6. 今度こそ断罪?
王様と第三王子登場!
(無言で統制の取れた王宮騎士もちょっと萌え)
「王子要らないですぅ」
「要らないの!?」
ミルキィベルとエリクシーラのその声は、いつの間にか静かになっていたホールに響き渡った。
「本当に要らないですぅー、っていうか王子妃とか絶対に無理ですぅー!」
わんわんと泣きながらミルキィベルは言い募る。
あっさり勝負がついたらしく、王太子にうつ伏せに押し伏せられていたカルルが、驚きに目を丸くしてミルキィベルを見ている。
王太子もエリクシーラの二人の兄も、同様に目を丸くしてミルキィベルとカルルを交互に見ていたが、シルヴァが弾かれたように笑い始め、王太子はカルルを押さえている反対の手で頭を抱えた。
「……お前………っ」
「そんなはずはない! 貴族令嬢なら王子妃を喜ばないはずがあるか!
そっ、そうだ、エリクシーラに無理に言わされているんだ! この悪女! ミルキィベルに何をした! 卑怯者!」
「なんということを……!!」
まあ! ついに悪女認定をいただきましたわ!
王太子が青筋を立ててカルルの腕を締め上げる中、エリクシーラは頬を染めて嬉しそうに眼をキラキラさせた。
「……お嬢様、何を喜んでいらっしゃるんですか」
「あっそうね、悪役令嬢らしくないわね」
リアムに小声で指摘され、エリクシーラは姿勢を正す。
「……だからその悪役令嬢ってなんですか……」
リアムがぼやいているが気にしない。今こそヒロインに意地悪をしなくては!
「オーッホッホッホ、そうですわ、わたくしが卑怯にもミルキィベル様に悪い事を色々したんですわ! お陰でミルキィベル様はもう第二王子殿下がご不要だそうです! さあ王子、怒ってよろしいのよ!」
「「「「えっ」」」」
全員が驚いてエリクシーラを見る。
皆の視線を集めて満足げに、さあ来い断罪! とばかりにエリクシーラは胸を張る。
「悪いコトを……イロイロ……?」
リアムが噛みしめるように繰り返す。
なによ、ぼんやりした言い方で悪かったわね! 具体的に悪い事が思いつかなかったんですもの!
「はいっ! わたしはもうエリクシーラ様のものですっ!」
ミルキィベルが話に乗ってきた。助けてほしい、と言うような、すがりつくような目でエリクシーラを見つめている。
「「「「ええっ!?」」」」
みんなが今度はミルキィベルに視線を移す。
「あれっ、そんな話でしたっけ?」
ヒロインを悪役令嬢のものにしてはダメなのでは? とエリクシーラは困惑する。
その時。驚きすぎて王太子の手元が緩んでしまったらしい、突然カルルが王太子の足元から転がり出て、エリクシーラに向かって走った。
「しまった……!」
振りほどかれてよろけた王太子の焦った声に、カルルの怒りに満ちた怒鳴り声が重なる。
「エリクシーラぁぁ!!」
カルルは掴みかかろうと手を伸ばす。
「物理攻撃ですの!?」
とエリクシーラが数歩下がる。即座にリアムが剣を抜いて間に割って入った。
「王族に剣を向けるか! 死にたいのか貴様!」
カルルは再び魔法を発動しようとする。
そこへ。
「よさんか!!」
ビリビリと響く圧力で、王の声がホールに反響した。
強い威圧にホール内の全員が動きを止める。
同時に、バラバラと王宮騎士が駆け込んできて、あっという間にカルルを制圧し、床に伏せさせた。
「離せっ! くぅ……、父上、なぜここに……」
カルルが目を上げた先、ホールの入口付近に、この国の国王、王子たちの父、ガイアス・グラン・ヒースフィールドが、黄金の髪を怒りに逆立ててカルルを睨むように立っていた。
武人系の体格のいい王に、鋭い眼光で貫かれ、カルルは麻痺したように動けなくなった。
「エリィ義姉様!」
騎士団の後ろから、第三王子が真っ直ぐエリクシーラのもとへ走ってくる。
「第三王子殿下!」
駆け寄ってきた第三王子は膝に両手をついて、はー、はー、と息を整える。
キラキラと光る、真っ直ぐに切り揃えられたプラチナゴールドの髪。後ろに一つに結われたそれが、わずかにほつれてサラサラと顔にかかる。
「もしかして、殿下が陛下を呼んできてくださったの? 王宮まで走って?」
「まさか」
第三王子は荒い息の合間にフフッと笑う。
「王家の緊急回線で連絡して、転移魔法で飛んできてもらいました。エリィ義姉様の危機だって言ったら父上もすぐに……」
そこまで言って、あ、と言葉を止める。
「もう義姉様ではなくなりますね、エリィ様、ボクは学園ではただの後輩です、第三王子ではなくシェインと呼んでください」
そして、ふー、と息をついて背すじを伸ばす。
「あー、父上を呼んでこなければと焦って飛び出したけど、カッコいいところを大兄様に取られた気がするなぁー」
「何を言っているの」
エリクシーラはクスッと笑う。
「陛下を呼んできてくれてありがとう。あなたにしかできなかったわ」
よしよし、とエリクシーラは彼女より少し背の低い彼の頭を撫でる。
「もー、まだ子ども扱いする!」
不満げに頬を膨らませてみせたシェインは、ふ、と笑う。
「エリィ様、雰囲気が柔らかくなりましたね。良かった。ずっと張り詰めていらっしゃったので、心配していたのです」
「まあ……」
そうだったのね。
周りを気にする暇もなかったエリクシーラは、シェインが見守っていてくれたことにも気づいていなかった。
わたくし、本当に余裕がなかったのね、と改めて気づく。
「ありがとう、シェイン様」
「いいえ、エリィ様。これからはどうかボクも頼りにしてください」
そんな話をしているうちに、王はゆっくりとホールの奥へ進み、騎士団を従えてこちらに向き直る。
壮年の偉丈夫なその姿は威圧的で、整った顔立ちもその威厳に柔らかさを加えはしない。
睨むように立つ王の前にカルルが引き立てられ、再び床に伏せさせられる。
王太子は王の横に立ち、シェインはエリクシーラをエスコートして王の前、カルルの後ろの方に離れて立ち、二人揃って一礼して跪く。リアムはさらにその後ろで剣をはずし、利き手側に置いて跪いた。
双子の兄たちもエリクシーラの隣に並ぼうとして、
「あらららら」
シルヴァが声を上げつつ、ミルキィベルの方に駆け寄る。
ミルキィベルは、カタカタと震えながらベッタリと床に伏せていた。
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次は来週の土曜になると思います。
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