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出演者に必要なのは頭痛薬?胃薬??


「凄ぇ事になってたわ……」


「確かに前代未聞では有ったな、あの光景」


廊下を歩くジョンソンとフィーズの会話は周囲に誰も居ない事もあってかかなり崩れていた。


認識阻害の効力を持つ眼鏡型の魔道具を外しながら眉間を揉むフィーズにジョンソンが苦笑しながら肩を叩いた。元々視力の良い彼には合わない魔道具だと承知の上で敢えて使ったのには訳がある。


『夜会出席者の入場の進捗は至って順当』。


そう報告を受けた後、総合プロデューサーであり上司でもある王太子殿下に様子見を命じられた。

ついでにお嬢様の護衛として現状を把握しておきたいフィーズも同行を申し出た……と、此処までは当たり前に近かったのだが問題が一つ。


色素の薄い色彩を持つ者が上位貴族だという認識が強いこの世界で、2人は珍しく茶色の髪と濃い色の瞳を持っていた。ただし、同時にその容貌は大変に整っているので逆に目立ってしまうのだ。

王太子殿下の身近な存在でもあるので有名だし。


そこで時々活躍するのがこの眼鏡型の魔道具。

王室専属魔術師達の汗と涙の結晶であるこの魔道具は基本的に未だに日の目を見ぬ極秘事項。

片手に満たぬ数しか無いが、その内3つを出資者である王太子殿下が握り活用されている。


…………ちなみにだが、残る一つの持ち主は言わぬが花だろう。フル活用されてる事も含め。


で、今は二つが活用された訳だ。

服を着替えて眼鏡を掛け、飲食の配膳に携わるスタッフに紛れて会場に入っての様子見。念のためにと飲み物の盆を持って歩いたら数人に呼び止められる羽目になったのはご愛嬌だろうか。


そこで目にした光景は正に前代未聞。


大広間の突き当たり奥の中央の空間に並ぶ白い衣装を身に纏った少年少女達が並ぶのはいつもの事。

違うのは、“金色”のドレスを着て一人前列でふんぞり返る女の姿があった事だろうか。髪飾りも小振りな銀のティアラでは無くけばけばしい原色の宝石が幾つも散りばめられた金色の豪華仕様。


王家主催の夜会の出席者はこの国の貴族の大半。

その中には、自身の子供の緊張のデビュタントを見守る保護者の方々もいらっしゃる。そしてより身近で見守ろうと、中央を遠巻きにする大人の輪の中でも前に出る傾向が強いのだ。


そしてその親御さん方もまた全員が全員、台無しにしかねない行為を平然として退けた者を許す筈も無く、憎々しげにある一点を睨み付けては隣近所の者達と額を寄せ合い小声で会話している。


「今後当分の間社交界も荒れそうだ」


「今日の夜会の本来の意図が一人の愚者によって此処まで歪むとはある意味凄ぇ……」


「騒乱罪と侮辱罪、追加しても構わないかもな」


王家主催の夜会の趣旨を違えたのだから充分に相応の理由には出来るだろう。今更一つや二つ背負わせる罪が増えた所で良心も痛みやしない。

自分が提案せずとも鬱屈していた上司の事だ。

すぐその思考に至って嬉々として実行するだろう。


「しかしそうなると気の毒だな……」


「後で改めて舞踏会を開催なさる事を殿下が提案されて陛下もご了承なさった。巻き添えを喰らった連中は気の毒ではあるがまぁそれを励みにして貰うしかあるまいよ」


「半分婚活の場と化している場を歪めたんだ。あの女の親もあちこちの貴族から怨みを買うだろうがそれも自業自得だ。それこそあんな風に育てた自分か奇妙な娘を怨めば良いさ」


ここ最近、イロイロと巻き添えを喰らっているのは今日のデビュタント予定者達だけでは無い。


彼ら2人もまた一番の被害者は自分達だろうと思っている。が、実はそう考える人間は多かれ少なかれ存在した。迷惑度はそれぞれだが皆が皆、己が不快にさせられているとしか捉えられない言動を女は繰り返していたのだから。


そしてそれは親である男爵も同様だ。

金で買った地位であるにも関わらず、代々受け継ぐ事を誇りに思う貴族の血筋を蔑ろにした上で貶す。

貴族社会に於いて一番してはいけない事だろう。


まぁ貴族達は貴族達で男爵を成り上がりだの不遜なのは平民の穢れた血筋だからだろうとか貶しているのでこの辺りはお互い様か、喧嘩両成敗か。


いずれにせよ男爵親娘が揃ってこの国そのものの本来の在り方に喧嘩を売ったのは紛れもない事実。

ならばそれなりの裁かれ方をしなければ誰も納得などしないだろう。勿論此方は手心を加えるつもりなど一切無いし穏便に済ませる様に願う者も居ない筈。直接被害を被らなくとも不快には思わされている時点で親娘に味方など皆無なのだから。


「とにかく俺らは在りのままを報告するまでだ」


「……そうだな」


ようやく目の違和感が消えたらしいフィーズと2人、肩を並べて主人の元へと戻る。自分達が居ないのを良い事に、さぞかしあの控え室は甘ったるい空気に満ち満ちている事だろう。それを思うと戻りたくない気分にも陥る2人であった。



☆☆☆☆☆



「…………あのぉ、フィーズとジョンソン様はどちらに行かれたのでしょうか?」


「ひーめ、君は私が目の前に居るのに他の男の名前をその可愛らしい唇で紡ぐのかい?悪い子だね」


嫌な予想とは良く当たるモノの様だ。

2人が出て行ってから暫く、然り気なく疑問に思った事を口にしたお嬢様と、咎める言葉にすら歯が浮くを通り越して溶けそうな、あるいは抜けて全力ダッシュで逃げ出しそうな台詞の王太子殿下。


(……ちなみに彼は通常営業です)。


これを特に口説き文句だとすら思わないお嬢様は大物なのかお馬鹿なのか果たしてどちらだろうか?

閑話休題。


戻った際もこの有り様だったので2人はげっそり。

ちなみにその後、2人の無事?な姿を見てお嬢様が瞳を輝かせ、それを見た王太子殿下が嫉妬心を燃やすというある意味いつも通りの展開となった。カオスな城内でここだけは平和な空気。


「頑張った俺らを労っても欲しいけど、それよりもせめて普通の空気感が欲しい!と切望してしまう俺って何処か可笑しいんだろうか?」


「大丈夫だ、俺も同感」


予測通りの部屋を埋め尽くす甘々空気にげっそりしながら小声で会話するフィーズとジョンソン。

ゲンナリと嘆くジョンソンが落とした肩を叩いて慰めるフィーズ。言葉は軽いが案外必死だ。


デレドロくそ甘な空気を撒き散らす迷惑を何とも思わない主人と、その空気を可笑しいとすら思わず無意識ながらも当たり前に受け止める婚約者。


せめて自分達はまともな感性でいような、と、改めて誓い合う被害者従者2人でありました。


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