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11. 秘密の聖石

リアムさん説明係。

「本当に聖魔法は使えませんの?」

「はい……」


 ホールから離れたエリクシーラたちは、学園の庭園を通って帰りの馬車が待つ車どめに向かうことにした。


 ホールの外に避難した生徒たちは、そのまま帰宅したようである。誰も居ない庭園は、さっきまでの喧騒が嘘のようにとても穏やかに草花を揺らしている。


 結果として早めに解散になってしまったため、夕日がまだ明るい。


「やはりわたしではなくてエリクシーラ様が聖女だと思いますよ?」

「わたくしが聖女なんて、想像もしていなかったのですけど……」

 エリクシーラとミルキィベルは、並んで歩きながら会話を交わす。護衛のリアムは一歩離れて後ろから付いていく。


「カルル殿下の炎からわたしを助けに飛び込んできてくださった時、殿下の炎を消してらしたの、無意識ですか?」

「ふぁっ!?」


「殿下の周りにあんなに轟々と火が渦巻いてましたのに、エリクシーラ様が駆け込んで来られた時、エリクシーラ様の周りだけ虹色に光って炎が消えて……」

 思い出してうっとりするようにミルキィベルは頬を染める。


「炎を背景に光を纏ったエリクシーラ様はすごくきれいで、気高くて、凛々しくて……、やっぱり聖女はエリクシーラ様ですわ、他の誰が否定してもわたしの中ではエリクシーラ様が絶対の聖女です!」


 それは兄が何かしたのでは……? と考えていると、後ろからリアムがボソリと言う。


「クレイ家は自身の周りの結界は標準装備ですからね、大抵の魔法も物理攻撃も効きません」


「そうなの!?」

 エリクシーラが驚いて振り返ると、リアムは大きく頷く。


「そうです、あのクソ王子の炎程度、エリクシーラ様の毛先一つ焦がせません。

 だから俺は遠くから見守る程度の護衛でしたよ。公爵家が護衛の一人もつけないわけには行かない、と言われて送り込まれましたが、俺を学園に通わせてくれるための方便だと思ってます。ありがたいことです」


「そうだったのね……って、いや待って不敬罪!」

「誰も聞いてないから大丈夫です」

「そういう問題じゃないわ!」


 諌めるエリクシーラをしれっと躱し、リアムは話を続ける。


「あと、お嬢様は子供の頃から聖石を量産してましたよ」


「聖石を量産!? そんな記憶ないんですけど?」

「俺と、乳母だった俺の母が丁寧に集めて公爵にお渡ししてましたからね。お嬢様は泣き虫でしたから大変でしたよ。特に泣きながら廊下を歩くのは勘弁してほしかったですね」


「うっ……」


「聖石生産は魔力と体力を大量消費するようで、お嬢様はすぐ体調を崩され、そのたびに当主様にお叱りを受けました」

「そ、そうだったの、ごめんなさい……」


「あと、あちこちでコケてケガをするのも勘弁してほしかったですね」


「えっ!! 物理攻撃無効じゃないの!?」


「攻撃は無効ですが自損事故は無効にならないようですね……。大怪我しそうな時は別だと聞きましたが」

「自損……、そ、そうなのね……」


「コケてケガして、血と涙の聖石を量産して、それで倒れるのは、本当にこちらも生きた心地がしませんでしたよ……」

「そう聞くとなんか壮絶ね……、って、わたくしのせいね……」


「学校で護衛という名の見守りをしている時も、聖石の件が周囲にバレないよう隠したり誤魔化したりが主な仕事でしたね……。さすがにそうそうコケなくなってましたから助かりましたが」


「し、知らなかったわ……」

 申し訳無さそうに上目遣いでリアムを見つめ、エリクシーラはそっと聞いてみる。


「やっぱり、聖石ってわたくしの涙のことですの? 血も……?」


「そうですよ、今更すぎませんか」


「だって、誰も教えてくれなくて……、 カサブタってやつかなって……」


「あんなに透明度が高くてキラキラしたカサブタは寡聞にして知りませんね、申し訳ありません」

「いっ、いやみねっ。……て、手間ばかりかけてごめんなさいね……」

 そこで、ツンとしていたリアムはふっと表情を緩めた。


「良いんですよ、俺も母もお嬢様にお仕えするのは生き甲斐でしたから」


 リアムは懐かしむように目を細める。


「父は弱小貴族で、国境の魔族との戦闘に参加して亡くなったそうです。力のない貴族だし当主が亡くなったしで、オロオロしている隙に付け込まれて大した補償も出してもらえなくて。

 乳飲み子の俺を抱えて母は途方に暮れていましたが、そこをたまたま戦後の処理に来ていた公爵様に拾われて、出産間近の奥様のために乳母として雇っていただけたんです」

「まあ……」


「公爵様は俺たち親子の大恩人だし、お嬢様の面倒を見ることは一回絶望に落ちた母の希望の光で、全てを賭けて愛を注いでお世話をしてましたよ。

 だからといって俺を蔑ろにするわけではなく、俺も母と一緒にお嬢様のお世話をするのが楽しくて……」

 リアムは切なげに微笑む。


「母が……、身体の具合のせいで乳母をやめざるを得なくなったときも生活に困らない支援をいただきましたし、代わりにと俺を雇ってくださって……」


「リアム……?」

 言葉を切ったリアムに、心配そうにエリクシーラは声を掛ける。


「いや、話しすぎましたね! すみません、俺の事情とかどうでもいいですね!」


「乳母の身体の具合って……」

「大丈夫です、ちょっと事故で……、もうすっかり身体の方は問題ないです」

「そう、ならいいけれど、いつかお見舞いに行かせてね」

「ありがとうございます、母も喜びます。いつか、必ずお連れしますので、是非よろしくお願いします」


「いつか、必ず……」

 そう言いながらリアムの目に少し暗い光が宿ったことに、その場の誰も気が付かなかった。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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