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幕開けは誰の手で成されるのか?


白いドレスはデビュタントの証。

古今東西それが鉄則となって久しい昨今。


『金環の間』と呼ばれる城一番の大広間。


大夜会や他国との謁見などで使用される、重厚かつ広々としたその空間は国をきっての権威の象徴を現し、四方を彩る壁紙から敷かれた絨毯、果ては花瓶や絵画などの置かれた小物に至るまで、最高級かつ最高品質のその名に相応しい色で揃えられかつ厳選された物のみが配置されていた。


その入り口の扉もまた重厚感に満ち溢れた代物。

通称門番と呼ばれる、この国独自の役職が実は存在する。爵位を授けられたその一族に代々受け継がれる役職で、王族主催の会が開催される度にその入り口で来訪者の名を読み挙げるのだ。


ただの門番だと思うなかれ。

爵位は子爵に過ぎないが、目まぐるしく替わる国内全ての貴族の顔と名前を常に記憶し一致させ、5年毎に発行される貴族年鑑の編纂にも携わる中々に重要な役割を持つ一族である。数年前に当主が替わりはしたが、それでもそれなりに経験は積んだ若き有能な青年と評判高い彼。


…………だが今は混乱の極みにあった。


この日の為に擦り切れる程に年鑑を読み込んだ。

妻だけでなく引退した両親にも頼み込み、家族総出で社交に励んで情報収集に邁進した。

特別給を別途支給し、勤めている使用人達にもあらゆる噂を集めさせて徹夜で分析もした。


今年は未来の王妃殿下のデビュタント。

王太子殿下の溺愛の半端なさからもその力の入れようが予想された為、全力で挑むべく彼は頑張ってこの日に備えていたのだ。そして備えて居たが為に混乱がより加速したのかも知れない。


後日、さてこの日の一番の被害者は誰?との議論になった際に真っ先に手を挙げたのは彼だった。


彼の守る扉の向こう側は控え室の様な造りになっている。ただしこの部屋もそれなりに広い。

何せ国の重鎮の謁見ともなれば同行する従者や騎士の数も半端ない上に荷物もそれなりだからだ。

『金環の間』が千単位なら控え室は百単位。


もう一つのデビュタント鉄則はその順番。

爵位の低い者から順に呼ばれるというもの。


今回のデビュタント予定者に騎士爵と準男爵位の家の者は居ないので先頭は男爵家の者だ。

それなりに人数は居るがそこは抜かりない。

全員の顔と名前は一致しているし変更も無し。


ただ、その名を呼んで入場を促して良いものかどうかをひたすら迷うのには訳がある。


先頭で堂々とふんぞり返る一人の令嬢。

鼻を膨らませて鼻息荒く、名が呼ばれるのを今か今かと待ち受けている彼女の衣装は“金色”。

その髪を飾るのもまた銀の小さなティアラでは無くゴテゴテした派手な宝石細工の“髪飾り”。


男爵家の令嬢だから先頭でも問題は無い。

次の並ぶ令息令嬢との距離がかなり有るが気持ちは分かるし広さも問題ないので咎める気も無い。


つい彼ら彼女らに視線を向ければ、全員が困惑と腹立たしさの入り雑じった表情を浮かべながら頷かれた。その場が先頭の珍妙な一人を除いて同じ気持ちを共有した貴重な瞬間だっただろう。


『どうするの?コレ…………』。



☆☆☆☆☆




ちなみにだが、この入場順番には爵位順である以外に明確な決まりは無い。同じ爵位同士なら誰が最初で最後でもそれが力関係に繋がる事は無い。


ただし“門番”の彼にとっての不幸は、今回に限り王族からのご指名で一番最初の入場者のみは定められ通知されていた。それがこの非常識令嬢。


この際だからコイツにとことん恥を搔かせてやれさせてやれ、との心遣いかららしい。確かにインパクトは大だろう。たとえその視線が侮蔑と批難にまみれていたとしても注目される事は間違いないしそれにどうせヤツはそれに気付きやしない。


この通知を門番へと下知する前、王太子殿下はこの日一番の笑顔でそう側近へと告げたそうだが本人達以外にそれを知る者は居ない。


王族からの厳命と在らば嫌などと言えない。

ショボ過ぎる勅命に近い効力を持つ厳命。

権力の使い処が可笑しいだろ?!と彼が叫んだかどうかは不明。叫びたくは有っただろうが。


密やかな囁きでも万人が集えば騒めきに近い。

彼の守る扉の向こうの会場に集った紳士淑女はほぼ出揃った。もう時間切れだろう……。


そう悟った門番は諦めの境地に達していた。

息を深く吸って整え、そして高らかにデビュタントの始まりを宣言すべく声を挙げる。


「……タングレン男爵令嬢アリエッティ様」


今までで一番力んだ宣誓であっただろう。

彼の命名だと別名自棄糞叫び。

叫ぶ前に扉を二度ノックしたのは、彼方側に居る騎士への扉の開場合図だったのは余談だ。

一拍空白が有ったのはご愛嬌だと思って欲しい。


騒めきが一瞬止まり視線が集中する。


広大な空間に生まれた空白に、その後誰かしらが息を呑む音が彼方此方から続出した。続いて呻き声と人が倒れて慌てる関係者の悲鳴がそこかしこでプチパニックを起こす会場のカオスぶり。


まだ騒ぎに気付かない演出家王太子殿下と騒動の大元でありながら全く自覚の無い出演者ヒドイン。


さて、無事に幕は降りるのだろうか?


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