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10. 秘密の聖女

父上登場。大騒ぎ。

「……つらい思いをさせたな、ミルキィベル嬢。あとで伯爵にも非公式で謝罪を送ろう」


 非公式とはいえ王族が貴族に謝罪の意を示すのは大きい意味を持つ。

 伯爵家が大騒ぎになるのは必至である。ミルキィベルはヒッと息を吸う。

「いえ、いいえ、そのお言葉だけで充分です!」

 そして、気まずそうに目を逸らして口元だけでテヘッと笑う。

「両親に心配をかけたくないので……内緒なんです」


 その言葉に、王はハッとする。

「……そうか、それでここに伯爵夫妻が居なかったのだな……、ひとりで耐え、ひとりで罪を被るため、パーティー前に帰らせたのか? うむ、天晴な覚悟ではあるが……」

 健気を通り越して悲痛なまでのその覚悟に、王はなんと諌めていいか言葉を探す。


「そうですわ! ミルキィベル様は世界一強くて健気でお可愛らしいヒロインですもの!」

 エリクシーラが目を輝かせて話に割って入る。


「随分とミルキィベル嬢が気に入っているようだな、エリクシーラ」

 急に場の緊張が解け、王が苦笑しながら言う。

「ヒロインとはなんなのだ」

「ヒロインは、皆に愛され世界を救う愛と勇気の聖なる乙女ですわ!」


「え、それエリィ様のことじゃないの?」

 シェインが言う。


「エリィだよねえ?」

「エリクシーラのことだな」

「エリクシーラ嬢のこととしか思えないね」

「お嬢様にこそ相応しい称号です」

 シルヴァ、レオン、王太子に加えて乳兄弟の騎士のリアムまでがシェインに同意する。


「違いますわ、わたくしは悪役令嬢ですの! ああ、わたくしが上手に悪役令嬢出来なかったから、ミルキィベル様の魅力が皆様に伝わっていませんわ……!」

 エリクシーラは悔しさに身悶える。


「わ、わたしもエリクシーラ様がそのヒロインだと思いますっ……」

 遠慮気味に、でもきっぱりと、ミルキィベルも皆に同意の声を上げた。


「もーっ、違いますの。ミルキィベル様、聖魔法が使えますわよね? いずれ大聖女にもなれるほどのお力をお持ちでしょう?」

「え? いえ、わたしは聖魔法が使えたことはありませんけど」

「えっ」

「えっ?」

 ミルキィベルとエリクシーラは目を見合わせてお互い首をひねる。


「あの、治癒魔法なら少し使えますので、それで誤解なさっています……?」

「え、本当ですの? あれ?」


「…………今の世代で聖女に一番近いのはエリクシーラ、そなただが?」

 見かねた王が、呆れたように告げる。


「は? わたくし?」

「そうだ」

「わたくしが何です?」

「聖女の最有力候補だ」

「わたくしが!? 聖女ー!?」

「そうだそなたが聖女だ!!」

 驚きのあまり叫ぶように王と言い合っていると、


「なにを勝手にバラしているんですか陛下ー!!」


 バターン!! と大きな音を立ててホールの扉が開き、エリクシーラの父のクレイ公爵が叫びながら入ってきた。


 王宮にいるときに何処からか知らせを受け、そのまま急いで来たらしい。

 宮廷服の、銀ボタンの黒い服に黒いブーツ、胸に2本の鎖付きの銀の職位章を付け、裏地が青い黒のマントを羽織っている。マントは左肩で留められ、家紋を象ったブローチがそこに輝いている。

 髪も黒いので、全身真っ黒に見える中、家紋のブローチに嵌まった緑の石が鮮やかだ。

 どうやらその服のままで馬を飛ばしてきたらしく、ズボンにシワが寄っていた。


「アイギス・クレイ! やっと来たか! お前のそのよくわからん秘密主義のせいでエリクシーラが可哀想なことになってただろうが!」


「そこのダメ王子をもっとしっかり教育してくれればよかったことでしょう! エリクシーラには変な義務とか責任とか押し付けず伸び伸びと育てるって亡き妻と約束したんですよ!」


「全然伸び伸びしとらんだろうが!!」


「だからそれは王家の責任でしょうが! カス王子と婚約押し付けといて無責任にもほどがある!」


「エリクシーラ自身がこのゴミを選んだんだろ! いつでも選びなおして良いと言っていたのに!」


「うちのエリクシーラのせいだってのか? いい加減にしろよ、国土の結界解くぞいいのかグラン!」


「おうやってみろや、そうなったら最前線に出るのはお前んトコの息子たちだからなアイギス!」


 なんだか悪ガキの喧嘩のようになってきた。


 あまり政務に関わらず出世や利権にも興味のないクレイ公爵家は弱小公爵家などと陰口を叩かれるが、その実、国土全域に結界を張って国を守っている最重要貴族家だ。

 聖女も多く輩出しており、聖公家せいこうけの別名も持つ。

 その上国王と現当主は同年代で、子供の頃からの遊び相手、つまり幼馴染。


 エリクシーラがハラハラし、ミルキィベルが再び意識を失いそうなほど恐怖に震えているが、この程度は彼らにはじゃれ合いレベルの喧嘩である。


「もう許さん、今すぐ結界解いて他国に行く」

「あっ!! 本当に結界が薄まっている!! 待って待って父上!!」

「シルヴァ、力を貸せ、結界を補強するぞ」

 金緑の双子が青ざめて手を合わせる。


「父上! 剣を抜かないで!」

「カルル、凹んでる場合じゃない、手を貸せ、陛下を抑えるぞ!」

 二人の喧嘩の流れ弾でボコボコにされていたカルルも含め、王子たちが総出で王にかじりつくが、三人を引きずってなお王はジリジリ前に進む。


 ……じゃれ合いレベルではなかったようである。


「……危ないので外に出ましょう」

 リアムがエリクシーラにそっと声をかける。

「え、でも……」

「お坊ちゃま方は今国土の結界補強に手一杯です。万一誰かが魔法を発動したらそちらのご令嬢が危ないのでは?」

「あっ、なるほどですわ! ミルキィベル様!」

「ははははははい、聞いてました、はっ早く出ましょう」


 王宮騎士たちは国王と公爵家当主に手を出しかねて遠巻きにしている。

 三人は近くの王宮騎士に先に帰る旨伝言を頼み、ホールを抜け出した。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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