表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/51

舞台女優同士の邂逅、天と地の落差について その2


夜会が開催されるのはこの城きっての最大の大広間だ。なので入場する為の出入口は無数に有る。

ただし、同時に各扉は目的別に明確な区分がまたなされてもいる。主に警備の効率化の為に。


……とはいえ、国内の貴族が一斉に集う大夜会。

招待客は元より、普段は別場所なのな臨時で働く為に集められた皆様も含めた人数は数千人規模。


むしろ増えた人数分を埋める為の臨時騎士の方々がどれ程お役に立つか?的な疑問も生じるが、まぁ今回には関係ないので流して頂ければ幸いです。


なので大抵の扉横には近衛騎士が立っている。

そして大広間に至る廊下の各所にも満遍なく。


一番メジャーなのが正面と左右に配置された大扉。

高さ5メートルはある重厚な両開きの扉は、夜会の参加者である貴族の皆様招待客専用の出入口。

貴族は各自、それぞれ好きな扉から入場する。

何故だか皆様毎度同じ扉から入場する様だが。


広間をぐるりと取り囲む回廊は実は狭い従業員専用の廊下となっており、数メートル毎に小さめな扉があってそこから給仕の者が男女入り乱れて忙しなく行き交っていた。また時々は警備の騎士達も交代や巡回などで主にこの扉を利用する。


そしてまた、年に一度か二度しか使われない特別な扉が門番の名を冠する貴族が配置される賓客専用。

その貴重な一度がデビュタント予定者達である。

それ以外では近隣諸国からの来訪者達くらいか。


大広間最奥の壇上にも実は扉が存在する。

此処もまた特別、王族専用の入退場用の扉だ。

正に中枢部の一角であり、この扉に至る為の通路には近衛騎士の中でも特に選ばれた者しか踏み込めない徹底ぶりで無条件で入れるのは王族のみ。

出入口も通路の全容すらも正に未公開ゾーン。


ちなみにアシュリフィスは既にご存知だ。

何せ妃教育の一環で城内網羅がございますので。


それに今回は参加者としての立場からの入場では有ったが、準王族として公務としての夜会に幼い頃から立ち会っているし、その際の入場は実は王族専用扉からだったりもするし……。


その扉は使用しない間は常に分厚いカーテンで覆い隠されているが、今は誰が見ても分かる様に両脇を縛って晒されていた。ただし結構奥まっているので段下からは余程背伸びせねば見えない。


ならばどうやって王族の入場が分かるのか?と言えばその辺りはキチンと考えられている。

ダンスの際に活躍する楽団が大広間の一角に控えているのだが、高らかに管楽器を鳴り響かせた後に、特別扉の番人こと門番子爵がその入場をこれまた高らかに告げるからだった。


それまでは、デビュタント予定者達を抜きにした参加者達は思い思いに社交に励む。飲み物を片手に、ある者は優雅に、ある者は腹に一物を抱えて。


しかし、皆の視線は今は一点に注がれている。

その場所は王族の登場する壇上の少しだけ下段に居る一人の美しい少女の姿。彼女は壇上に身体を向けているので客達から見えるのは後ろ姿か斜め後ろからの姿でしかないが、すらりとした見事な肢体を白い豪奢な衣装で包み凛と佇む姿はそれだけで人々を惹き付けて止まない。


ただ其所に在るだけで万人の目を惹く存在。

それが王太子殿下の婚約者であるアシュリフィス・ヴィクトリア=アシュフォールという少女なのであると改めて認識させられる参加者達だった。



☆☆☆☆☆



(何であのクソ女!あたしより目立つ位置に立ってるのよっ!?ホントに邪魔ねっっ!!)


最初に呼ばれて会場に入った際の騒めきとその後に続いた沈黙を、自分の容姿とドレスへの称賛だと勝手に勘違いして良い様にしか考えもしなかったのはさすがに花畑女。全く逆だというのに。


横に並ばず背後に次々と並んだ同級生達の事も、あたしが恐れ多くて横に来れないのね……などとまぁ勝手な誤解は積み上がる一方だった。


最後に登場し、会場中の視線を一気に集めたばかりか、しかも自分よりも上段へと上がったアシュリフィスへの憎悪は増すばかり。『身分順に登場する』事も『並ぶ立ち位置』も『デビュタント衣装の通例』も、ましてや『王族の婚約者は準王族』という常識すら知らないからこその暴挙だった。


自業自得を棚に上げ、顔を真っ赤にして壇上を睨み付けているが、幸か不幸か横には誰も居らず、また正面を向いたアシュリフィスにしてもヤツは背後なので気付かれる事は無かったが、般若か鬼面か阿修羅なその顔はせっかくの『ヒロインの儚げ美少女の容貌』を台無しにするには充分だったろう。


もしも仮にだが今現在ゲームが進行していたとして、攻略対象者がこれを見たら千年の恋も醒め果ててその場を裸足で逃げ出す事は請け合いだ。

……何も起きてないので仮定の話に過ぎないが。


阿修羅、いやそのまま金剛力士像にすらなれそうな容貌と殺気を放つ自称ヒロイン・アリエッティ。


この世界は確かに『乙女ゲームの舞台に似通った世界』ではある。が『乙女ゲームの世界』では無い。

そもそもヤツはゲーム攻略そのものを一切していないのだ。いくら元ゲーがヌルゲーであったとはいえ、何のリアクションも起こさずにゲームが進行するなどそれこそ『あり得ない』。


ソレにヤツが気付くのは何時か……?

……いや、永遠に無理……か?!



☆☆☆☆☆



「どうだ?会場の様子は……」


「一言で言えば異様です。『あり得ない事』がごく当たり前に起こりすぎての戸惑いと、その戸惑いの原因が全く自覚していない事から来る苛立ちとが綯交ぜになっておりますな、皆様」


「あの子には静観する様にと願われましたけど問題ないのか心配ですわね……」


「本来ならば許すべき事などでは無いのだが、妙なモノを削除に片す為の舞台故是非に、などと頭を下げてまで請われれば無碍にも出来ぬ。……その妙なモノはそれほどに厄介な代物なのか?」


「デビュタントの常識すら心得ない貴族令嬢が厄介以外に何だと言うんですの?!」


『白いドレス・銀のティアラ』。

『入り口での挨拶(女子はカーテシー)』。

『並びは二列で端から順に』。


……等々、報告された一部だけで十分過ぎる程の頭痛に見舞われた厄介モノの行動。生真面目な性格の王妃殿下には夜会を穢されているように思えてとても耐えられない屈辱だった。手にしているハンカチが絞られてギリギリと音を立てているが一体ナニに見立てているのだろうか?


……自分達の首で無い事を内心で祈るしかない国王陛下と宰相閣下。敢えて視線を反らして二人揃ってそっと自分の首を触ってしまった。


『問題ないのかしら?』と王妃殿下は心配していたがどう考えても問題しかない気までする。


今更ながら息子に全てを任せてしまって良かったのか!?と焦る国王陛下と、厄介モノのお陰で痛くなった頭を抱える王妃殿下と、いっそ慮外者が乱入でもして夜会がオジャンにならないかなぁ?などと現実逃避を始める宰相閣下。


この国のトップ3が揃いも揃って混乱中。


そろそろ会場への移動を願おうと控え室へと顔を出した事情を知らない陛下の護衛役たる騎士団長が、そのあまりにも異様な雰囲気に呑まれてそっと開けた扉を閉めた事にすら気付かず、各自が各々で嫌な悶えを繰り返していた三人がようやく正気に還るのに更に十数分を要したらしい。


ホントにイロイロと大丈夫なのか?

この国もこれから始まる珍喜劇も?


……その答えを持つ者は誰も居ない(作者含め)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ