かくして再び断罪劇の幕は上がり……
ある世界のある王国で、王族と一部の貴族が混沌と阿鼻叫喚な日々を過ごしてから約一月後。
この日の王城は朝から忙しない空気に包まれていた。
……いや、実際に下働きは庭担当や厨房担当は当然として、普段は関わりの無い洗濯担当やら厩担当の部署の者まで駆り出され、慣れない作業に四苦八苦しながらも懸命に働いている有り様。元は平民であろうとも、若い時分から高位貴族に囲まれ国の中心王族の居城で長年働き一代限りの爵位を得ている彼ら彼女らはいわばそれなりの強者。
けれども畑違いの分野にはやはり高い壁が存在するのだ。
今から遡る事一月前、王城である事件か起きた。
国を挙げての年に一度の王族主催の舞踏会。
その舞踏会はその年に成人を迎え王都の学園に通うの子息子女のデビュタントを兼ねている、正に国を挙げての一大行事ともあって毎年盛大に催される代物だった。その為に国中の貴族が社交を兼ねて集まるし、子供の中には庶民ながらも富裕層の子息子女も混ざっており、此方は少数だがその保護者も参加を認められて出席者に含まれている。
だが、そんな華々しい一日は早々に砕かれた。
その犯人はデビュタントを控えたある下位貴族の令嬢だったのだが、普段からその言動の酷さが甚だしく周囲からも浮いていたらしい。それに王都学園で騒ぎを起こし、舞踏会直前まで謹慎を喰らっていた……とは目撃者と化した学園の在校生家族以外の者達は後から知り得た情報だったが。
そして本番でやらかした。
それこそ王族に直接害意を抱き、攻撃まで与えようとしたのが『アシュリー』。一方的に王太子殿下を慕って傍らに在るその婚約者に悪意を抱き、学園で害意を加えようとしたとして入学1か月目にして早々に問題児だと発覚したと、その後直ぐ社交界でも有名していた少女だった。
その為、一月後にその舞踏会が再開催されるという前代未聞の運びとなったのだが、そのせいだかお陰だかで、この一月の城内は一月前の舞踏会開催中以上の、正に阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
それこそ上は国王・王妃・宰相のトップ3から下は底辺の下働きの者達までほぼ一丸で。
そして今日は開催日の前日。
まだ目立つ目の下の隈とゲッソリとした頬に青を通り越して白いままの顔色が直らないまま、城の舞踏会関係者は仕上げに本当の意味で最後の力を振り絞っていた。
実は今回の舞踏会はただのやり直しでは無い。
前回の結末が尻切れトンボに終わった事に不満を持った何処ぞかの王太子殿下が、社交界に『ナニかが起こるかも?!』との噂を面白可笑しく影にバラ撒かせ、噂以上に舞踏会の招待状までをもバラ撒かせやがっ……発送させた為に城の人的余裕は逼迫を通り越して限界に達しつつあった。
なので城の関係者一同の思いはただ一つ。
『コレが済んだら王太子殿下に報復を!!』だろう。
ちなみにその筆頭は国王・王妃・宰相だったりする。
☆☆☆☆☆☆
「……何か背中がゾワゾワする?」
騒動の元が豪華な執務椅子で可愛らしく首を傾げてる中、何となく城の不穏を悟った腹心たる側近は主の呟きを拾いはしたが聞かぬふりをしてそっと目を逸らした。
執務室で指示を“出す”のが王太子なら、その指示を滞りなく進める様に各部署への指示を“伝達する”のが王太子付き文官の役目。必要とあらば自らその部署まで出向いて指導する。なので相方は文字通り城を駆けずり回っている真っ最中だった。今この場に居るのは片割れの護衛騎士のみだ。
だが王太子本人は開催準備には関わらされていない。
これは王国首脳陣からの指示だった。
何故か?って。
『暴走するからに決まっとろうが!!』
『更に現場混乱させてどーすんの?!』
『関わらせなければ平和に終わる筈?』
揃ってそう叫んだがとか叫ばなかったとか。
真相を知るのはその場に居た者達だけだが、全員貝よりも固く口を閉ざして話さない為に闇の中に葬られるのは目に見えていた。
〜閑話休題〜
護衛騎士はその片割れを案じて遠い目をする。
そもそも、この忙しい大元の原因を『作った』のが王太子ならば、敢えて歓迎せざる手間を『止めなかった』側近もソレに加担していると思われているという事で。
さすがに不敬罪が適用される王太子に直接手を出すバカ者は居なかろうが、忙しい合間にでも接点を持てるし顔を合わせて何なら接触も出来る文官側近は恰好の八つ当たり相手となる。本人も気付かぬ内にされてても可笑しくは無かろう。
………………いやされてるだろうな確実に……。
せめて救いがあるとすれば、八つ当たり紛いの嫌がらせが万が一行われていたとしても、忙し過ぎて本人が気付ぬ内に終わっている可能性が高いコト、だろうか?
何せやる事は山積み。
年に2度行われる大舞踏会。
毎年国を挙げての行事なので、もう『終わった瞬間から次の準備に着手する』のが当たり前なのだ。
それを一度ぶっ潰した上で、次の開催は一月後。
それこそ城関係者の思いは上から下までただ一つ。
『巫山戯んなよゴラ"!!?!』なのだが。
ソレに王太子が全く気が付いて居ない。
そしてこの事実を城関係者一同が知ったならば、今度こそ間違いなく血の雨が物理的に降るだろう。
そもそも無事に明日が迎えられるのか?
それを知る者は誰も居ない……。




