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舞台女優同士の邂逅、天と地の落差について その1


デビュタントの鉄則にも例外が存在する。

その一つが身分に依る『段差』。

数年~十数年に一度しか使われない為に知らない者も多いのだが実は王族専用となる段が有る。


五年前には王太子殿下が、そして来年は第二王子殿下がご使用されるその段だが、今年は準王族であるお嬢様もまたその対象者であった。



☆☆☆☆☆



後数人でデビュタント予定者の呼び出しが終わる。


今は高位貴族の令息令嬢が数人、門番である子爵の守る扉向こうの控え室に残るのみ。最初はどうなるかと思ったが、その後は特にトラブルも起きずに何とか進んでいる事に安堵を覚えた子爵の彼だが、実はむしろこれからが彼にしてみればメインとも言えるので深呼吸をして改めて気を引き締める。


それから少しして、再び控え室の扉が開かれた。

姿を現したのは王太子殿下にエスコートされた婚約者であるお嬢様。そう、彼女がメインでトリを飾る最後の入場者。それは確かに緊張する。


「ああ、私は単なる姫の付き添いに過ぎないのだから畏まられても困るな」


(((((無理ですうぅ……!?)))))


殿下は苦笑しながらそう仰るが、まだ少年少女とはいえ高位貴族であれば、或いは城に務める身ともなればそんなの無理に等しい行為であった。


慌てて畏まった室内の令息令嬢達と子爵は青ざめて最高礼を施す。まさかとは思いながらも予想通りに王太子殿下が居らしたその矛盾を召喚しきれないまま下げた頭を上げる事も出来ずに居る。


ちょうど少し前に名を呼ばれ、会場へと足を踏み出した少年が開け放たれた扉の向こう側の光景を偶然チラ見して状況を悟り、巻き込まれなかった自分の悪運に内心で感謝の祈りを捧げたのは余談。

……残された友人に後日愚痴られた事も含めて。


「ではね、姫。また後程」


「はい、殿下」


ただ送っただけならばまだしも、名残惜しそうにエスコートの手を離す殿下に更に控え室内の心の声は一つに重なった事だろう。


(((((また直ぐに会場で一緒だろ?!)))))


と。


ようやっと手を離したかと思えば、ティアラの飾られた髪の、下ろされた一房を掬い上げて口付けるオマケ付きな甘々行為に、表情は変えずに頑張りながらも尚もげっそりとする同室の方々。


背後に気配を消して控えながらも、その心情が手に取る様に分かったフィーズは苦笑しジョンソンが殿下に退室を促す。その行為に、思わず殿下とお嬢様とフィーズを除いた全員が視線のみでジョンソンを拝む不可能な事をやってのけた。


……当人がそれに気付いたかは不明だが。


扉前で一度振り返り、改めて小さくお嬢様に手を振って尚も別れを名残惜しむ王太子殿下。

ここまで来るともう微笑ましさなど通り過ぎる。

この世界には居ないが、全員が揃ってチベスナ顔をするなど滅多に無い事では無かろうか?


今居る面子は全員が高位貴族の令息令嬢。

つまりは王太子殿下を良~くご存知の面々。

だからこそある程度の慣れからこれで済んでいる。

もし別の者が交じっていたら……どうだろう?


人間、知らない方が幸せな事も世の中には在る。


そんな言葉が彼ら彼女らの頭の中を過ったとか過らなかったとか……。真偽は闇の中だ。



☆☆☆☆☆



「アシュリフィス=ヴィクトリア・アシュフォール公爵令嬢、ご入場なされます!!」


門番と呼ばれる子爵の、朗々とした声が会場へと響き渡った。今日の中でも一番の大きさと集大成とも言える最高の響き。そしてようやっとお嬢様の本名が明らかになった瞬間だった。


王族ならば当たり前に付けられるがミドルネームを持つ貴族は基本的に存在しない。お嬢様の持つ『ヴィクトリア』も実は婚約者になってから国王陛下より授けられた準王族の証の一つだ。


……いや、正確には名付けたのは王太子殿下。


この国の筆頭公爵家の屋敷でお嬢様を見つけ、抱っこして拉致ってそのまま両親の元、つまりは王城へと誘か……連れ帰った際には既にミドルネームまで決めていたらしい。ちなみに王太子殿下のミドルネームはヴィクトルです。


優雅にカーテシーを施し歩み始めたお嬢様。

彼女の身に付けたドレスから靴から宝飾品全て、それこそ頭から足先に至るまで全部が王太子殿下からの贈り物である。別名『独占欲の塊』。


白いドレスだが会場の光を受けて銀色にも見える。

世にも珍しい稀少な糸がふんだんに使われている証拠で、そのスカート部分には更にダイヤモンドを細かく砕いた物と黒真珠が飾られている。


一体幾ら掛かっているのかちょっと怖くて聞けないソレは、首から胸元にかけては複雑な模様のレースで覆い隠され肌は見せない仕様になっていた。

そしてその細い首を飾るネックレスが国宝である、と気付いたのは一体幾人居ただろうか?


それでも身体のラインはハッキリと出るデザインなので、さながら可憐さと妖艶さが両立する、見る者全てを魅了せんばかりの美しさだ。


そう、その場に立つだけで輝きを放つ彼女。


先に並んでいた同級生達の視線が一点に集中する。

最初から分かっていた事だがやはり格が違う。

誰しもにそう思わせる程にお嬢様は美しかった。


…………ただ一人を除いて。



☆☆☆☆☆



アシュリフィスの立ち位置は階段の中程。

なので同級生達の列の邪魔にならない様にとその脇を通って階段へと向かう途中。

……ナニかが引っ掛かり一瞬彼女は足を止めた。


憎々しげに自分を睨む、何故か『金色のドレス』を身に纏って先頭ど真ん中に立つ少女。

その見覚えの有る顔に、学園での不可解な言動と共に嵐の様に去って行った人物だと気が付いた。


位置からすると下位貴族のお家の方?

でもデビュタントの筈なら何故白いドレスを着てはいらっしゃらないのかしら??


何故睨み付けられるのか心当たりは全く無いが、自分としては足を止める訳にはいかないのでそのまま通り過ぎて階段を上がる。その近い位置を通る際にはギリギリと歯軋りの音まで聞こえてしまい軽く眉を潜めてしまった。


彼女と会ったのは学園での『あの時』のみ。

……だった筈なのだが、自分の知らぬ間に何処かで邂逅するなり接触するなりしていたのか?

懸命に考えるが答えは出ない、当たり前だが。


いくら聡明な者であろうとも、まさか自分の生きている世界が別の世界では物語の舞台の様に準えていて、睨み付けている女が主人公気取りの花畑思考なヤツだなどとは考えもつかなかろう。


一つだけ分かる事があるとしたら、相手が自分に対して並々ならぬ憎悪を抱いているという事のみ。

心当たりが無い以上は戸惑いしか抱けないが。


同級生達が並ぶ位置から四段上がった先。

そこが準王族アシュリフィスの待機場所であった。

その踊り場の様な場所から更に四段階段があり、主催者である王族の方々が入場し並ぶ場所がある。

同級生達とは違い数段高い位置から一人、少しだけ視線を下げて至高の存在の入場を待つのだ。


ちなみにアシュリフィスには、いずれ自身もあの場所で王太子殿下と肩を並べて立ってデビュタント予定者を祝う……という自覚は未だ皆無。

まぁまずは自分のデビュタントで精一杯だし?


さぁ、舞台は整いつつある。



☆☆☆☆☆



さて、最後の出演者たる彼は……?


ちょうど王族専用の扉からの入場に備えながら彼女の様子を見守っていた王太子殿下。なので例のチンピラ尻軽女(彼命名)が婚約者を睨み付けている光景もバッチリ目撃してしまう。


「あの女……ブっ殺す!!」


主のその物騒な呟きを拾ったのは真後ろに控えたジョンソンのみ。確かにこれから彼の目論む騒動が持ち上がるのは必然では有ったが、それでもなるべく穏便に……と願わずには居られない彼であった。


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