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わたくしの涙は聖石になりますが、悪役令嬢なので泣きません!  作者: 青風ぱふぃん
第二章

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2-1.異国からの訪問者

「私を連れてくるな!」

 学園の門の前、ミルキィベルの腕に抱えられたファーヴニルが文句を言う。


 猫くらいの大きさの、コウモリの翼を持つこの黒いドラゴンは、つい先日に人間の国を滅ぼそうとしたばかりの悪竜であり、……今は聖女の補佐をする聖獣として、『ファーヴァ様』と呼ばれ国民から大人気を博している。


「ファーヴァちゃん、いい子にしていないといけませんよ」

 ふわふわとしたミルクティ色の髪の、可愛らしい少女が言う。回復の聖女と名高いミルキィベル・スイートベリー侯爵令嬢である。


「だから、なんで私もこう毎日毎日学園に来なければならんのかと聞いている!」

「あら、わたくしたちが登園するんですもの、ファーヴァも一緒に来ますでしょう?」

 癖のない艶かな黒髪をさらりと揺らし、美しい少女が小首を傾げる。守護の聖女と呼ばれるエリクシーラ・クレイ公爵令嬢である。

「だから……! ああもう! 話にならん!」


 なぜか……というか聖獣なので、ファーヴァは学校への出入りが許されていた。

 許されていると言うか、『聖獣様のご訪問は栄誉あること』なので、むしろ歓迎されていた。


 生徒たちにも大人気で、行けばチヤホヤされるのだが、常に崇拝の目で見られ、撫で回され、追いかけ回されるのはうんざりである。

 肉だのお菓子だの、美味しいものが次々と差し入れられてくるのはまあ……、うん、許容範囲ではあるが。

 だが。


「私は! 学園の! 治安を乱した悪竜だぞ! なんで歓迎されとるんだ!」

「なんでだろうね?」

 ミルキィベルが一緒に不思議がる。ファーヴァはがくりと脱力した。


「なんでも、『貴族としての心得の悪い者が聖獣によって炙り出された。若き新芽たちに神は改心の機会をお与えくださった』とかなんとか神官長がゴリ押ししたそうですよ」

 と、エリクシーラに付き従っている護衛騎士のリアムが言う。

「善良な生徒が聖獣によって魔族の悪意から守られていた、乱心した者は心に隙があった、と言う解釈のようです」


「あの腹黒神官長……」

 吐き捨てるようにファーヴァが呟く。

「俺の養父の悪口を言わないでください、お祖父様」

「やかましいわ、裏切者」

「裏切ってはいないです、俺は最初から最後までただエリクシーラお嬢様だけの味方です」


 青髪の騎士、リアムは、エリクシーラの乳兄弟である。神官長の下で幼い頃から聖騎士の修行を積み、戻ってきてエリクシーラの護衛騎士となった。

 その流れで、父親の居ないリアムは、神官長を後見人……養い親としている。

 さらに、先日判明した事実だが、ファーヴァが彼の祖父であった。

 つまり、リアムは魔族の混血クォーターだ。

 だがそれが判明した以降も、彼はそれを気にする気配もなく、今までどおり飄々とエリクシーラの護衛騎士を続けている。


 ちなみに、ミルキィベルには先日までアレイズという王宮騎士が護衛に付けられていたが、いつまでも王宮騎士を借りているわけにもいかないので、今はスイートベリー家のほうで女性騎士を雇い、護衛につけていた。


 アレイズは今、出世のためにせっせと騎士団の任務に励んでいるそうである。


   *   *   *


 さて。

 エリクシーラ一行がわいわいとじゃれ合いながら馬車付き場からの小路を辿り、学園の門を潜った頃。


 門から校舎までの前庭では、また別の騒ぎが巻き起こっていた。


「あら、王太子様がいらしてるわ」

「キャーッ、『金緑の双子』もおいでだわ!」

「えっ、ご一緒されているあの素敵なお方、誰ですの?」

 女生徒たちがさわさわとざわめく。


「ご存知ないの? 隣国ヴァナランの第五王子殿下が今日から留学していらしたのよ」

「ああ! 聞いたことあります、あれ今日だったんですね」

「危険の無いよう詳細な日程は伏せられていましたものね」

「あの国は王家の後継者争いの真っ最中ですもの、どんなに警戒しても警戒しすぎることはないですわ」

「そうでしたわね」

「大変ですこと……」

「そう! 大変なの、です!」

「「「えっ」」」


 不意に、明るく元気な声が会話に参加する。

 皆が声の方にパッと振り向くと、そこには、どこからどう見ても文句無しの美少女が、肩までのピンク色の髪を風に煽らせながらニコニコと立っていた。

 白を基調としたふわふわの可愛いドレスが、ピンクの髪と金色の目によく似合っている。

 ドレスは生地も仕立ても良く、家柄の高さを感じさせる。仕草も淑女教育を受けた優雅さが端々に表れているが、元気さが先に立って、お淑やかとはちょっと言い難い活発な雰囲気だ。

 しかしそこに不快感はなく、人懐っこい可愛いさがあった。


「フローディル第五お兄様は有力な後継者候補だから、慕う者も多い分、敵もモリモリなの、です!」

 うんうんっ、と自分の言葉に自分で頷く。


「でもディル兄様を素敵って言ってくれて、私、嬉しかったよ、です! 1年だけの留学ですが、私たち共々ぜひ仲良くしてくださいっ、です!」


「え……?」

「ど、どちら様……?」

 令嬢たちが戸惑っていると、どこからともなくささやくような声がした。

「ほ、ホルンちゃん……、ちゃんと挨拶しないとダメ……だよ……」

 えっ、と思ってよく見れば、ホルンと呼ばれたピンク髪の子の後ろに、同じピンク髪の少女がひっそりと立っていた。


 双子だろうか、とても良く似ている。

 ホルンと同じデザインの色違いで、黒いドレスを着ていた。


 ホルンと呼ばれた元気な方の髪色が少し濃く、金色の目がキラキラとして、見る者の心も明るくなるようだ。前髪に様々な色のヘアピンをいつくも付けており、それがホルンの明るい雰囲気によく似合っている。


 もうひとりの方は、おどおどと不安げにホルンに寄り添っている。

 髪色はホルンより淡く、薄いピンクから毛先に向かって色がわずかに濃くなっており、毛先の方でやっとホルンと同じくらいの色になっている。目の色も淡く、金色と言うよりプラチナゴールドだ。


 その自信なさげな態度と相まって、全体的に影の薄い少女だった。


「ちゃ、ちゃんとご挨拶しないとディル兄様に恥をかかせちゃう……よ……、あ、でもボクなんかが外に出たほうが兄様の恥かな……、そうだ今すぐ国に帰ろう、うん今すぐ帰って城に引きこもろうそうしようああ早く早くねえホルンちゃん早く帰ろう」


「え……?」

 と周囲の女生徒が戸惑いの声を上げる。

「ぼ、ボク?」

「男の子ですの?」

「いえ、どう見ても女の子ですわ」

 ヒソヒソと囁かれて、少女はオロオロとする。

「あ、あの、ボク、あの……」

「マルデルは、女の子だよ! あ、女の子、です!」

 ホルンがもうひとりの少女を庇うようにして声を高める。


 その時。


「こーらお前たち、何やってんの」

 不意に後ろから肩に抱きつかれ、ホルンは跳ね上がるように振り返る。

「マルデル、ホルン、よその国のお姫様たちに喧嘩売ったらダメでしょー?」

「ディル兄様!」


 いつの間に近くに来ていたのか、隣国の王子と自国の王太子、それに、金緑の双子と呼ばれるエリクシーラの兄たちが、揃ってふたりの少女の後ろに立っている。

「お、王太子殿下! ご挨拶申し上げます!」

「ヴァナラン公国の王子殿下、ご挨拶申し上げます」

 女生徒たちが一斉に礼を取る。


「はいはーい、ありがとう。迷惑かけてごめんね、この子は僕の下の兄弟……えーと、ジョエル、下の兄弟ってなんて言うの?」

 ディル王子は王太子の方へクリッと振り返る。


 この王子は挙動がいちいち大袈裟である。

 背は王太子より少し高い程度だが、長い手足を大きく使い、存在感を高める動きが上手い。

 今も顔だけでなく上半身もしなやかによじり、腕を広げるようにして王太子を振り向いた。


 ピンクの髪と金の目は妹と同じはずだが、それが可愛らしさよりも強さを感じさせるのは、その瞳に宿る野心のせいだろう。

 油断ならないな、と王太子は、微笑みの裏でぐっと気合を入れ直した。


「妹……ですね」

「ふうん、ありがとうー。えっと、妹なので、よろしく! 僕もだけど、この子たちもまだこの国の言葉に慣れてなくてさ。頑張って勉強中だから、長い目で見てやって!」

 ばちん、とウインクした王子に、幾人かの女生徒たちは思わずポーッとなる。

「は、はい……」

「もちろんです、仲良くしていただければ嬉しく思います」

 地位の高い家の令嬢たちはぐっと背筋を伸ばして優雅な笑みを浮かべたが、その笑顔の裏に動揺が見える。


「うちの令嬢たちを誘惑しないでくださいよ、フローディル殿下」

 軽い調子で、金緑の双子の弟のほうが笑いながら言う。エリクシーラの二番目の兄、シルヴァレッドだ。

「みんな婚約者がいるんですからね、婚約破棄騒動はトラウマなので、もうごめんですよー」

 シルヴァは目元に手を当て、よよよ、と泣き真似をする。

 本来ならだいぶ失礼な物言いだが、人好きのするシルヴァならではの諫言かんげんである。


「ああ、ごめんごめん、僕イケメンだからね、無意識に色気が出ちゃったかぁー」

 ウインクは全然無意識ではないと思うが、王子は悪びれもせずヘラヘラと答える。

 一方、『婚約破棄』の言葉に、令嬢たちはハッと気を引き締めた。


 その時。


「あっ!!」

 不意にホルンが目を見開く。

 煌めく金色の目が、より一層明るく輝く。

 視線の先には、エリクシーラとミルキィベル。


「聖女様だぁ!」


 ホルンは、止める間もなく一直線に駆け出した。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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 次もよろしくお願いします!

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