも穏やかで、商店街でも評判の良い好人物だったが、今はその顔に焦りの色が浮かんでいた。
「樹神さん、どうしたんですか?」杏子が声をかけると、樹神は慌てた様子で二人に近づいてきた。
「実は…」樹神は小声で言った。「まんじゅうが消えたことについて、私も少し心当たりがあるんです。」
「心当たり?」おじいちゃんがすかさず口を挟んだ。「それは一体、どういうことですじゃ?」
樹神は一呼吸おいてから、まるで重い秘密を告白するように話し始めた。
「実は、あのまんじゅうには…ちょっとした秘密があるんです。」樹神は周りを見渡し、誰にも聞かれないようにしてから、話を続けた。「あのまんじゅうは、ただのまんじゅうじゃないんです。特殊な技術を使って作られているんです。」
「特殊な技術?」杏子は目を大きく見開いた。
「はい。実は、あのまんじゅうには…一種の“動く力”があるんです。」樹神の声が少し震えていた。
「動く力…?」杏子は信じられないという表情で思わず言葉を詰まらせた。
「そう、まるでまんじゅう自体が…自分の意志で動くような力です。」樹神は顔をしかめて言った。「それは、私がまだ若い頃に試作していた技術で、まんじゅうに生命力を与える実験の一環だったんです。ただ、当時は技術的に未完成で、途中でその実験をやめたはずだったんです。」
杏子は思わず目を見開いた。まんじゅうに「動く力」が宿っている…その発想自体があまりにも奇抜で、信じるのが難しい。
「じゃあ…まんじゅうが動いたのは、その力が目を覚ましたからじゃと?」おじいちゃんが興奮気味に言った。
「その通りです…」樹神は唇をかみしめながら続けた。「まんじゅうが消えたのも、その力が働いたからだと思うんです。ただ、ほとんど偶然に出来てしまったので、私にはそれを完全にコントロールできる技術を持っていなかった。あのまんじゅうにどれだけの力が宿っているか、私にもわからない」
おじいちゃんはうなずきながら、「ふむ、これは面白いことになってきたな!」と言った。その反応に、杏子は少し頭を抱えた。
「おじいちゃん、それってまんじゅうがただの…お菓子じゃないってこと? まるで生き物みたいな存在なの?」杏子は驚きながら言った。
「ふふふ、ぱみゅ子、それがワシのもとからの推理じゃ!」おじいちゃんは楽しげに言ったが、杏子はその発言を信じるのが難しくて、どうしても納得できなかった。そんなことある?
その時、不動が商店街の角から姿を現した。彼は町の商店街の会長で、いつもは温厚で穏やかな人物だが、今は顔を真っ赤にして、目を見開いていた。
「おい、何を話してるんだ、樹神! 少し噂には聞いたことがあるぞっ。あれは君が作ったものだろう? それに、君がその技術を使ったせいでこんなことになったんじゃないのか?」不動が樹神に詰め寄る。
「不動さん、違います! 私は…」樹神は少し焦りながら言ったが、不動の勢いに押されて言葉を止めた。
「君が何を言おうと、まんじゅうが消えたのは君の責任だ! あのまんじゅうが町のシンボルになったんだから、わたしが責任を取らなければならないんだぞ!」不動は手を広げて言った。
杏子はその言葉に耳を傾けながらも、樹神の表情が変わるのを見逃さなかった。まだ何かを隠しているような…そんな気配が漂っていた。
「不動さん、落ち着いてください。」杏子が思わず声をかけると、不動は一瞬だけ立ち止まった。
「でも、まんじゅうが消えたんだぞ! どうすればいいんだ? わたしの責任問題になるっ」不動は目を見開いて言う。
その場の空気が一瞬で張り詰めた。杏子はしばらく考え込み、何かが不自然だと感じた。
「樹神さん、あなたが言った“動く力”の話、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」杏子は慎重に言った。
樹神はしばらく黙り込んでいたが、ついに口を開いた。
「実は…その力を私が完全にコントロールできなかった理由が、もう一つあるんです。」樹神はゆっくりと口を開いた。