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13. 聖獣?と結界

パパ言い訳回。そしてヒロインの幼馴染登場。

「えっ、エリィ様を殴ったんですか!?」


 見張りの王宮騎士に挨拶をし、許可を得てリアムがホールの入口の重厚な扉を開くと、シェインの声が飛び出して来た。


「殴ってはいない!! 結界同士をぶつけただけだ! 身体にはなんの衝撃も無かったはずだ」

「クレイの結界は硬い高い音がするだろ! 小さい子の耳元で可哀想だと思わないのか!」

 クレイ公爵と国王の声が続く。

「言ってやってください、陛下」

「可哀想なエリィ……」

 クレイの双子の声もする。


「……やり方を間違ったとは思う……。あれから私に笑ってくれなくなった……」

「当たり前です!」

「そりゃそうだろう!」

 複数人から責め立てる声が上がる。

 クレイ公爵は懺悔するように言葉を紡ぐ。


「乳母を引き離さざるを得なくなって、あの子の秘密をどう守ればいいのかと悩んで……、だが、間違いだったな……。しかしそれならどうすればいいのか……」


 室内ではまだ話が続いていたが、エリクシーラはハッとリアムを見た。

 リアムは無表情でホールの中を見つめていたが、エリクシーラの目線に気づいてニコッと笑った。


「良かったですね、当主様はお嬢様のことを心から思ってますよ」

「えっ、そうかしら、そうね……」

「さて、聞いててもいいですが、あとで怒られそうなのでサッサと入りましょうか」


 リアムは開けた扉を押さえて道を開けた。

 エリクシーラはリアムの目にひどく冷たい光が宿っていた気がして心配になったが、何を言うこともできず、リアムの開けた扉をくぐる。


(やっぱり乳母おかあさまのことが心配なのかしらね……。なるべく早くお見舞いに行ってあげましょう)

 そんな事を考えながらホールに入った瞬間、エリクシーラは驚きに目を見開いた。


 公爵がワイングラスを手に、落ち込むように俯いている。

 そんな公爵に王が、手ずからワインを注いでいる。


(どういうことですの!?)


 ホールを少し入ったところに、どこから持ってきたのかテーブルが据えられ、パーティー用に用意された料理だろう、食べ物がいくつか並んでいる。

 テーブルには王家と公爵家の皆がついており、周りを王宮騎士たちが警護するように囲んでいる。


 広大なホールの端っこで、ちんまりとテーブルに付く高貴な面々は、なんとなく滑稽だった。


「何をやっていらっしゃいますの!?」

 その声に、全員が一斉に振り返り、口々にエリクシーラの名を呼ぶ。


「エリィ様……ぐぇっ」

「お前ばっかり抜け駆けさせるか!」

 駆け寄ろうとしたシェインの首根っこを王太子が掴んで止める。


 そこでふたりが揉めている間にシルヴァが席を立ち、エリクシーラに歩み寄る。


「エリィ、どうしたんだい、帰ったって聞いたけど」

「ちょっと問題が発生したので戻ってきたのですが、どうなってますの」

「いやぁ、父上と陛下の大喧嘩が始まりそうなところで、ここの給仕係たちがぱぱっとテーブルを整えてね。

 陛下の侍従の指示らしい。伊達や酔狂で長年侍従をやってないね、場が一瞬で収まっちゃった」

「まあ、流石ですわね」

 褒められて、王の後ろの方に控えていた侍従が頭を下げた。


「しかしこれは……、お父様、結構お酒入ってしまいました?」

 シルヴァに問うと、横から公爵が話しかける。

「この程度飲んだうちにも入らない。なんだ」


「素っ気なくしないでまず謝れ! 不器用か!」

 公爵の態度にワイングラスを振りかざして王が怒る。

 その言葉に、エリクシーラがクスッと笑う。

「扉の外で聞きましたわ。お父様のお気持ちはもうわかりましたから大丈夫です。

 それに、わたくし悪役令嬢ですので、その程度のこと、もう気にしないのです!」


 胸を張って宣言するその言葉に、公爵がどういう顔をしていいか分からないような顔をして王に目をやり、

「……悪役令嬢?」

 と問い、王も、さあな、と肩を竦めた。


「……まあいい、なんの用だ」

 公爵が気を取り直して言う。

 またそういう言い方を! と後ろの方で王が怒鳴っている声がするが、気にしないことにする。


「そこの庭園で魔獣を見つけましたの。クレイの結界を張っているようだとリアムが言いますので、お父様に見てもらおうと連れてきました」

「クレイの結界を?」

 ピリッ、と緊張が走る。


「どこだ!」

「ここですぅ……」

 クシャクシャになった髪の毛を押さえながら、真っ赤な顔で半べそをかいたミルキィベルが答える。


 えっ? と皆が一瞬虚を突かれたが、よく見れば髪の毛の中に小さく黒い獣の姿が見え隠れしている。


 再びの緊張が走り、ミルキィベルは王宮騎士に囲まれ剣を突きつけられることになった。

「ひゃあぁぁ!」

 ミルキィベルはへたり込み、その頭上に何本もの剣が集中線を描くように集まる。


 そこへ割って入るように、公爵が前に出る。

 近くでひと目見て、

「エリクシーラの結界?」

 と呟いて、不意にむんずと獣を鷲掴む。

「ニ゙ャッ」

「痛ーい!」

 獣とミルキィベルから同時に悲鳴が上がる。

「ぬ」

 見れば結構な量の髪の毛も一緒に握り込んでいる。

「令嬢、毟るのと切るの、どちらがいい」

 ヒッ、とミルキィベルが小さく悲鳴をあげる。

「お父様! その二択はひどいです!」

「そうですぅ、わたしカッパになっちゃいますぅー!」

「カッパ!」

 ぶっ、とシルヴァが吹き出して、王子たちもふるふると肩を震わせた。

 

 頭の天辺が丸く禿げたロングヘアの水妖はおとぎ話ではメジャーな存在で、しなやかで美しい肢体を持つ人間型の魔物なのだが、翻訳するとカッパである。


 王宮騎士たちはさすがなもので、剣先一つ震わせない。


 ……いや、ひとり、赤髪の騎士が微かに剣を震わせている。


「アレイズ様! 笑うなんてひどい!」

 ミルキィベルが涙目でその赤髪の騎士を責める。


「申し訳ありません隊長、この令嬢とは旧知の仲です、落ち着くよう声をかけてもいいでしょうか」

 アレイズと呼ばれた騎士は上官に許可を取り、剣を下ろしてミルキィベルのそばにかがみ込む。

 

「大丈夫だよミルキィベル、毟るより切るほうが伸びが早いんだよ。今オレが切って……」

「やだぁぁぁ!」

「イヤかぁ、それなら……、公爵閣下、お手元を少し失礼いたします」

「うむ、早くしてくれ、この獣は結構暴れる」


 アレイズは暴れる獣の爪が刺さるのも構わず、丁寧に絡んだ毛を解き、少しずつ公爵の手から抜いて、最低限のカットでミルキィベルを助け出した。


 同時に、獣と公爵の間でガキン! と火花が散る。


「やはり結界は打ち消せないか……。レオン、陛下がたを連れて下がれ、念の為盾を張っておけ。

 シルヴァ、手伝え。エリクシーラの結界の上から拘束結界を張る」

 暴れる獣を押さえ込みながら、公爵が指示を出す。


「はい、父上。陛下、殿下、こちらへ」

 レオンが即座に動く。


「二重結界!? ひゃー……」

 シルヴァも、困った顔をしつつもすぐに公爵のもとへ駆けつける。


 公爵たちが獣に対し拘束を掛けようと苦戦している中、エリクシーラはミルキィベルと赤髪の騎士の関係性に思いを馳せる。


(ヒロインの幼馴染キャラ……? 彼も攻略対象かしら?

 ああ、なんでゲームの詳細が思い出せませんの!?)


 ワクワクを楽しむ一方で、エリクシーラはふわっとした不安を感じ始めていた。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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