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7. ヒロインの覚悟

ヒロインも可愛い

「ミルキィベル様!?」

 エリクシーラも驚いて、一礼して王が頷くのを確認したあと、ミルキィベルのもとへ駆け戻る。


「どうなさいましたの、具合がお悪い? 気づかなくて申し訳ありません」

「いやー、これは……」

 言いながらシルヴァがミルキィベルを起こそうと側に屈み込んでいるが、ミルキィベルは動けない。

「すみません、すみません……」

 と、震える声で謝り続けている。


「ミルキィベル!! くそっ、エリクシーラ!! 彼女に何をした!」

「お前、まだそんなことを!」

 組み伏せられたまま叫ぶカルルに、王太子が怒りも露わに怒鳴る。

「……どういうことか」

 王がカツンと錫杖を床に打ち、低い声で問うた。


「あー陛下ー。すみません、お怒りを少し抑えていただけませんか」

 そこへ、シルヴァがのんきな調子で国王に声をかける。

「む?」

「陛下が怖すぎてこの子泣いてます」

「なんと!」

 ああなるほど、と王太子が頷く。

「王族と公爵家しかいないこの場は伯爵令嬢にはつらいかもしれないですね」

 ぬう、と国王が唸る。

「……公式の場ではない、皆、楽にするが良い」

 王の言葉に、跪いていたレオンとシェインが立ち上がった。リアムも少し下がってから立ち上がったが、剣は腰に戻さず利き手側に抱えるように立てて持つ。


「まだ威圧が強いです、陛下」

「うぬぅ、そう言われてもだな…」

「仕方ないなぁ」

 シルヴァはため息をつくと、ヒョイッとミルキィベルを抱き上げた。

 ヒイッ、と小さく声を上げ、ミルキィベルは身を固くしたままシルヴァにお姫様抱っこで運ばれる。


「まあお兄様、ありがとうございます。ミルキィベル様、お兄様に抱っこされるなんて羨ましいですわ」

「なんだいエリィ、抱っこしてほしいならいつでもしてやるのに」

 のんきな会話を交わす兄妹の間で、ミルキィベルは体を震わせ、もう涙すら出てこない様子だ。

 王の御前で降ろされたあと、声も出ないままそれでもなんとか礼をした。


「スイートベリー伯爵令嬢」

「はイっ」

 王の呼びかけに、ミルキィベルは声を裏返しながらも返事をする。


 王は、ミルキィベルと目を合わせると、不意に表情を崩し、内緒のいたずらをするかのようににやっと笑う。

 威圧的な雰囲気が急に親しみやすいものに変わった。


「この場はな、この親父が出来の悪い息子を叱るだけの場なんだ。公爵だの伯爵だの関係ない。気を楽にしてくれ」

「フぁっ?」


 親しみのある雰囲気になったと言っても相手は国王である。さらに混乱し、ろくに返事もできないミルキィベルに代わり、エリクシーラが王に問う。


「無礼講ということでよろしいですわね?」

「うむ、そのとおりだエリクシーラ。抱っこしてほしいのか、久しぶりにおじちゃんが抱っこしてやろうか? 高い高いしてやるぞ」

「お断りしますわ陛下。陛下の高い高いは高すぎて怖いです。

 あと、わたくし第二王子殿下に婚約破棄を言い渡されましたもの、もう陛下と家族のご縁はございませんのよ」

「なんてことを言うんだエリクシーラ!」

 王は大げさに嘆いてみせる。

「もちろん、父と陛下のご許可がいただければですけど……」

 エリクシーラは小首を傾げて王を見上げる。


「うーん、どうしたものか……」

 王は困ったような表情を作り……、

 そして、急に真面目な顔に戻り(エリクシーラの隣でミルキィベルが「ヒッ」と小さな悲鳴を上げた)、

「本当に破棄で良いのだな?」 

 と問うた。


「かまいませんわ。むしろ望むところです。わたくし、悪役令嬢に目覚めましたので」

「悪役令嬢?」

 王は不審げに眉を寄せ、説明を求めるようにレオングリンに視線を向けたが、レオンは軽く首を左右に振るだけで、何も答えない。

 王は視線を回すが、誰も王に返事ができない。場がしんと静まり返った。


 そんな困惑した空気に気が付かないエリクシーラは、

「ミルキィベル様はご婚約いかがなさいます?」

 と、放課後スイーツ食べに行く? くらいの気軽さで彼女のほうを朗らかに振り返った。


「ヒッ、あっ、あ……」

 ミルキィベルは王の顔を伺い、エリクシーラの方へ目を向け、あわあわと口を動かすばかりで言葉が出ない。

「無礼講だと言っているのに……。よい、直答を許す」

 ため息混じりに王が言う。

 とたんに、ミルキィベルは床に平伏した。


「も、申し訳ありません、全てわたし個人の不徳のいたすところですっ、どうか、どうか伯爵家だけは、いえ、家がお取り潰しでも仕方ありません、どうか両親と弟たちの命だけはっ、お見逃しください! わたしは………。わたしは」


 ひくっ、と息を詰まらせ、一度言葉を切ったあと、ミルキィベルはしっかりと座り直し、決意を込めた視線で王と目を合わせる。


「わたしは、処刑されてもかまいませんので」


 王の瞳が氷点下の冷たさを宿したが、ミルキィベルは震えながらも怯まずその目を見返す。


 場の全員が、彼女の覚悟に息を呑んだ。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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