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第1章:巨大まんじゅうの失踪

 町の商店街は、いつにも増して賑わっていた。空を見上げれば、青空が広がり、陽気な風が店先の飾りを揺らしている。今商店街は、毎年恒例の「巨大まんじゅうコンテスト」の準備でひとつにまとまり、まるでお祭りの前夜のような活気に包まれていた。


「今年のまんじゅうは、すごく大きいね!」杏子は目を見張って、商店街の一角にある巨大なまんじゅうを見上げた。まるで金太郎飴のような色合いで、何層にも重なった色彩が光を反射してまばゆい。


「おお、ぱみゅ子、それが今年のまんじゅうじゃ。見ての通り、今年は100キロもある特大サイズじゃから、町の人々もきっと驚くことじゃろうなあ。」おじいちゃんが胸を張って言った。


「すごい大きさだね。これ、一体どうやって作ったんだろう?」杏子が近づいてみると、そのまんじゅうは想像以上の大きさで、目の前に立つと圧倒されるほどだった。


「作ったのは、商店街の貴公子パティシエ・樹神拓哉こだま たくやさんじゃ。あの人は、町の人々にも評判の職人でな」おじいちゃんが続ける。


「本当にすごい人だね」杏子は感心しながら、思わずそのまんじゅうの周りを何周もしてしまう。


 そしてそのまんじゅうは、イベントの二日前に、商店街の中心に設置され、まさに町全体の注目を集めていた。イベント当日は、町中の人々が集まり、皆でその巨大まんじゅうを楽しむ予定だった。だが、誰もが想像していなかったことが、その前日、起こることになる。


 翌朝、商店街は突然の騒動に包まれた。まんじゅうが消えていたのだ。


「え、まじで? まんじゅう、どこに行っちゃったの?」商店街の住民たちが集まり、驚きの声を上げている。


「ま、まさか…盗まれたんじゃないか?」町の会長である不動が焦りながら言った。商店街の人々は動揺し、パニックのような状態に陥っていた。


 杏子とおじいちゃんは、まんじゅうが消えた現場に駆けつけた。確かに、まんじゅうが置かれていた場所は空っぽだった。しかし、違和感を覚えるのは、まんじゅうを動かした痕跡が一切残されていないことだった。まるで、まんじゅうが自分で動いて消えたかのように。


「まさかじゃが、これはまんじゅうが歩いて行ったかもな」おじいちゃんは、これまた得意げに腕を組みながら言った。


「え?」杏子は呆れた顔をしておじいちゃんを見た。


「いや、でも…どうしてまんじゅうが消えたのか、とうやって動かされたのか、まずは調査してからね」杏子は少し考えて言った。


「ふふふ、ぱみゅ子の言う通りじゃ。さすがはわしの孫娘。だが、まだ真実を見抜けないとは、さすがのぱみゅ子もまだまだ人生経験が足りんようじゃな。まんじゅうが自ら動いたんじゃろう。さあ、行こうか」おじいちゃんは、ますます有頂天になりながら、商店街の中を歩き始めた。


「おじいちゃん、本当にまんじゅうが動いたっていう推理?」杏子は呆れ顔でおじいちゃんに問いかけた。


「もちろんじゃ! ワシの勘がそう言っとる!」おじいちゃんは自信満々に言い放ち、杏子がなにか言おうとする前にさっさと歩き出す。


「もう…ほんとに…」杏子はその後を追いかけるようにして歩きながら、何度もおじいちゃんにツッコミを入れた。おじいちゃんが恥をかかないように。


「ぱみゅ子、見ろ! あそこにまんじゅうの足跡が残っとる!」おじいちゃんが突然、商店街の一角を指さして叫んだ。


 杏子は不安そうな顔をして、その方向に目を向けるが、足元にはただの砂利と土しか見当たらなかった。


「おじいちゃん、足跡どこ? 何もないけど?」杏子が言うと、おじいちゃんは「うむ、これは直感的なものじゃわしのカンが言っておる。確かに足跡ではないが、何かしらの証拠がきっとここにあるんじゃ!」とさらに突き進んでいった。


「またそれなのね…」杏子はついて行きながら、心の中で呆れる。


 商店街をくまなく調査しながら、おじいちゃんはまんじゅうが消えた理由を突き止めようとしていた。途中、何度も転びながらも、まんじゅうの「足跡」を追いかけ続ける姿に、町の人々も、どこかしら笑いながら見守っていた。


 そんな中、杏子はふと目を止める。ひときわ異様な雰囲気を持つカフェの前に立つと、ふとその店の前に置かれている小道具に目が留まった。


「あ、あれ…おまんじゅうの一部じゃない?」杏子が小さな声で言うと、おじいちゃんがすぐに顔を上げた。


「おお! これは確かにまんじゅうの一部だ!」おじいちゃんはその場に駆け寄り、うれしそうにそれを手に取った。


「これが証拠だ!」おじいちゃんはにっこりと微笑む。


 その瞬間、杏子は思わずため息をつきながら、「おじいちゃん、これは、おじいちゃんの推理が間違ってなかったってこと?」と呟いた。

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