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「寝言は寝てから言うか、鏡に向かって吐けよ」……

今回の副題。

『側近二人の妄想、あるいは現実逃避』。


と。

そう呟く、ウチの主君が、キレている。


(……何か一句出来た。偶然か?!)


大の男達、しかも王族直属の騎士である近衛に無礼を働いたからと王太子殿下の命で取り押さえられている女は、それでも状況が分かっていないのか、見苦しい程に踠き足掻いて何とか抜け出そうとしている。おまけに未だに叫び続けてるし。


女性の声は時には凶器。

取り押さえてる近衛の耳にも悪影響あると困るから猿轡噛ませたけど、それでも叫んでるって分かるのは口から色々と漏れてるせいで。


ココまで来ると、その根性『だけ』は認めたい。

認めた所でどーにもなる訳でも無く、ましてや評価がドン底から這い上がるなぞ永遠に無いが。


……でもそれ以前に。

もうさぁ、泣いて謝って許し乞いなよと言いたい。

今ならまだ直ぐ横に最愛の婚約者が居らっしゃるから絶対にイイ顔をしたがる筈だしー。

カッコつけるのお好きだからね、ぶぷっ。


それにしてもだ。

背後の俺やフィーズの耳には届くのに、隣に居る姫の耳には入らない絶妙な小声ってスゴいよね?

聞こえずに小首を傾げたその表情に、慌てて周囲の視線から姫を隠してたけどそれすら姫には別の意味で捉えられていたけどさぁ。


表情も同様。

壇下で近衛の数人に押さえつけられながらも未だに踠いて雑言を撒き散らす女へと向ける目は虫けらを見る如く冷ややかなのに、横で腰を抱く婚約者の姫へと移す視線は甘やかでデレデレ。


『姫は何をしても愛らしい』。

毎日毎度、いずれかの瞬間にそう殿下は呟く。

強制的に耳に詰められた砂糖を口から吐き出す。

もう定まった日常作業だが地味にツラい……。


ほんでもってこの砂糖製造上司、浮かべる表情すら相手次第で見事瞬時に変えている。

直ぐ隣に居ながら気付かない姫が鈍いのか、それとも気付かせない殿下がスゴいのか……?


ある意味超絶技巧、変に器用な主人だわー。


という現実逃避位は許して欲しい。

この後の始末を思えばまた徹夜の日々だろう。

相手の姿も見えないとはいえ、自分の家を継がなくてもいい身の上とはいえ、結婚するのは貴族の義務な筈なのに遠ざかる女性の影……。


お買い得物件No.1な立場の筈の俺。

次期国王の側近で右腕、まだ弱冠21歳。

文官だけど、王の傍らに在る身ならばと鍛えても居るのでその辺の騎士にも負けない剣の腕前を持つ文武両道具合。容姿だって悪くない、筈。


なのに未だにお嫁さんの影すら見えない。

いや、遠ざかる以前に存在すら感じない。

時折実家にも顔を出すけどそんな浮いた話はチラリとも聞かない。どうなってるのかな?


…………後日判明した。

申し込みはそれなりに殺到しているとの事。

それも現在進行形で机に山積みされる位には。

ただし、顔合わせに至るには俺の方が都合が着かなくてその間に時間切れとなってしまうそう。


男性に比べて女性の婚活期間は短いから……。

そう!乙女の適齢期はそりゃもう短期間。


準男爵に始まり、男爵・子爵・伯爵・辺境伯・侯爵・公爵・大公・王族と、我が国は爵位を持つ貴族も多いし子供の人数も相応の数に登る。

俺の世代は王太子殿下の同級生狙いで各貴族も合わせてかなりの数が子作りに頑張った筈だし。


我が家は公爵家だから釣り合う爵位の子供って限定しても候補者の人数もそれなりの筈で。

前後を鑑みても飛び抜けて人数多い筈、なのに。

未だに候補者すら居ないのが俺の現状。


実は、婚約者とするには申し込まれてから何度かは顔合わせをして確かめる必要がある。たとえ政略相手でも多少の合う合わないは確かめないと安心して嫁いだり嫁がせたり出来ないから必須条件。


でも俺はその顔合わせにすら参加出来ず。

理由はそう……仕事が忙し過ぎて予定が立たない。


で、ある程度の時間が経つと、申し込んだ彼方さんから他の相手に決まったから!と辞退の通知が届くそうな。んでその繰り返しなんだそう。

問い詰めた実家に逆にそう苦情を申し立てられた。


……これって俺が悪いんでしょうかね?!



☆☆☆☆☆



(癒しが欲しいの、切実に!!)


そう隣でいきなり呟かれた場合、どう対応すれば良いのかなど誰も教えてはくれなかった。


まぁそれは当たり前な事なのだが……。

師匠である騎士団長に聞いてみた方が良いか?

それとも人生経験豊富な宰相の方が向いてる?


内心で首を傾げはしたが、そもそも目の前では愁嘆場?修羅場?が展開している真っ只中で、むしろそんな考えを抱ける同僚・後輩にあまり宜しくない意味で尊敬の念を抱けるわ、俺。


にしても口の悪さが際立ってるな~殿下。

いつもだったら聞こえる聞こえないに関わらず、姫の前でそんな態度を出す事すらしないのに。

カッコつけるのがお好きだから、特に姫の前では。


お年頃を迎えた姫が、それでも恋愛方面はお鈍な上に殿下をそういう対象とすらしていないのは、ジョンソンや俺は勿論の事、国王陛下や王妃陛下に果ては宰相閣下までもがヤキモキ悩んでいる、今の王国一番の周知の事実で悩みの種だったりする。


……あー、まぁ勿論ごく一部の間でのみだが。


この数世代、戦をせず和平を貫く外交に徹し、国を富ませて強国へと変換を遂げた我が王国。

そんな強国の次期国王陛下である王太子殿下。

周辺国から警戒されるのはまぁ当然の事で。

狙われる存在になり得るからと、元近衛の俺が王族からの要請で姫の護衛となって数年経過する。


有名だからねー、色々と……。


で、そんな強国でも今一番有望視されてる次期国王の弱点であると同時に逆鱗でもある彼女、姫。

本名は勿論別にあるのだが、婚約者本人すらその名を滅多に呼ばず、そんな中で側近が呼ぶ訳にもいかずに皆から姫と呼ばれている存在。


ただ一人、誰からも完璧と呼ばれ恐れられてすら居る王太子殿下を“人”へと戻せる存在だとも。

身近で接していると特にその思いは強くなる。


……いゃ、別のモノにすら感じるかも知れない。

デレデレだれだれ甘々と最早別モノだから。

誰だったか?

耳から砂糖を詰められて、それを口から吐き出してる気分だ!などと変に納得してしまうような戯れ言を抜かした奴は?!あぁジョンソンか。


聞いて憶えて納得して以来、殿下と姫の遣り取りを端から聞く度にそんな気分にさせられた。

人間の思い込みは怖いと感じた瞬間だったっけ。


…………閑話休題。


昔、見習いの頃に参加した近衛の強化訓練。

王都から遠く辺境の何処ぞかの山奥の、上が霞む位の高さから落ちる滝壺の淵で騎士団長が釣り上げたやたらとデカい魚、ヌシとか呼ばれた奴。

何か目の前の光景でアレを思い出したわ、俺。


身に纏うその派手な金色の、キンキラしたドレスを鱗に見立てれば特にそっくりだと思う。

水から揚げられて、ビタンビタンと激しく身を捩らせて暴れる様が良く似てもうそっくり。


後ろ手に縛り上げられて首と背中と足の辺りを成人男性3人で抑えているとはとても思えないわ。

アレを人間扱いして良いのかと疑問すら湧く。


隣で遠い目をしながら妄言吐いた同僚も、現実逃避した挙げ句にそうなったのだろう、きっと。

だって目の前のこの光景を見て俺も思ったから。

色々と現実だとは思いたくない。

女性不信に陥ったら責任は誰に在るのだろう?


あの時の強化訓練の際の大魚、確か頸の下に太い針を打ち込んだら直ぐに静かになったよね?

アレも変わらない位の大物だから、同じサイズのヤツを使えばやはり静かになるだろうか?


試してみたいけどダメだろうか……?


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