馬上槍試合無敗令嬢、トレーニングパートナーの不意打ちプロポーズに貫かれる
シャーロットは馬上槍試合用のランスを構えた。
「行くわよ!」
柵に沿って馬を疾駆させる。
馬上槍試合の練習中だ。
馬の背中ほどの高さの柵を挟んで、馳せ違い様に相手を木製のランスで攻撃して勝敗を競う競技。
自分と同じ甲冑姿でランスを構えた練習相手が、鋭い攻撃を繰り出してきた。
「やあっ!」
「うわっ!」
躱しながら相手の胸をランスで捉えて落馬させた。
柵を馬で跳び超えて反転して近づく。
「フィン、大丈夫?」
馬から降りると、兜を外して訊ねた。
「はい。シャーロット様」
フィンが立ち上がって兜の面を上げた。
私と同じ貴族で、父の友人の息子だ。
23歳の自分より3歳年下の20歳。
あどけなさが残っていて可愛くさえ見える。
それでも――。
「フィン、強くなったじゃない。鋭い突きだったわ」
「そうでしょうか?」
「ええ。私のトレーニングパートナーを三年も務めてくれているんだもの」
私は幼少期から武術が好きで、そして強かった。
十代半ばを過ぎた頃には、並みの男では練習相手が務まらずに逃げ出してしまうほどに。
けれど三年前、フィンが志願してくれた。
自身も強くなりたがっているようだった。
強くなろうとしている男って、嫌いじゃない。
だから師のように姉のように見守ってきた。
「自信を持ちなさいよ。私に求婚するために挑んできた男たちよりずっと強いわ」
馬上槍試合用で自分に勝った相手としか結婚しない。
そう宣言して以降、五年間無敗。
今では『決して貫けない女』などと呼ばれるようになり、挑んでくる男もいなくなった。
「でしたら、あの――」
フィンがしどろもどろとしている。
「どうしたの?」
「練習ではなく、僕と正式に試合をしてください!」
意味を理解するのに時間がかかったけれど――。
「ちょ、ちょっと待って。それって」
「お願いします。そして僕が勝ったら、どうか婚約して下さい!」
フィンが顔を赤らめながらも、真っ直ぐに見つめてくる。
突然のプロポーズ?
いいえ。三年前から、このために強くなろうとしていたの?
じゃあ、ずっと私のことを――。
「わ、わ、分かったわよ。でも手加減しないし、私に勝てないと駄目よ!」
私も真っ赤になって叫んだ。
◇
フィンが横たわって目を閉じている。
私はクスリと笑うと、フィンの頬にキスをした。
あなたは『決して貫けない女』を貫いた人。
負けちゃった。
それに、まあ、つまり、その。
こうして結ばれて、同じベッドで眠っているわけで。
フィンに貫かれ――、コホン。