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愚痴と毒舌が飛び交う昨今の王城


どうも、ウチは代々王家の影やってます。

自分含めて一族郎党が全員影。あ、女性は別ね。

どうしても女性の手が必要な場合も有るから皆無じゃないけど割合としては一割に満たないです。

ほとんどが優秀な次代を産む役割を担います。


王が代替わりするのと一緒にその子供世代が次代の王候補への忠誠を誓い、またその子供世代が教育を受けて更なる次代に備えるのが当たり前。かくいう俺もその一人だったりします。


そうしてこの国が出来てからずっと、連面と続いている家らしいです。表向きはそんな爵位は高くないけどちゃんとした貴族ですしね。


幼い頃から忠誠心を叩き込まれ、特に諸国についての勉学に励み、騎士に混じって戦闘訓練にも参加して心身共に鍛え上げられる。そうして影として一人前になりいずれは最高位たる王に仕えると。

そんな家に生まれたのは大変だけど誇らしい。


個人的に一番大変なのは、人間や魔獣を相手取る戦闘訓練よりも周囲に溶け込む影に必須な隠蔽能力を鍛える事だったと思う。自身の気配を絶つだけならまだ何とかなるんだけど、調査で噂を集める時なんかは人間と接触しなきゃならないのよ。


でも記憶に残っちゃダメ!だなんてちょっと不可能だよね。必要だからと頑張って身に付けたけどさ、中々に大変だったとのみ述べときますわ。

あー思い出したくねー……。


時々ポカをやらかす王候補も居るので、影を自身の手に入れられるのはその候補の成長次第とも言われる様になって長い年月。それなりの歴史の中で、今の王太子殿下はその任される最年少記録を打ち立てる快挙を果たしました。

何と弱冠12歳!いやぁ一安心ですね~。


……なぁんて当初は思ってましたよ、俺も皆も。

優秀なのは優秀だよ、それは喜ばしいの。

ただね!人使いの荒さも優秀なのよ何故か!!


唯一、王太子殿下以外に俺達が顔見せする相手が側近のジョンソン殿。乳兄弟の幼馴染みで親しい間柄だからか殆ど秘密事項も共有している仲だそうで、顔を出して報告する際にもよく同席してる。


まぁ基本的に俺達の活動は報告書で済ませるんだけど、一部超極秘要項とかは厳重に証拠を残さない意味でも口頭報告って場合も多少は有るからね。


ちなみに俺達次代王太子殿下直属の影の間では、ジョンソン殿は側近という立場や上司擬きというよりは、同じく理不尽な人使いの荒さを一緒に体験している被害者同士っての認識のが強い。

表はジョンソン殿で俺達は裏で……ってワケ。


稀に一緒の場に邂逅しようと会話すらしない間柄だけど、合間に交わされる視線は被害者同士のそれ。

『今日もお互い大変ですね~ご苦労様です?』みたいなカンジ。俺だけじゃなく他の影も同意してたから勘違いじゃ無くてホッとしたのは内緒。


なので、殿下が姫と呼ぶ婚約者様の護衛が一番楽な仕事で大人気だったりするのよ、コレが。

執着に溺愛を重ねてガッチガチに固めてる殿下。

イヤもうコレ要るか?!って言いたくなる位には同僚だらけな現場だもん。笑えるぅ……。


逆に一番不人気だったのが殿下直属。

クソ忙しくてブラック通り越した漆黒現場。

ところが最近、仲間内での押し付け合いも日常茶飯事な配属先で殿堂入り果たしていた不動の一位がついに交代した。嬉しくない現実ぅ……。


『いゃ……女は怖いと再認識したよ……』とは、その現場へと最初に派遣された俺の先輩の言。

貴族や犯罪者の監視を主とする任務、人間の裏の部分は山ほど見てきた事を自負する立場の人間の台詞としては少々違和感を覚えた当初。


そして行って納得も理解もしました、そりゃもう心の底からこれ以上無いって位にねッ!!


見たままの事実をありのままに報告するのが仕事。

だから慣れてしまえば此方のモノ。

無になって聞こえた単語とその動きをひたすら手元に用意した紙へと書き写すのみ。ただただその作業に徹させて頂きましたです、ハイ。


ちなみにですが、コレは王家直属の影の一族にのみ伝わる魔術が使われております。いやそこまで大仰な代モンじゃ無いけどさ。1日貼り付いて逐一その言動を記録するってどんな超人だよ!と遣らされる身としては言いたいワケで、だからこそ開発されて重宝されてる魔術なのですよ。


見た事聞いた事をそのまま自動筆記してくれるの。

便利なのに秘匿なのはその血と精神の繋がりを応用する部分がある云々だそうだけど、興味ないのでよくは知らんし知らなくても問題ないし。

これが有ったからこそ耐えられたのかもかなぁ?


とにかく最初は、ねぇ……?

その先輩の格言通り、『女は怖い!』をひたすらに実感する時間を過ごしましたです。


監視対象相手のその凄まじさよ……。

叫ぶ・喚く・物に当たり散らすの3点セット。

しかも所々に俺らには理解不能な単語やら言葉やらが挟まる言動。いやはやホントにもう……。

外れ籖とか貧乏籖って言葉がピッタリな現場で。


耳と胃を痛めて頭と心がヘシ折れる先輩同僚が続出したってぇん聞いたモンだからそれこそどんだけぇ!?と叫びたくなりましたなぁ。

俺?影としてのなけなしのプライドを盾に頑張りましたよ……。胃は痛めたけどさぁ……。


もう先輩の仰る通りでございましたよ!!

女って怖い……見る目が変わりそう……。


まだ言動位しか対象にしてないけど、ちょっと踏み込んで調べた日には案外悪事山積みエゲつなさそう。あんな性格だもん、あり得そうだよね?

で、調べるのは俺ら?!やだなぁ……!?


正に天国だと先輩同僚に絶賛せしめられた現場、彼の姫君の居らっしゃるお屋敷とその周辺とは雲泥の差だったから余計にそう思うんだろうねぇ。


ちなみにですが、女は怖いが姫君は別です!!

殿下の執着もちょっとだけ、ホントにちょっぴりだけど分からなくは無い。純粋で優しくて優秀でそのくせ鈍感で……そりゃもうお可愛らしいお方!!


口に出すのはおろか態度に少しでも出ようモノなら物理で首が飛びそうだから言わないけどッ?!

俺はもちろんの事、先輩同僚の皆々様もこぞって心の中での絶賛に留めてはいるけどもっ!?

今後も彼の姫君は不動のNo.1を維持するだろう。


次代の王を裏で支える身としても、この国に仕える表向き立場の貴族としても悦ばしい事です!!

何せそんな方が次代の王妃なのですから!!

でも少ぅしだけ口を挟めたら是非とも言いたい。


普段を見ているだけに、これは影一同、先輩同僚後輩全員の一致した見解だと断言出来ます。

僭越ながら代表して俺が言わせて戴きましょう。


『殿下、姫に逃げられない様何事も程々に』と。

ついでにも一つ。

『逃げられても俺らの責任じゃ有りませんので八つ当たりはご勘弁願います』。頼みますよ~。


何か有っても自業自得の自己責任ってコトで!!



☆☆☆☆☆



「……そう言えば、自薦他薦を問わずに優秀な人材を募集して側近候補として育てる件、アレって結局どうなったんですか?自分は候補者の名前だけしか聞いてなかったですけど」


「あーアレね……。息子をどうか?!って2件立て続けに来たんだけど、ソイツらに課題を与えて達成したら来てね♡って追い返してから全然姿見ないなぁ……。まだ達成出来て無いからだとしたらその時点で要らないから放置してそのまんまだけど」


「へぇ、自薦では無かったんですか。よく引き受けましたね。何処のどなたからの推薦で?」


「宰相補佐と近衛騎士団長」


「はぁ?!無能なくせに公爵家だからってだけで地位に胡座かいてるエセ知性派気取り野郎と、剣の腕はソコソコたつけど脳みそまで筋肉で出来てるあの筋肉達磨の息子ですよ!?ソイツらの血を引いてると分かった時点で役に立たないと貴方なら判断するし断言出来るでしょうに何故っ?!」


相も変わらず表現力の豊かさは天下一品。

ジョンソンの並べた辛辣な言葉に笑いが止まらなくなる殿下。ちなみにこれも日常の風景。


彼がその話題を持ち出したのは、例の影からの報告書に件の候補者の氏名が載っていたがためだ。

少し記憶を辿り思い出して主へと振ってみたら、予想を斜め上に突き抜けたお答えが戻って来た。そしてだからこそかと納得もするジョンソン。


「チンピラの独り言の中にその2名の名前が複数回登場してますね。知り合いじゃ無いようですが」


「どうしてだかは知らないけど新学期が始まってからも学園に来てないらしい。私の課題を重視して学園の授業を軽視してる可能性はあるかもねぇ。普通ならそんな阿保な考えには至らないけど普通じゃ無ければそれ位しても可笑しくは無い」


「父親似なら尚更かも……ですね」


報告書の内容と現実の違和感が払拭出来たので安心するジョンソン。逆に意味が解らず殿下が首を傾げたのでその理由を説明し始めた。


「チンピラの言葉を要訳するとですね。『奴等は攻略対象で、出会わなければイベントが起こせないし逆ハーにもならない。何で学園内に居ないのか?』となるみたいですね。……逆ハー?」


「奴らが居ないのはあくまでも推測だけど、チンピラの狙いはどうやら複数の男に在るみたいだね。目的も分からないし知りたくもないけど。いっそ呼び方チンピラから尻軽に言い換える?」


「どーでも良いのでご自由に」


主の提案を秒で瞬殺させる。

ただでさえソイツのせいで忙しさに拍車が掛かっている身としては、実利にもならない事に労力を割くなど無駄の極致でしかない。ホント猫の手も借りたい心境なのだ。優秀な人材、欲しいなぁ……。


「チンピラ……え~と尻軽?の思惑を知りたいので入学してからの追跡調査をさせますか?」


「ああそれならもう手配したよ。動きも知りたいからそのドラ息子達も追加しようかとは今思い付いたからそっちはさすがにまだだけど」


「じゃあ別の人間に割り振りましょうか。その方が手早く済ませられますから、ねぇ」


遠い目をしながら律儀に言い直すジョンソン。

文句を言いつつも主人の意に従うのも自分の役割だと思っているので素直に言い直すが何故か疑問系。


この3人分の調査。

殿下の手配で命令を受けた影の皆様の間で、鬼門な尻軽チンピラだけは行きたく無い!と壮絶な押し付け合い合戦が起きるのはもうまもなく。

命令した側はその事を全く知らずに居たが。


今日もあちこちで毒が吐かれ続いている王城。

戦争もここ数十年起きずに隣国との仲は良好。

今の国王は穏やかで有能。国の発展に尽力しており、次代の王太子も父親以上の能力の持ち主としての評判が高くまたその期待も大きい。


一般庶民には縁が無く、ただ王都の民は遠目に、そして地方の民は流れて来る噂を耳に挟むのみ。

煌びやかで雲の上な別世界、それが王城だった。


まさかその雲の上が、神殿で語られる地獄に等しい毒だらけな場所だとは想像だにしないだろう。

まぁそれだけで無いのも確かではあるのだが、特にここ最近の、王城の住人達の精神的な澱みが一層増しているのは事実。決して知られる事は無いが。



☆☆☆☆☆



国の中心人物達に危険認定されたゲスヒロイン。

もうゲームの世界など無きに等しい有り様と化しているのだが気付かぬのは本人のみ。

ちなみにだが、毒の澱む地獄(王城)の住人からすら実は住居が地獄認定されていたりするのは余談。


ゲームの世界だと信じきり、『自分の幸福のみ』を追及せんと謀る、一部からチンピラ改め尻軽と評されたヒロインの筈な少女アリエッティ。


やはり一部から女神とまで叫ばれ呼ばれている事も、妙な輩に敵認定されている事も、ましてや政略相手と信じきった殿下に溺愛執着されてる事にすら気付かぬ激鈍姫ことお嬢様。


何かがあるとは知りながらも、まだ真相には辿り着けない為に無駄に優秀な頭脳と手腕を発揮して愛しい者を守り抜かん!と張り切る殿下とそれに巻き込まれて振り回される側近と影達。


そんな抗争すら露知らず、日々の糧を得て家族を養うべく働く者やそんな人達を支える家族達、等々。

そしてこの国に留まらず周囲には様々な国があり、争いや外交や商売によって結び付いている。


そう、此処は『誰かの為“だけ”の世界』では無く、数え切れない人間が暮らす世界なのだ。

一人一人に考えがあり動きあり人生があるのだ。


そんな平和な日常が関係者各位に訪れるのは何時?


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