2-3 ネタバレ禁止!
「バッドエンド……?」
エリクシーラが不思議そうに首を傾げる。
「うん! あ、もしかして原作あんまり覚えてない系、です? ほら、攻略失敗で帰国エンドとか、魔王討伐失敗で滅亡エンドとか……、あ、でもこれはヒロイン側のバッドエンド、です、ね。えっと、悪役令嬢側だと……、処刑エンドとか追放エンドとか、あ、追加コンテンツでエグい陵辱エンドとかあった、な?」
「りょっ……!」
ミルキィベルが青褪めて、エリクシーラを庇うように割って入る。
「ちょちょちょ、急に何を言い出してるんですか!」
「え……、あなた誰? なに役?」
抱きついていたエリクシーラから引き離され、ホルンは不満げにミルキィベルを見る。
「なに役ってなんですか、わたしはエリクシーラ様のお友達で」
「ミルキィベル様はヒロインですわ!」
不意にエリクシーラが、ミルキィベルの言葉を遮って高らかに宣言する。
「はあ?」
ホルンが眉をしかめ、顔を歪める。ヒッ、とミルキィベルが小さく悲鳴を上げた。
「ヒィッ! ややややや、やめてくださいエリクシーラ様! 話がややこしく……」
「どういう事、です? あんたも転生者? そんな地味なモブ顔で? あ、モブ転生なのに溺愛されてます系? 攻略対象、誰?」
「モブ顔っ……。いやまあ事実なんですけどっ……」
へこむミルキィベルに構わず、ホルンは一人で話を続けていく。
「まあ、推しがかぶってなければ、いい、ですよ。私は寛大なヒロインですから! で、推しは誰です? 正統派のジョエル王太子? 俺様カルル第二王子? 腹黒可愛いシェイン第三王子? それか双子のどっちか? 国王、神官長、癒し系王宮騎士とか、悪役令嬢のツンデレパパとかメンヘラサイコパス従者とか……」
「だだだだだ、ダメッ、だよっ、ホルンちゃん!」
マルデルが慌てて止めに入る。
「ダメ! まだプロローグも終わってないのに! しかも転生でナマモノ化してるのに! ご本人様に、ネタバレ、禁止っ!」
* * *
「……ヴァナランの言葉は難しいですね、わたくしまだまだ勉強が足りませんでした」
エリクシーラがおっとりと首を傾げる。
「いやー、ボクにもわかんないとこ多かったなぁ」
シルヴァが困ったように笑う。
フローディル王子がゲラゲラと笑い転げている。王太子がそれを睨んだ。
「笑っていないで、彼女が言っていたのはどういう意味か、ご説明願えますか、フローディル王子」
「おお、ジョエル、ホルンは面白いだろう? 連れてきた甲斐があったってもんだ。意味は俺にも分かんないんだけどね」
「フローディル王子にもわからないんですか?」
不審げに眉をひそめた王太子に、フローディルは軽く肩をすくめてみせた。
「ディルって呼んでくれよ、まどろっこしい。……あのふたりは一度死にかかってからここ数年、様子がおかしいんだ。毒に頭がやられちまったのかもな」
「…………なるほど」
隣国は後継者争いが酷い。王女といえども暗殺のターゲットから外れることはないらしい。それとも、フローディルとは同母の兄妹だそうだから、兄の暗殺に巻き込まれでもしたのだろうか。
考え込む王太子をちらりと見て、軽い苦笑を口の端に浮かべたフローディルは、
「……ま、そんなわけだから国に置いてくるわけにもいかなくてね。迷惑をかけるかもしれないけど、よろしく頼むよ」
と言うとホルンたちの方へ目を向け、
「……聖女様たちにも、仲良くしてもらえると嬉しいな」
と付け加えた。
* * *
「……ミルキィベル様」
「はいっ!?」
妙な殺気に身をすくめたミルキィベルは、慌てて声の主を振り返る。
剣の柄に手を乗せて、据わった目でホルンたちを見ているサイコパス従者がそこに居た。
「り、リアムさん……?」
「寡聞にして浅学な私にお教えいただけないでしょうか。メンヘラサイコパスとは、どういう意味でしょう?」
「な、なんでわたしに聞くんです……?」
「流れ的に、いわゆる『乙女系小説』とやらの用語ではないんですか?」
「そ、そうだとしてなぜわたしに……」
「なにかご存知な顔をしていたので」
「どんな顔!?」
「……なにか悪口を言われた気がするんですよ」
「あっ……、ち、違います!」
そこからしばらく、ミルキィベルはリアムにせっせと言葉の意味を説明することになった。
* * *
「ホルン殿下、あの……」
「ホルンでいいよ、悪役令嬢!」
「はい、ではホルン様、わたくしもエリクシーラとお呼びください」
「わかった! エリクシーラちゃん!」
「『ちゃん』……」
横で聞いていた王太子がポツリとつぶやき、フローディルが
「おお、さっそく仲良くしてくれてありがたいよ、エリクシーラ!」
と拍手をする。
エリクシーラがそちらを振り向き、
「恐れ入ります、こちらこそ、仲良くしていただくのは身に余る光栄です」
と頭を下げたあと、ホルンに向き直る。
「あの、わたくしが悪役令嬢なのは間違いないのですが、悪役なのに王太子殿下と婚約するべきなのですか?」
「ん゙っ」
とどこかから変な声がした。
王太子の方から聞こえてきた気がするが気のせいだろう。エリクシーラはそのままホルンに話しかける。
「略奪とかおっしゃってましたが、今なら殿下は婚約者がいらっしゃいません。お父上の公王にお願いして、普通にご婚約を結ばれたらいかがです?」
「わかってないなあ、エリクシーラちゃん!」
チッチッチ、と舌を鳴らしながらホルンは立てた指を左右に振る。
「ちゃんとストーリー通りに進めないと、みんな不幸になるんだよ」
「不幸に?」
「うん! ヒロインが戦力を結集しないと、魔王が蘇って、世界が滅ぼされるからね!」
* * *
そんな話が繰り広げられている傍ら、ミルキィベルの説明を聞き終わったリアムは、眉間にしわを寄せた。
「……なんでそれで悪口じゃないって言えるんですか」
「悪口じゃないですよ! 萌えです、萌え!」
「『萌え』……」
「執着するように愛されたい勢は一定数いるんですよ! エリクシーラ様みたいにイケメンに仕えられたいというか!」
鼻息の荒いミルキィベルに、リアムは首を傾げてみせる。
「……俺はエリクシーラ様を愛しているわけじゃないんですけどね」
「えっ」
「エリクシーラ様は主人です、お仕えする方です。愛しているとかいないとか言う話ではないですよ」
「えっ」
「『執着』……と言えなくもないですが、そこに含まれる束縛的な意味はしっくりこないですね」
「そうなの!? 一生側にいる的な話だったのでは!?」
「そうですね? お側にいて、命に代えてもお守りしますが?」
何を当たり前のことを、という顔をリアムはする。
「え、命に代えてもって……」
「そりゃそうですよ。俺の命とエリクシーラ様のお命なら格段にエリクシーラ様のほうが価値があるので、俺の命程度で盾になれるならありがたいことです。むしろそうしてお守りできるなら神に感謝しかないですね」
「あー……」
ミルキィベルはため息を吐く。
「そういうトコがメンヘラサイコパスって言われるんじゃない……?」
「そうですか? 従者ならだいたいみんなそんな感じだと思いますが」
「えー……。上流社会コワイ……」
ミルキィベルは眉尻を下げて身を震わせる。
「そんなことより、つまりそんな俺が、エリクシーラ様を捨てて、どこぞのヒロインの攻略対象になるって言ってるんですよね? これは侮辱ですね」
「ヒッ」
怒っている気配なのににこりと笑ったリアムから、ミルキィベルは距離を取るように後ろに下がる。
そして、ドン、とマルデルに背中からぶつかった。
「あっ、ごめんなさい!」
慌てて謝ったミルキィベルに、マルデルはふるふると頭を振って気にしていないことを示したあと、
「……あの、い、癒しの聖女様、そちらの方と、その、仲良しなんですか?」
と上目遣いに細い声で聞いてくる。
「えっ? ええ、まあ、同じお屋敷にいますから、ある程度は……」
「同じお屋敷!! 同棲してるんですか!?!?」
きゃーっ、とマルデルが急に甲高い声で叫んだ。
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