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21. 聖獣、本領発揮?

イケメン書くのが楽しすぎて放置されていたファーヴァちゃん、やっと働き始めました。


今週2話更新の1話目です。

 ファーヴァの鳴き声で一瞬議論が止まり、皆がミルキィベルを振り向いた。

「あっ、なんでもないです、お邪魔してすみません……、いえ……、このついでに一点だけ良いですか?」

「かまわん、なんだ」

 公爵が答える。そのぶっきらぼうな言い方にミルキィベルがビクッとし、エリクシーラが口を尖らせ公爵を睨みつけた。

「あー……、うむ、遠慮なく話してくれたまえ伯爵令嬢」

 エリクシーラの目線を受けて、公爵は軽く咳払いをして言いなおす。エリクシーラがにっこりと笑った。

「どうぞ、ミルキィベル様」

「はい、あの、予知能力とか聞こえましたが、この物語には現実と重大な齟齬そごがあります」

「ほう……?」


「つまり、何をどうやってもどうまかり間違っても、わたしとカルル様で魔王が倒せるとは思えないのです」


「「「確かに!!!」」」


 全会一致の賛同を得た。

 その声に驚いてか、ファーヴァがニャーッと鳴いた。


「そんな事ありませんわミルキィベル様、大丈夫です、きっとミルキィベル様ならパーッとピカーッと何かの魔法が発動して、魔王がキャーッて逃げていきますわ!」

曖昧あいまい!! そしてそんな励ましはいらないです!」


「私が勝てない魔王にカルルが勝てるとは思えないな……。私はどのようにやられたのだ?」

 王太子の問いに、エリクシーラが人差し指を顎に当て、首を傾げる。

「えーと……、『魔王に立ち向かった王太子の軍は壊滅し、代わりに王太子となったカルルは……』程度の記述でした」

「………………私の扱い……ッッ!!」

 ググッとテーブルの上で拳を握り込み、王太子は顔を伏せて肩を震わせる。その肩をポンポンとレオンが慰めるように叩いた。

「ボクは? ボクは活躍しないの?」

「シェイン様は名前くらいしか出てこなかったですね」

「なんでぇぇ??」

「学園生活のときにちょっとイヤミを言って去っていく、くらいの役割はあったかもしれません、よく覚えてないですけど……。

 あ、バッドエンドの時に死亡描写はあったかもしれません」

「ひどくない!?」

 涙目になったシェインを、こちらはシルヴァがポンポンして慰める。

 その横を、リアムがしらっとお茶を注いで回っていた。


「なんにしろ、予知や予言の可能性は薄くなったな。……いや待て、念の為、スイートベリー伯爵令嬢、実力を確認させてくれるか」

 淹れ直してもらった甘いお茶を口にしながら幸せそうにしているミルキィベルに、公爵が言う。

「えっはい、もちろん構いませんが」

「では庭の鍛錬場へ行くぞ。あそこなら結界も張ってあるし、どんな爆発力でも周囲に被害はない」

「治癒魔法に爆発力なんかないですよ!?」

「治癒魔法以外もひと通り確認したい。構わないか?」

「うー、はい、良いですけど、治癒魔法以外はゴミですよわたし」

「あくまで念の為だ、協力して欲しいが」

「あっ……はい! もちろんです! なんの異議もありません!」

 口答えをしたみたいになった! と気が付いたミルキィベルは、慌てて背筋を伸ばしてカップを置き、はっきりと返答する。カップは皿に当たってカシャンと音を立て、ヒィッ、とミルキィベルが小さく声を上げる。

「音立てちゃっ……、あっ、ご無礼をいたしましっ、たっ?」

 混乱しているミルキィベルに、シルヴァがクスクス笑い、レオンに肘でつつかれていた。


   *   *   *


「本当に大丈夫かい、ミルキィ」

「大丈夫ですってば、アレイズ様。わたし学園で色々訓練したんですよ!」

「訓練で……治るのかなぁ……『大雑把』と『不器用』……」

 鍛錬場へ向かう途中、アレイズが心配そうにミルキィベルと話している。


「アレイズ様はミルキィベル様が心配なのですね」

 ニコニコと微笑ましくエリクシーラはふたりを眺めながら言う。

「過保護なんですよ、もうっ」

 ミルキィベルはアレイズから離れ、エリクシーラのそばに寄る。エリクシーラは、声を潜めてミルキィベルに話しかけた。

「……アレイズ様は対象外ですの? 子爵家ご子息でしょう?」

 きょとん、と目を丸くしたミルキィベルは、次いで笑い出す。

「アレイズ様はおにいちゃんなので! あと、領地に婚約者がいるはずです」

 ミルキィベルが声を潜ませなかったので、アレイズにも聞こえたようだ。


「あ、オレの話ですか、そうですね、領地に想い人が居ます。

 オレは子爵家三男で何も持ってないので、王宮騎士としてきちんと立場を確立したら迎えに行って、プロポーズするんです」

 アレイズはへにゃっと笑う。


「あれっ、まだ婚約してなかったっけ」

「うん、まだだよ」

「そっか、そうだっけ?」

「とっても可愛くていい子だから、オレ、絶対に大切に守るって決めてるんだ。ミルキィもあの子知ってるだろ?」

「えっ? いえ、あんまり……」

「そうだっけ? 小さい頃一緒に遊んだと思うけど」

「小さすぎて覚えてないかなぁ……。いいなー、わたしもそんなふうに大切って言ってくれる人と出会いたい!」

「ミルキィなら大丈夫だよ」

「そうですわ!」

 エリクシーラが口を挟む。

「わたくしが必ず良い人を見つけて差し上げます!」


 そのまま、幼馴染の会話にエリクシーラも参加し、楽しく笑い合っているうちに鍛錬場へ着いた。


   *   *   *


 鍛錬場は城の回廊から繋がって、裏庭に出たところにあった。広く高い壁に囲まれ、芝が敷き詰められている中に何ヶ所か、丸く土の露出したところがある。


 他には、近くに打ち込み用の人形、遠くに矢のまとなどが見える。池があったり、岩がゴロゴロ積まれたところもあった。


「ひろーい!」

「色々な鍛錬に使えるようになっているんだ。王城は規模が違うからね、すごいよね」


 こっちが剣で、あっちが弓で……どんな地形でも動けるように……など、アレイズの説明にミルキィベルが感心していると、池の方から公爵に呼ばれた。

「スイートベリー伯爵令嬢!」

「はいっ!」

 と右手を上げて元気よく返事をし、公爵のもとへ駆け寄る。


「こちらが魔法の鍛錬区域だ」

「はいっ!」

「掛け声をかけるので、言われた魔法を順次発動し、まとに向かって撃て。池も、消えない松明もあるので、必要なときは使うように」

「はいっ!」


「ミルキィ、手順はわかる?」

 ミルキィベルの手からファーヴァを受け取りながら、アレイズがそっと耳打ちする。

「大丈夫です、似たようなことを学園でやってます」

「そう……、気をつけてね」

 アレイズが離れると同時に公爵が掛け声をかける。


「ではまず火!」

「はいっ!」


 ……………。


 鍛錬場に沈黙が落ちる。


「あ、あれっ?」

「……火は使えないか?」

「いえ、そんなはずは……あれっ?」

 そこへ、アレイズの腕から逃げ出してファーヴァが駆け込んで来る。

「わっ、ダメだよファーヴァ!」

「あっ、ファーヴァちゃん危ないですよ、向こうへ……」

 ミルキィベルがそっとファーヴァに手を差し伸べたとき。


 ボンッ!!


 と大きな音がして、ミルキィベルの手から巨大な炎が吹き出し、ファーヴァが炎に包まれた。


 咄嗟にアレイズがミルキィベルを肩に担ぐように抱いて火から飛び退ずさり、同時にガガガッ! という音とともに複数の板状の結界が地面に刺さる。


「キャーッ!! ファーヴァちゃん! ファーヴァちゃん!! 離しておにいちゃん! ファーヴァちゃんが!!」

「大丈夫だよミルキィ、ちゃんと見て」

「えっ」

 炎は結界に囲まれ、大きな丸い玉のようになってそこに留まり続けている。よく見れば、その中央で、ファーヴァは平然と身づくろいをしている。ペロペロと手先を舐めていたファーヴァは、視線に気がついてミルキィベルを見やり、嬉しそうにニャーン、と鳴いた。


「えっ……、だ、大丈夫なんですかファーヴァちゃん……」

「ニャーン」

 ファーヴァが虹色の光りに包まれているのを指し示して、アレイズが頷いた。

「エリクシーラ様の結界があるからだね」

「あっそっか!」


 そのファーヴァの様子を見ながら、公爵がミルキィベルに声を掛ける。

「……伯爵令嬢、結界を解く。炎を消せるか」

「あっ、はい! でも今までこんなに大きな炎が出たことないんですよね……。消せるかな……。よっ、こら、せっ!」

 伯爵令嬢らしからぬ掛け声で、ミルキィベルは炎へ向かって両手を突き出す。それとタイミングを合わせて、結界がガラスのように澄んだ音を立てて砕け散り、ミルキィベルは炎に宿っている魔力を巻き取るようにして身の内に戻す。

 すうっ、と炎が小さくなり、やがて消えた。


「出来ました!」

「よし。……ふむ、魔力を回収していたな。となると、この炎は魔獣のものではなく伯爵令嬢の魔法ということで良いのだろうか」


 火の消えたファーヴァは、ピョンとミルキィベルの腕の中に飛び込む。


「ファーヴァちゃん、本当に大丈夫なんですか?」

「ニャーン」

「ケガひとつありませんね、良かったぁ」

 ミルキィベルはファーヴァをギュッと抱きしめる。

「火を出すの手伝いに来てくれたんですね、ありがとうファーヴァちゃん」

 それを公爵が聞きとがめた。


「伯爵令嬢、どういう意味だ」

 公爵の物言いに慣れてきたミルキィベルは、ニコッと笑って答える。

「今ですね、火が出なくて困っていたんですけど、ファーヴァちゃんと目が合った途端、身体の内からブワッて魔力が呼び起こされたんです」

 ミルキィベルは、ファーヴァを掲げ上げる。

「ファーヴァちゃんと何か線がつながったみたいな感じがして、ドッと魔力が溢れ出しました!」


「そんなことが……?」

「この魔獣の特性か? そんな魔獣は聞いたことがないが……」

 公爵たちがザワザワと話し合う中、エリクシーラがポンと手を叩いて明るい声を上げる。


「やっぱりファーヴァはミルキィベル様の聖獣なのではないですか?」


「ぬ……」

 公爵が、今度は否定せず考え込む。


「わたしですか!? わたし聖女でもなんでもないのに!」

 とミルキィベルが言うのに被せるように、

「聖魔法を使ってみろ」

 と公爵が言う。


「えっ! 使えたことないですよ!」

「今も火魔法が出なかったりしただろう。使えるのに使えないと思い込んでいる可能性がある」

「あーなるほど……?」

 ミルキィベルはうんうんと頷き、ぐっと拳を握る。


「やってみます! いけそうな気がする! いくよファーヴァちゃん!」

「ニ゙ャッ!?」

 急に無茶振りをされたファーヴァは驚いた声を上げる。


「聖なる力よ、ここに神の慈悲を示せ! 出でよ光球! ……やあっ!」


 ………………。


 再び、鍛錬場に沈黙が落ち、皆がなんとなく目線を逸らす。


「ファーあーヴァーちゃあーん!」

 ミルキィベルが顔を真赤にしてファーヴァをブンブン揺さぶった。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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