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演目内容は悲劇か喜劇か?それとも……


「……ねぇ!アレ一体何なの?!」


「知らないわよ!あんな非常識なヤツとなんか知り合いでも何でも無いわッ!!」


「今日ってデビュタント……よね?」


「この日を夢見て必死にドレス仕立てる為のお金を貯めて、次に宝飾品買う為のお金貯めて、合間に日銭稼いで短期で家庭教師雇って拷問特訓受けて、痣だらけになりながらも合格もぎ取ってからは今度は傷直しと美容に力注ぎながら日にちを指折り数えたんだから間違いないけど……」


「……うん、ちょっとその辺は聞かなかった事にしとくけど……。いやでも本当にナニ?!」


ヒソヒソと小声で、だが言い争う少女達。

中々に器用な事だが本人達はそれ所では無い。

まぁ、一人の少女のやたらと涙ぐましい日々には突っ込み入れたい気分だったが、それよりもまずは目の前の現実と向き合わねばなるまい。


部屋に堂々と入って来た人物の姿を認めた途端、それまで控え室で互いに笑いさざめいていた少女達は一様に黙り込んだ。その人数にも関わらず、吐く溜め息すら聞こえそうな沈黙に支配される場。


一方、部屋中の注目を浴びた少女はむしろ満足げに歩みを進めると、部屋の中央に有ったソファーにドカリと音を立てて座り偉そうな態度を崩さない。

淡めだが着用している『金色』のドレスに皺が寄るのも気にしてはいなさそうだった。


オマケに、テーブルに置かれた軽食や菓子、飲み物に至るまで端から音を立てて飲食する有り様。貴族としての礼儀作法すら心得ていないとしか思えない行為を平気でしている。どうやら非常識なのは衣装だけでは無さそうだ。


廊下へと出て小声で会話する彼女達は追い出された訳では無い。あまりにも理解出来ないその『非常識ぶり』に巻き添えにされる事を自ら拒んだ故だ。

常々学園での噂は聞いていたが、それを上回る凄まじさに茫然とする事しか出来やしなかった。


そして何よりも、『白い』衣装と定められたデビュタントに『金色』のドレスを堂々と着用して来るその神経が信じられなかった。よく見れば、本人曰く『ヒロインの象徴』であるピンクゴールドのきつめ縦ロールに巻かれたその髪を飾るのは、銀のティアラでは無く黒い石を幾つも配した豪奢な金の髪飾り。伝統など欠片も存在しない出で立ちだ。


「ねぇ、あんなのが私達の記念すべきデビュタントに一緒に呼ばれて並ぶ、の……?」


「そんなの嫌よ!?」


「私だって御免だわ!でもどうしたら……?」


少女達の焦燥は一気に募って行く。

自分達はただの下位貴族の娘に過ぎない。家族も一緒に招待されてはいるが、一生の内の数度に過ぎない幸運とはその家族も同じ立場だ。城の中に知り合いなど居はしない。


「……ねぇ、この際だから王太子殿下の婚約者様を頼るのはどうかしら?」


「何言っているのよ?!そんな雲の上のお方を簡単に頼れる筈なんか無いわッ!?」


「うん。普段なら、ね」


「…………どういう意味?」


「だって今日のデビュタントがご一緒なのは婚約者様も同じなのよ。その婚約者様の記念すべき日にケチを付ける様な事を“あの”王太子殿下がお許しになられると思って?」


「「確かにそうですわね……」」


ある程度の人数が居るこの下位貴族用に設けられた控え室。広さは充分に有るために、彼女達の様に退室せずに隅の方に寄って様子見している者達も居るしまだ到着していない者達も居る。


自宅か学園の寮で身支度を済ませてから馬車で来るのだが、王族主催で一年に一度のデビュタントを兼ねるこの夜会は招待客の数が半端ない。皆が馬車で来るので城へ向かう道は今頃大渋滞が起きているだろう。この場に居る者達はそれを見越して早めに来たのだ。それもこうしてあちこちに用途に応じた控え室が用意されているからこそなのだが。


廊下で固まる三人を見かねて近寄って来た同じ下位貴族の友人達や、やはり不審に感じて近付いた控え室側配置の警備の騎士を数人巻き込んで、何とか王太子殿下まで幾人か介するものの現状を報告出来る算段を整えた少女達。


自分達の大事な晴れ舞台を邪魔されたくない!!

そんな思いのみで必死だった彼女達だったが、意外にもその行動力を買われて卒業後の進路として城務めを提示されるのは後日の話。


更にその数年後には、『自身の思慮と行動で未来を切り開いた下位貴族女性の鑑!』などとの、赤面する様な過大な評価に頭を悩ませる事になるなど夢にも思わない少女三人組であった。



☆☆☆☆☆



「凄ぇな、よくそこまで伝統と格式を無視した行動が採れるわ。どんな神経してんだ?!」


「やたら太いか全く無いか。どちらでも驚きゃしませんよ私としては」


「全く同感だ」


「確かに今までが今までだもんな……」


意を決した下位貴族少女三人組は行動を開始した。

だが、無闇矢鱈に王太子殿下の元へ突撃しても騎士に阻まれるのは目に見えている。そこで互いに知恵を絞り合い、ワンクッション置く事にして候補に選ばれたのがフィーズだった。


デビュタント会場で白いドレスを身に着けて居るのはある意味お嬢様の同級生たる証拠となる。

『デビュタントが白い衣装』と定められているのと同様に、今日の他の招待客は『白い衣装以外』と定められているのだ。伝統と格式に則って。


そして護衛のフィーズはお嬢様の同級生の顔と地位を全て把握している。本人は当たり前だと思うだけだがそれこそが彼の恐るべき能力の一端。


それはともかく。

近衛騎士に警戒されながらもお嬢様の控え室廊下に待機していたフィーズの元へと誘われた彼女達の努力は報われ、こうして無事?に王太子殿下の耳へと報告が成されるに至ったのだった。


それはそれはご機嫌麗しい王太子殿下と側近に笑顔で礼とデビュタントの祝いの言葉を掛けられて、恐縮しながらも狂喜乱舞な足取りで退室して行った少女三人組を見送った後。連れ立った護衛は残って男三人のしょっぱい報告会となった次第。


「デビュタントに相応しい装いでは無い、との理由で退場させる事も可能なんだが……」


「アレの性根からするとむしろ優位になりそう」


「頭の上から足の爪先まで腐ってそうだし」


「やたらと太いか無いかの究極二択な神経に全身中身腐ってるとしか表現出来ないヤツ、ねぇ……。あ、人間扱いするから腹も立つのか」


自称ヒロインが聞いたら泣くよりもむしろ怒り狂いそうな感想を其々が洩らす。そんな気遣いはもっての他なので各自言いたい放題だが、最後のジョンソンの台詞にむしろ二人は納得したかの様に頷いていた。確かに人外扱いした方が思考を向けなければならない際にもまだマシになる。


考えたくも無いのに考えなければならない。

その葛藤を見事に解決出来る、超絶力業だが。


まだ夜会は開始されない。何せ国中の貴族の殆どが一堂に会するのだ。デビュタント予定の子息令嬢もまだ全員集合を果たしていない為後数時間は余力がある。それが彼等の救いだった。


「もうさっさと手立てを考えよう」


「そーですね、傷は浅い方が良いですし」


「どうせヤるならば徹底的に。特別扱いして夢を増長させてやりましょうか」


順番にそう答えながらもあ、殿下投げたな……と察した側近と護衛。その後、フィーズかひとっ走りして王妃殿下に一言断りを入れてから女官長を呼び出し、ジョンソンは控え室に居る『非常識』を早急に『別室に隔離』する様にと、一応内容はオブラートに包んで選んだ言葉で指示を出した。


ただし城勤めは基本的に皆様優秀。

女官長は王妃殿下の腹心。国の表も裏も知り尽くす立場に立つ女傑なので察しもそれは素早い。

無言のまま一礼して退室した後、男性視点では足りない部分を補うべく配下に指示を与えて行く。


さて、夜会の幕開けまで後もう少し……。


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