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走行中の馬車での口説きはご遠慮下さい


「お嬢様、王太子殿下がいらっしゃいました」


「あら?いつもよりお早いですわね」


「……どうせ待ちきれなかったのでしょう」


「……子供か?!」


部家の扉から聞こえた声に返事をしましたら、同時に背後から何やら小さな呟きが聞こえて参りました。わたくしが座るソファーの後ろには騎士の正装をしたフィーズしか居りません。何気なく振り返りましたらにっこりと微笑まれましたけれど。


…………わたくしの空耳でしょうか?


そのまま視線を戻しましたので、近くの壁際に待機していたメイドとフィーズが目で何やらコンタクトを取った事にもわたくしは気付きませんでした。


ドレスが乱れない様にそっと立ち上がると、両脇からメイド達が裾を直してくれるのを待ちます。もう慣れたもので優秀な彼女達は素早く、けれども綺麗にどうしても付いてしまう乱れを整えてくれるのです。後でお礼を言いませんとね。


そこへフィーズがエスコートの為に手を差し伸べて来ます。その手に自分の右手を乗せるのももうすっかり慣れました。殿下の婚約者であるわたくしはまだ成人前にも関わらず年に数度は王家主催の夜会へ出席しております。いわば公務、ですわね。


屋敷は大きく、わたくしの部屋は2階にある為に男性のエスコートは欠かせません。ドレスは足元を隠してしまう程の長さがあるのですから。今では此方も慣れましたけれど、最初の頃は何度か裾を踏みそうになって歩き方も無様なものでしたわ。


10歳までは足首の見える長さのドレスでしたけれどその後今の長さになりまして、その見えない怖さに歩くのが恐怖に思えた時期もございましたし。


フィーズが護衛に就く様になった当初もエスコートにすら難儀致しました。当時のわたくしは10歳になったばかりでフィーズは既に青年でしたから。


近衛騎士の選考基準は幾つもございますがやはり身長もその内の大事な一要素でしょう。その為、わたくしとフィーズの身長差はそれこそ大人と子供。

歩幅も違えば手を置く高さも違うのですから合わせられるまでには苦労しましたわ、お互いに。


物語で読んで憧れを抱いていた騎士様。

けれどもフィーズは物語に出て来る騎士様とはやはり何処か違いました。顔立ちは良いのですが目付きは鋭いですし、そのせいかわたくしを見る目もまるで睨んでいるかの様でしたので。


我が家にも騎士は居りますけれど、立っているだけで迫力のある男性などその時に初めて見ましたから騎士様とは本当は怖いものなのかしら?などと思ってしまいましたし。誤解でしたけど。


ちょうどその頃から殿下の婚約者としての公務が本格的にスタート致しまして、頻繁に彼方此方の夜会やお茶会に出向く様になり、護衛として派遣された他の騎士様達とお話をする様になってからわたくしの思い込みと判明致しましたから。


つまり、フィーズはただ目付きが悪いだけの普通の騎士様だったという事ですわね。


「お嬢様、何やら不埒な事をお考えで?」


「……そんな真似はしませんわ」


そっとフィーズを見上げてそんな事を考えながら歩いておりましたら、一度階段手前で足を止めた際にフィーズにそう見下ろされました。思わず顔を背けてツンとした返事をしてしまいましたが、長い付き合いの彼にはバレバレの様で添えた手越しに笑いの震えが伝わって参ります。もう!酷いですわ!?


「ほらほらお嬢様、笑顔になりませんと淑女が台無しになってしまいますよ」


「……フィーズが大人気ないので合わせただけですからわたくしのせいではありません」


「淑女に年齢は関係ないと常々仰られておいでの癖に方針変更はご遠慮下さい」


皮肉を籠めたつもりが逆に軽快に返されてしまいむくれてしまいたくなります。でも階段を降りればもうそこは正面玄関のエントランス、そして何よりわたくしの視線の先には相も変わらず麗しい笑顔の王太子殿下がいらっしゃるのですから淑女の微笑みを崩す真似など出来ません。悔しいですが。


取り敢えず笑顔で階段を降り切りましょうか。

フィーズとは夜会が終わってから一度キッチリ話を着けた方が良さそうですね。まぁ彼はわたくしの護衛ですから何時でも出来そうですけれど。


「お待たせ致しました、殿下」


「姫を待つのも楽しみの一つなのだから私の楽しみを奪わないでおくれ。……にしても今日はまた一段と美しいね。天界から女神が降臨成されたか」


「……褒め過ぎですわ、殿下」


「私は貴女には嘘偽り無く話すよ、といつも言っているのだがまだ信じては貰えない様だね」


「さあ!参りましょう!?」


「そうだね、行こうか」


階段を降りた所で大股に歩み寄って来た殿下にご挨拶しましたら、またいつもの様に社交辞令でお褒め戴きました。わたくしよりもむしろ殿下の方が王族としての白を基調とされた正装がお似合いですのに……。髪色との対比が一段と映えて精悍なご様子が増しますのよね。麗しいですわ……。


結局わたくしの抗議は聞き届けて貰えず、クスクス笑う殿下へと右手を差し伸べて改めてエスコートをお任せ致します。けれどもやはり褒めて戴けるのは嬉しいものですね。少々胸が高鳴りました。


恥ずかしさを堪える為にも早々に迎えの馬車へと殿下と共に向かいましたけれど些か不敬だったかもしれません。横からそっと見上げて見ましたら気付いて微笑んでおられましたから大丈夫だとは思うのですが少しだけ不安ですわね……。



☆☆☆☆☆



狭くも無いが然程広いとも言えないのが馬車だ。

だが、さすがは王族専用と言うべきか、外側も豪華に造られているがそれは内部も負けてはいない。


王都は隅から隅まで道が整っている。

それでも石畳の為に馬車を走らせれば一定の振動が内部に伝わる。ただ王族専用馬車は職人達の技の粋が集約された最高品質を誇る為、一般の貴族が使う馬車とは比べ物にならない程乗り心地も良い。


振動が殆ど無く座席もフカフカ。

弟殿下などはご使用される際に未だにはしゃがれるそうだが、すっかり慣れてしまった王太子殿下やお嬢様は特に感動する様子は無い。実は此方も殿下に職人改革が成されていたがお嬢様は知らない。


「あのぅ殿下……」


「ん?何だい、姫」


「その……何故いつも前ではなくお隣に?!」


「此処が私の定位置だから仕方ない」


「……そう、なんですのね……」


((いや、騙されるなよお嬢様?!))


無表情を貫いて二人の前に並んで座る側近と護衛。

と同時に思わず内心で突っ込んでいた。

素直なのは大事な資質だが、特にお嬢様は殿下の断言には騙され傾向が強い。殿下が嘘などつく筈が無いとの信頼感とその断言口調が主な原因だ。


きっぱりサッパリはっきり。

殿下は自分とお嬢様の仲の為ならば息をする位自然に嘘もつく。だが言葉に全く迷いが無いのでつかれた事にすらお嬢様は気付かないのだ。


そして今日も今日とて、成人男性が二人並んでも余裕綽々な座席なのに、お嬢様にピッタリと寄り添いそれでも足りずに腕は彼女の腰に回している殿下。

馬車に他の人間が同乗しようとお構い無しにいつもの自分のスタイルを貫く姿。いっそ潔い?


「今日はまた一段と光輝く私の姫、成人おめでとう。これからもずっと私の隣で輝いておくれ」


「ありがとう存じますわ、殿下。拙い身ではございますが努力致しましょう」


「成人なのだから名前呼びしておくれ、姫」


「でしたら先に姫と呼ぶのをお止め下さいませ」


「……その愛らしい声で私の名を呼ばれる日を楽しみにするよ。本当に美しく愛らしい……」


そんな砂糖を詰め込まれた様な会話を耳にしながら、一段と腹筋と顔面筋に力を籠めた側近と護衛はまた同時にこう思ったそうな。


((誰でも良いから変わってくれ!金なら幾らでも払うから!!ついでに成人を理由に自分の寝所に姫君(お嬢様)を連れ込むんじゃ無ぇぞ!?))


と……。


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