そして舞台は終幕へと向かう……のか?
わたくしだけでなく、同級の友人・知人の皆様方の善き日となる筈でしたデビュタント舞踏会。
今、その会場内は騒然としております。
フィーズにエスコートされ会場に入場致しましてそのまま壇上の所定の場所へと向かいました。
わたくしは婚約者であり未来の王太子妃。
既に準王族の身分となっておりますから決められた位置へと向かうのは当然の事なのです。
まだ殿下は参られておりませんでしたけれど、わたくしが壇上へと上がった直後にはご入場と相成りました。そのお姿を拝見してホッとしてしまったのは内緒にしておきましょう。思っていた以上に緊張してしまっていたようですわね、わたくし。
そしてその矢先の騒動。
騒ぎ出した一人の少女は……何故でしょうか?わたくしを目の敵となさっておられるご様子。
睨まれ指差され罵声まで浴びせられましたわ。
この大広間の、王族のみに許された階段を登ろうとして近衛に取り押さえられているのは何処か見覚えのある方です。……前に学園でお目に掛かった事が有るような?けれども知人では、無いですわね。
その前後にも淑女らしからぬ叫びを披露されておりまして、『ヒロイン』ですとか『ストーリー』ですとか何やら聞き慣れない言葉が並んでおります。そんな物語でもあるのでしょうか?彼女は一体どんな主張をされたいのでしょうか?わたくしにはさっぱり分かりません。分かりませんけれど。
「……お顔立ちがどうであろうとも性格に難が有りましょうとも殿下は殿下ですわ。十余年お側に居りましたけれど、決して理不尽な真似事はなさいませんし、日々国のために尽力すらされて居りますもの。ご自分に対してのご不満がお在りでしたらそれは貴女様の研鑽が足りないだけでしょう。殿下は他者にとっての鏡の様な存在ですから」
隣に立つ殿下を見上げながらそう伝えたしたら、わたくしの言葉を受けた殿下が口元を覆われて気まずげに視線を反らされましたけど何か可笑しな事を申しましたかしら?周囲も何故だか皆様お揃いで目を丸くされて此方をご覧ですし?
けれどもそうです。
殿下は相対する者にとって内心を写し出す鏡だとわたくしには思えます。此方の機微を察した上で自ら動く事も有れば問題提起をなさってお相手自身に解決を促す場合もございますもの。
わたくしは婚約者となりましてから様々な場所にご一緒させて頂きましたが、殿下は決して身分なき者達であろうとも、また心無い雑言を浴びせられようとも、理不尽に傲らず真摯に向き合っていらっしゃる姿を拝見するのが当たり前の事でしたから。
「……惚気?!ノロケなのかこれ!?」
「そんなお優しい方だったっけ?殿下……」
「それダレのコトを言ってるのかなぁ?!と聞きたくなるのは自分の気のせい?」
「良かったですねぇ、格好つけの最たる部分を姫君は好意的にお捉え下さって」
「……喧しい!!」
会場内が騒めきだし、主に男性の囁き声が彼方此方から聞こえ、またジョンソン様が殿下の肩に手を置かれて何かをお話ですけど小声過ぎてわたくしの元までは聞こえては来ません。本当にさっぱり分かりませんわ。わたくしはただ、わたくしの知る殿下の人となりをお話ししたに過ぎませんのに。
疑問を感じて思わず頬に指を当て首を傾げましたら、珍しく慌てた殿下が真横の立ち位置を変えられてわたくしの前に立たれました。
…………どうか致しましたのかしら?
「姫、出来ればそういう仕草は私の前だけにして欲しい。こんな人前でする仕草では無い。……可愛らし過ぎて男共が顔を赤らめてるじゃないか!?抉り出してやろうかこんチキショウ!!」
「まぁ……、はしたない事でしたのね。申し訳ございませんでしたわ、殿下……」
「……うんまぁそう思ってくれていいよ」
殿下のお言葉の後半は何故か小声でしたのでよくは聞こえませんでしたが、注意を受けてしまった以上は気を付けませんとね。失礼致しました。
改めて取り押さえられている女性を見下ろします。
わたくしの身は既に壇上にありますし、彼女は引き倒されてしまっておりますからどうしても見下ろす形となるのは仕方ございませんわね。
せっかく整えられた髪は無惨にも崩れ乱れておりまして、あぁ身に付けられたドレスも同様ですわね。同じ女性としては同情も禁じ得ませんが、殿下の命で取り押さえられている以上は余計な口出しは不敬に当たりますので今暫し堪えましょう。
……それにしましてもこの方、何故ドレスの色が白色では無いのでしょうか?学園でも拝見致しましたし、この場で並んでおりましたからデビュタント予定者の方だとは思うのですが……?
それともう一つ。
彼女の叫んでいたその言葉の数々。
聞き慣れない言葉ではあるのですが、頭の片隅では懐かしいと思う気持ちも何故か有るのです。
不思議ですわね……。




