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32. 襲撃の後始末

戦いの後始末。

楽しいイケメン要素足りないなと思ったので、双子をほんのちょっとだけじゃれさせました。要らん要素。仲良し兄弟書きたかっただけ。

 王太子は、シェインが連れてきていた騎士の案内で、近衛騎士団と共に温室に駆けつけてきた。


 そして、そこで拘束された弟と、重傷を負った二番目の弟を見た。


「シェイン!!」

「殿下! すみません、治癒術師をお願いします!」

 シルヴァの言葉に応え、騎士団の治癒術師がすぐに前へ出てシェインの応急処置をし、急ぎ王宮へと運ぶよう指示を出す。

 シェインが連れて行かれるのを見送って、王太子はカルルに向き直った。

 カルルは、口元まで拘束されてなお瞳を怒りに燃やし、王太子を睨みつけている。


「……お前は何をやっているんだ!!」

 王太子はカルルに怒鳴り、殴りつけようと拳を振り上げる。

 その腕を、いつの間にか駆け寄ってきていたレオンに止められた。


「……父の拘束結界は触れるとケガをするぞ」

 非難ではなくやんわりと言われ、食いしばった歯を緩めた王太子は、震える息で深呼吸をして拳の力を抜く。

「……そうだな、感情に呑まれてはいかんな……。礼を言う」

 もう一度息を吐いて、くうを見る。


 そこへ、公爵が戻ってきた。

「殿下、ご到着でしたか」

 と軽く会釈をしたあと、レオンへ向き直る。

「残党は五人、くくって転がしておいた。あと、エリクシーラとリアムが見つからない」

「はい?」

 シェインを騎士に任せた後、周辺の板状結界プレートに挟まっている兵士たちにふわりとした拘束結界を掛けて回っていたシルヴァが、その言葉を聞き咎めて駆け寄ってくる。


「いくら広いとは言え温室内ですよ?」

 言いながらシルヴァが糸のような結界をふわっと広げ、周囲に伸ばす。ところどころでパチン、パチンと音がして、そのたびにシルヴァがいてて、と呟いた。

「父上の結界にひっかかって切れるなぁ、見えにくいけど……。……温室にも周辺にも居ないっぽいですね……、どこに行ったんだリアム……」

 と首を傾げる。

「さあな……。エリクシーラを守るとなったら徹底的に守るだろうから、本館の居室まで逃げ込んでいる可能性はあるな」

「あー、居室だと各部屋にも結界張ってあるからなぁ、ちょっと手間だな。父上、本館の各部屋も確認しますか?」

「いや……、クレイの守護が発動した気配もないし、リアムが一緒なら大丈夫だろう。そんなことより兵士の搬出を手伝え、私の拘束結界はこのままでは他の誰も触れない」

「あ、はい!」


 エリクシーラに関する会話はこの場ではそこまでとなり、あとは喫緊きっきんの対応についての話になった。


   *   *   *


 まずはカルルを連行しようということで、公爵がカルルを引き起こした。


 拘束結界を編み直して手首にだけ巻きつけ、シルヴァがカルルの全身をふんわりと自分の結界で覆う。


「殿下、結界の内側で炎魔法を使うとご自身が火傷しますからね、大人しくしてください」

 シルヴァがカルルに警告し、近衛騎士に連行するよう合図する。 


「殿下、失礼いたします」

「触れるな! 離せ!」

 騎士に腕を掴まれ、カルルは抵抗する。


 そこへ、唐突に執事が飛び込んできた。


「公爵様! 城門前に侯爵家の騎兵隊が!!」


「なんだと!?」


「今朝お出でになっていたケニー様のお父上の侯爵様が、ご子息を拉致監禁した公爵様を出せ、王家に対する反逆について弁明しろと、大声でご糾弾されていらっしゃいます」


「……この忙しいときに!!」


 公爵がガツンと足を踏み鳴らす。


 この状況に、騎士たちが顔を見合わせる。その時。

「あっ!」

 ボッ、とカルルが炎を出し、騎士が驚きの声を上げる。

 その炎はシルヴァの張った結界の中で渦巻き、カルル自身を焼く。


「……馬鹿なことを!!」

  シルヴァがすぐに結界を解く。騎士たちも慌てて火を消そうとカルルの服をはたき、水魔法で出した水をかける。

 その瞬間、カルルはにやっと笑い、服に炎を残したまま騎士を振り切って走りだす。


「うわっ」

「殿下! お待ち下さい!」


 慌てて追いすがる騎士を炎で牽制しながら、カルルは温室の出口めがけて真っ直ぐに走る。


 その道を遮るように、突然、目の前にファーヴァが飛び出して来た。


   *   *   *


「アレイズ様……、ファーヴァちゃんどこ行っちゃったんでしょう……」

 ミルキィベルが悲しそうに言う。

 

 公爵が探しに来た時、ミルキィベルとアレイズのふたりはすぐに姿を現した。

 だが、カルルがまだ広場あたりに転がされている以上、ミルキィベルを連れて出ていくのは得策ではない。

 公爵の指示で、近くのベンチでカルルが連れ出されるのを待っていた。


「ファーヴァちゃん、気がついたらいなくなってて……」

「うーん、ごめんね、急に抱えて走っちゃったからねぇ……」

 アレイズが申し訳なさそうに答える。


「ファーヴァにまで気を配れなかったから、いつ居なくなったかオレにもわからないんだよ」

「そうですよね……、いえ、アレイズ様は悪くないです、助けてくださってありがとうござ……」

不意にミルキィベルがハッとしたように言葉を止め、アレイズの肩越しに遠くを見る。


「ファーヴァちゃん!?」

「えっ?」

 アレイズがミルキィベルの視線の先を追うと、温室の入り口の方から、ファーヴァがどこかへ走って行くのが見えた。


 そのまま、向こうの植え込みの影に駆け込んで見えなくなった直後、


「ギャンッ!!」

 ファーヴァの悲鳴が響いてきた。


   *   *   *


 急に飛びかかってきたファーヴァを、カルルは咄嗟に縛られたままの腕で叩き落とす。


「ギャンッ!!」

 ファーヴァは地面に叩きつけられ、悲鳴を上げる。


「なんだっ、貴様!」

 カルルはファーヴァを睨み、ファーヴァもカルルを睨み返す。

「フーッ!」

 よろりと立ち上がり、牙を剥き出して威嚇したファーヴァとカルルの間に何か火花のようなものが散った。

「ギャッ」

 ファーヴァが再び悲鳴を上げ、弾かれたように倒れる。と見るや、カルルが不意に意識を失ってぐらりと倒れ込む。


「殿下!」


 場が騒然とする中、ファーヴァはいつの間にか姿を消していた。

 

   *   *   *


 数瞬の後、目覚めたカルルはぼんやりとしていた。

 先ほどまでの攻撃的な様子は鳴りを潜め、なぜ自分がここにいるのかも理解できない様子だった。

 あちこちに火傷のあるカルルを騎士団が大慌てで応急処置し、王宮へと連れ帰る。

 カルルの様子が気にはなるが、そのあたりは王宮に任せることにして、城門の侯爵家への対応に、公爵本人があたることにした。


「父上が出ることはありません、私が対応します」

 とレオンが言ったが、

「いや、向こうは候爵本人が来ているのだろう?」

 その問いかけに、執事がこくこくと頷く。

「ならば私が行こう、ご子息の学園での様子について、みっちりしっかりたっっっぷり丁寧に話し合わんとな」

 ボキボキッ、と指を鳴らしつつ公爵が言う。

 そのまま出口へと向かいかけた公爵を、シルヴァが呼び止めた。


「なんだ。殴るなと言うなら聞かんぞ」

「殴る気なんですか、やめてください! 僕らもこちらの目処がついたらそちらに合流しますから、それまで耐えてくださいね! ……いえ、それはそれとして、父上、板状結界を割ってから行ってください、兵士たちには僕の拘束結界をかけましたので」

「む、勝手に割っていいぞ」

「出来ませんよ! 僕が割れるのはレオンの結界くらいです、父上の結界は硬すぎます」

「そうか」

 言いながら、ちら、と公爵が目をやると、カシャーン! と澄んだ音を立てて結界が一枚割れた。

 そのまま流れるようにその先まで、連続でパパパパパッとヒビが入り、次々と割れる。シャリリリリィ…………ン、と、尾を引くように音が響いて消えた。


 その光景を見ながら、レオンがシルヴァにささやく。

「……私の結界が父に及ばないほどもろいと言ったか?」

「そんなこと言ってないでしょ! レオンの結界は質が同じだから操作しやすいの!」

「ふふん……。いつかお前にも割れないくらい強化してやるからな、そうしたら勝負しよう」

「やめてよ面倒くさい! ……どうせ僕に秒で追い越されるだけでしょ」

 ヒソヒソと言い合いながら目を見交わし、ふたりでニッと笑う。


 そこへ、

「まだ終わっておらんぞ! 気を緩めるな!」

「「はいっ!」」

 公爵の罵声が飛んできて、双子はパッと離れ、それぞれの仕事へ向かった。


   *   *   *


「ミルキィベルちゃん、カルル殿下はもう運び出されたよー、お部屋に戻っていいよ」

「シルヴァ様!」

 ひょこっと現れたシルヴァに、ミルキィベルは縋り付くように叫んだ。

「ファーヴァちゃんは! 悲鳴が聞こえたの、ファーヴァちゃんは大丈夫?」

「あー……」

 シルヴァは困った声を出す。

「殿下とちょっと揉めたみたいになったんだけど、いつの間にかどっか行っちゃったんだよねー……、ごめんね分かんないや」

「ファーヴァちゃん……」

 ミルキィベルは心配そうにしながら、アレイズに付き添われて部屋へ戻っていった。


   *   *   *


 騒ぎに乗じて、神官用の東門からするりと城外に出たリアムは、気を失ったままのエリクシーラをマントに包み、そっと森に入って身を潜める。


 東門の結界は朝のケニーの騒ぎで解除されたまま、警備兵が立っていたが、その兵たちも温室の襲撃に加わって居なくなっており、一時的に無警戒になっていた。

 すぐに王宮騎士たちが駆けつけ、城の周りも警戒体制が敷かれたのだが、その直前の隙を上手くついたリアムは、誰にも咎められず東門を抜け、森に入ることに成功した。

 そしてそのまま、城の内外を動き回っている騎士たちの隙を伺いながら、少しずつ森の奥へ移動していく。


 その時、城門の方から微かに騒ぐ声が響いてきた。リアムは一旦動きを止め、気配を消してその声にしばらく耳を傾ける。


「なるほど……、愚かな候爵は息子に騙されてここまで乗り込んできたのか、笑えるな。洗脳をかけられたわけでもないのに。……息子と違って」


 ふっ、と頬に嘲笑を浮かべたあと、ふと何かの気配を感じて目線を上げる。

 藪の中から、カサリ、と微かな音を立てて、ファーヴァが顔を出す。


「あれ、城から出られないはずなのに、首輪はどうしたんですかファーヴァ。公爵家か王族じゃないと外せないでしょアレ」


 リアムの言葉に、ファーヴァは、まるで笑うかのように口角を引き上げたように見えた。

 いや、唸るか噛み付くかしようとしたのだろう、口の中の赤を見せて、ファーヴァはカッと口を開く。


 その瞬間。


「やあ、ここでしたか」

 神官長が、ひょこりと木陰から顔を出す。

 唐突に現れた神官長に、ファーヴァもリアムも驚いてビクッとする。


「おやおや、ファーヴァくんも一緒ですか、願ったりかなったりですね。さあ、こちらへどうぞ」


 指さす小路の先、地味な神殿の馬車がひっそりと停められていた。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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