STORIES 032:わるい夢なら醒めてほしい
STORIES 032
どこかの観光地。
海が近いのだろう。
なんとなく空気が街のそれとは違っている気がする。
小洒落たショップやカフェがあちこちに建ち、通りはそれなりに賑わっている。
きれいに区画が整理され、道行く人たちも歩きやすい。
小さな交差点。
僕は知り合ってまだ間もない女性と、いろんな話をしながら横断歩道を渡っている。
ときどき笑顔で振り返る彼女が伸ばした手を、僕は軽く握り返しながら…
そうして手を引かれるように歩き続ける。
僕らはどこで出逢ったんだろう?
思い出せない。
気付いたときには、こんなふうに手を繋いで歩くくらいには打ち解けていた。
信号が点滅を始めたところで道を渡り切るが…
前を歩いていた彼女が、そこで突然立ち止まる。
僕は彼女にぶつかりそうになり、後ろから抱きつくようなかたちで止まった。
おっと… どうした…の…?
言い終える前に振り返った彼女が、にこやかに顔を寄せてくる。
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2:05 a.m.
部屋の明かりをつけたまま、3時間ほど眠りに落ちていたらしい。
僕は普段から睡眠時間が少ない。
概ね3〜4時間。
深夜や夜明けにもよく目を覚ますが、具体的で願望めいた夢をよく見ていたりする。
誰かに説明するのも恥ずかしい内容。
悪くないような、虚しくなるような。
登場人物の大半は、架空の人たちが多い。
以前は身近な人たちばかりが登場していたのに。
そういえば、悪夢みたいなものは少なくなったかもしれない。
まぁ、現実のほうが悪い夢みたいなものだしね。
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わざわざ説明するまでもないけれど、「夢」という単語には、大きく分けて2つの意味がある。
ひとつは、睡眠という行為のなかで見る、現実ではない世界。
現実に起こった出来事や得られた知識など、膨大な量の情報を、脳が整理して再構築する過程の副産物である、とも言われる。
もうひとつは、将来的に実現したいこと、実現は難しいが理想として抱いているもの。
こちらも、簡単には現実のものとならないことを指すから「夢」なのか。
夢の中で夢が実現して…
なんて書いていると混乱してくる?
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人は死ぬとき…
どんなふうに意識や自我が消えるのだろう?
頭を打ったりして徐々に意識が薄れてゆく、あの感覚はわかる。
何度か経験したからね。
あんな感じなのかな。
周りの音がだんだん遠くなる。
ゆっくりと暗闇の底に沈んでゆく。
声も光も届かない世界へ。
人は死ぬとき…
それでもまだ夢を見るのだろうか。
最期の夢なら、あなたに逢いたい。