序曲は緩やかかつジワジワと?
久しぶり&短めですm(_ _)m
いきなり控え室で王宮付き女官に「此方へどうぞ」と声を掛けられた時には何事かと思ったけど、案内された先は家の応接室より豪華な内装の控え室で、しかもあたし個人で使って良いと聞いた時にはあぁとうとうヒロイン展開!って喜んだわ。
ってぇかむしろ遅すぎる位よね?
まぁ殿下の顔に免じて許したげるけどぉ~。
あれだけの美貌だもの、声もイイし。
それで膝をついてあたしに甘く愛を囁いてくれれば許してあげられなくも無いかなぁ~?
ほらぁ、やっぱりそうじゃない!!
高慢ちきな婚約者があたしの存在に嫉妬して何かを仕掛けて来ようとしてて、それを事前に察した殿下が救いの手を差し伸べてくれたのよ!!
夜会の始まる時にあたしを颯爽と迎えに来てくれてエスコートしてくれて、王座のある壇上から高慢ちきを呼び出して断罪するのよ!!
そしてあたしは殿下に正式にプロポーズされていずれは王妃になるんだわッ!ざまぁ展開なら高慢ちきは家を追い出されて平民になって修道院行きだろうけど、どうせだったら辺境辺りに送って粗野な兵士に嬲り物にさせた後に娼館に叩き込むのもアリよね?どうせ性悪女なんだからさぁ~……。
☆☆☆☆☆
先頭に女官、周囲を騎士に囲まれて廊下を歩く自称ヒロイン。内心で狂喜乱舞しながらも同時に不満もぶちまけてはいたが、まさか自分が他人の迷惑にならないように『連行』され、周囲から苦情をぶちまけられた挙げ句の『隔離』などとは考えもしない。何せ御花畑筆頭だから。
自分を見初めた王太子が嫉妬深く陰湿な婚約者から守る為の配慮なのだろうと、勝手に妄想を膨らませているせいで足取りも軽やかだ。ただしドレスの裾をバサバサと音を立てさせながら大股に歩いているので、背後を歩く騎士に眉を潜められてるのだがそれにすら気付きもしない。
ついでに言えば、その妄想相手の王太子殿下が、夜会で晒し者としての脚光を浴びさせる手筈を着々と調えて手ぐすねひいて待ち構えいるなど思いもしない。なので鼻を膨らませて鼻息荒く興奮している無様な表情を、廊下の所々に配置された見目麗しい近衛騎士の面々に冷ややかに眺められている事すら考えも及ばないのだ。ほら馬鹿だから。
万が一にもコイツの内心を王太子殿下が知ったならばただでは済まさない所だったろう。
晒し者などと生温い作戦では無く自らの手で八つ裂きにする位平気でしていたかも知れない。そして周囲も決してそれを止めないだろう。
婚約者のお嬢様ご本人だけが何故だか頑なに一向に気付かない王太子殿下の溺愛。
それを事在る毎に様々な場面で目撃させられ辟易食傷気味な高位貴族の令息令嬢方。
此方は全体浮かれポンチ気味でまだ不穏な空気を察せずにただただ辟易だけはしっかりしている。
逆に、一部の、不遜な野望に燃える身勝手御花畑一同を除いた下位貴族の令息令嬢方。
非常識極まる自称ヒロインと同類にされ捲き込まれたくないが為に必死に無に徹するけれど、せっかくのデビュタントが台無しになる危険性まで孕んだ御愁傷様としか言い様の無い有り様。
しかし彼等彼女等はまだ知らない。
実はこの場にはそれ以上の危険が潜んでいる事を。
その非常識が、この国の王太子殿下の逆鱗に触れる行いを今からしようとしている、などと。
知っていれば、一生に一度の栄誉など放り投げて一目散に逃げ出した事だろう。知らずにいる事は果たして幸運なのかはたまた不幸なのだろうか?
本当に一部に限るが、平穏な国の中心の王城が不穏極まる気配に満ち満ちていた……。




