トップ3の別名は『被害者同盟』
「順調に集まっているみたいだ、何よりだな」
(始めた時にはトチ狂ったかと思ったが……)
「言い出した動機にはどうしたものかと思いましたが結果を鑑みれば良くやったと言うべきですわ」
(相変わらずお馬鹿な息子なのよねぇ……)
「殿下は優秀ではありますから。……ある要素が絡むと一気に可笑しくはなりますが」
(才能の使い処と表裏の落差が激し過ぎ!!)
「いっそポンコツと仰って結構よ、宰相」
(むしろ言ってしまった方がスッキリしてよ)
「不純な動機からでも結果はキチンと出せるのだから問題が多少あっても心配は無かろうて」
(その結果のせいで苦労する人間が居るとはよもや考えてはいないだろうけどなぁ……)
「「「でもこれ見るのはちょっとヤダなぁ」」」
うず高く積み上げられた結果報告書の山。
目の前のそれに乾いた笑いを漏らしながら感想を述べるのは国のトップ3、国王・王妃・宰相だ。
口には出せない思いを抱えるのは皆様一緒、そしてやはり最後は揃ってため息と文句が出てしまう。
当事者で無い筈の自分達の目の前に積まれた山につい不本意さを感じても仕方がないだろう。
この3人は、幼馴染みの気安さもあってか事有る毎に顔を合わせて公私を交えた話し合いを行う。
最近は特に同じ人物のせいでその回数が増えた。
犯人は……言わずもがな、であろう。
宰相の家も代々優秀な人材を生む名門公爵家。
国王の叔母、先代国王の妹が降嫁して生まれた彼は国王にとっては従兄弟に当たる。歳も近いので若い頃から私的な立場の時には本音で話す。
ちなみにだが王妃も格式高い侯爵家の出身。
彼女は国王とは今の王太子とジョンソンの様な乳兄弟の間柄。親にも家にも本人にも何ら問題無く、年頃となり学園へ入学後に互いに意識が芽生え、王族としては珍しく恋愛結婚を果たした。
この件に関しては、事実を知った際にジョンソンが自身が男子であった事に心底胸を撫で下ろしたとか涙して歓喜したとか……まぁ色々と?
「……それにしても現実を見ないのは下位貴族年頃女性の悪癖なのでしょうかな?」
「歴史は繰り返す、とは言うが正にそうだな」
「長らく子が居ないなり本人に資質があるなりならば考えはしますけど、ただの思い上がりで側妃になりたいなど烏滸がましいだけですのにね」
それぞれ血の繋がりの有る王太子のやらかし暴走具合の結果の山からの微妙な空気を何とかしたかったのか宰相が話題を変えた。まぁ繋がってはいるが内容は異なる。何せ彼らは国のトップ3、問題が在るならば対処せねばならない立場なのだ。
結果からすると、全体数の三割近い下位貴族の娘が王太子の側妃か愛妾となる事を望み、それに気付いた親が手を打つ形で牽制や抑えに入ったそう。
一部は全く動かない辺り、娘同様に夢見過ぎて頭の中身が御花畑と化しているらしいが……。
実は『歴史は繰り返す』との国王の言葉通り、彼が学生生活していた頃にも似たような問題が持ち上がった事があるし、その際にも父親である先代国王にやはり似た事が起きたな……とボヤかれた。
普段ならば決して城の奥から出ない王族だが、国に定められた方針として学園には通わねばならないのでお年頃の少年少女と場を共にする。そうして数多の夢見る御花畑少女が爆誕するのだ。
それに夢見る御花畑共は大きな勘違いをしている。
側妃は必ずしも必要とされているモノでも無ければ、歴史上側妃を持った国王の方がむしろ少数派だといった事実がある事を。
そもそも最悪平民の娘でも成れる愛妾は別として、下位貴族の娘の場合は側妃となり王妃よりも先に子供を産んだとしても、自分が王妃に成り代われる訳でも産むだけで良い訳でも無かったりする。
側妃ですらキチンとした役割りを負う。
王妃が懐妊した際には公務の一部を代行したり王宮の人事権を委ねられて差配したりもする。なのでまずは候補として徹底した教育が施され、適正無しと判断された際には直ぐに資格を剥奪される。
そう、実は家柄よりも資質が重視されるのが『側妃』なのだ。高位貴族の娘が有利なのは幼少期の教育の土台に大きな違いが有るから。それでも、候補になった時点で普段からの立ち居振舞いにも影から調査が入って性格面の考慮もなされる。
ただこの数世代、側妃を必要としない時代が続いた為か、そんな知識も巷からは喪われているせいで身の程知らずが増えているのが現状だった。
国王も、学生時代に婚約が調ったにも関わらず、そんな御花畑共に有象無象に迫られ辟易した覚えは山盛りだ。どんなに護衛で周囲を固めようとも馬鹿が減る気配は無かったし、しかもただ迫るならばまだ可愛らしいモノばかりだった。
空き教室に連れ込まれそうになる、差し入れと称した媚薬入りの食べ物を押し付けられるから始まり、『放課後に○○に来て下さい』との呼び出し状が机に入っていない日など無きに等しく、3年もの間国王は勿論の事、護衛も含めて関係者全員心休まる時の方が少なかったかも知れない。
婚約者となった王妃と、側近であった宰相と力を合わせてこの異常事態を回避せんと奔走した。
国を束ねるトップ3、血の繋がりのある幼馴染みの仲である以前に、お互いに苦労を共にした仲間意識が強いが故の仲の良さなのも否めないだろう。
ちなみに王太子は、父親の過去からキチンと学び対策を怠らなかった為に案外快適な学生生活を謳歌した模様だ。中々にちゃっかり優秀サンである。
あまりの巧妙さに、父親ながら軽い嫉妬心を国王が息子に抱いたのを当人は気付かずに終わるが。
まぁ第一の理由は勿論、既に見つけていた『私の姫』を愛でるのに忙しく、他を顧みる余地も気に掛ける隙も見せなかったせいなのだが、代わりにその余波が今押し寄せているのは何の皮肉だろうか?
~閑話休題~
国王としては自らの黒歴史に近い過去を思い出し、王妃としては下位貴族に王族そのものが軽んじられているようで、宰相としてはどの世代にも節穴揃いの令嬢が一定数は居るという現実に、それぞれの腹立たしさと危機感とを抱いていた。
そして何よりも王太子に関しては特に切に、せっかく優秀なのだから是非ともその能力を一部にのみに発揮するのでなくもっと有効活用して欲しい!と全員が願っていたりもする。
この場合も『親の心子知らず』と言うのだろうか?誰か教えて!偉い人ー?!
☆☆☆☆☆
「まぁあやつならば我々が手を貸さずとも自分の力で何とかするであろうからな!此方は此方で遣れる事を遣るまでだろうて」
「そうですわね!下手に此方が手を出しては解決するモノもしなくなるやもしれませんし」
「候補選定に関わるならば我らにも役目が生まれましょうが、今の時点ではむしろ関り合いは混乱を来すでしょうからまずは様子見という事で」
丸投げ、押し付け、責任転嫁。
それでも気分は何とでも言いやがれ!なトップ3。
この件で既に通常の政務は滞りがちになっている。
原因は言わずと知れた、以下略……。
その元凶が自分の執務の手を止めて解決に勤しむのであれば、一人誰かに報告書の概要を纏めさせて口頭報告とし、その間に政務を速やかに捌かねば国の機能は麻痺する一方なのだから仕方ない!!
やや強引にではあるがトップ3の意見は纏まった。
今度は早速、この報告書を任せる人員についての相談へと話題は移行する。そして後日任されたその者は、王族からの信頼と報告書の厚さに涙する事となるのだがそれは別の話であった。