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ほんの僅かな進展、新たな火種?


ローディアナ様はわたくしの古くからのお友達のお一人です。ローディ様とお呼びしておりますわ。

学園に通う先輩でもありますわね。

こうして互いに二人きりのお茶会を催し招き合う程に付き合いの長いお友達なのですけれど……。


結局はわたくしの我が儘な質問にお答え頂く事なくその場を辞して帰途へ着く事に致しました。

少しだけ後ろ髪を引かれる思いはございましたけれど、未来の王族の一員に糧に成る身としては公を蔑ろにして私を優先させるのは愚なのです。


お茶会に招かれました帰り道、馬車の中で一人きりとなった際に少しだけ溜め息が漏れてしまいます。いつもでしたら侍女なり護衛のフィーズが同乗しているのですが珍しく誰も居りません。


ですのでつい気が緩みましたのね……。

こんなに馬車の中が広いのだと思ってもしまいましたわ。そんな考えは子供の頃以来でしょうか?


思うのは殿下の事です。

先日の騒動に関して殿下へとお聞きしはぐらかされてからこの方、数日とはいえお目にかかる事無く過ごしておりました。此方も珍しいですわ……。


昼食を共にするようになったのは学園に入学してからです。学園へ入学する以前は城に妃教育を受ける為に通っておりまして、その際にお茶会や食事をご一緒させて頂いてはおりましたけれど。顔を合わさない時の方が少なかった気が致します。


何だか寂しいものですわね。

早くいつもの様にお目に掛かれる様になれば宜しいのですが。いいえ、我が儘はいけませんわね。

殿下も色々とお忙しいのでしょうから……。



☆☆☆☆☆



「あー!もう何でこんなに忙しい?!」


「そりゃあアンタが原因でしょうが!?」


「こんなになるとは思わなかった!!」


「私もですよこん畜生!!こんな腐敗してるだなんて思いもよりませんでしたけどね!?」


「姫の敵を減らして心置きなく会える様にするつもりが逆に会う時間減ってやがるし!!」


「自業自得ですねざまぁみろ!!」


…………聞くに耐えない罵詈雑言が飛び交う。

此処は城内の王太子殿下の執務室、今この場に居るのは殿下と側近のジョンソンのみ。だからここまで汚い言葉で怒鳴り合っているのだ。廊下に漏れても大丈夫な様に普段を知る騎士で警備を固めている辺りもう日常恒例行事なのだろう。


最後の方は息継ぎ無しの応戦になっているが、同時に二人とも書類を捌く手は一切止まっていないのはさすがと言うべきか?さっさと終わらせたいのは同じ。手を止めたら最期、遣る気も何処ぞかへと逃げ失せるのは目に見えていたからなのだが。


何故此処まで忙しくなったのか?

それはやはり先日の騒動が原因となっている。

一人の少女の起こした学園での、一つ間違えれば王族への侮辱と不敬になりかねなかった騒動。起きた場を鑑みて、今後の安全に活かす為に在籍女子生徒の再検証を行っている真っ最中なのだ。


ただし事前に情報を仕入れ、現実を知る高位貴族は除外して愚かな野望を抱く下位貴族を主な対象としたのだが、城側は彼らを含め下位貴族の数の多さをかなり舐めていたと言わざるを得ない。


王族の次世代が誕生すれば自然と同年代が増えるのは自明の理なのだ。高位貴族だけでなく下位貴族にまでそれが及ぶのは、過去に学園で王族に見初められて妃となった身分の低い少女が居たり、才能を認められて側近に取り立てられた例が存在するからだ。前例が在ればそれを夢見るのも仕方ない。


のだが。

現在の人間としてはそれで迷惑を被っているのだから可能ならば抗議の一つもしたい気分である。

たとえそれが無駄だと知りつつも、だった。


一番手っ取り早い手段は王太子殿下が学園に来訪せねば良いだけ。だが本人は即刻拒否した。

妃教育も一段落し、城へと彼女を呼び寄せる口実が減ってしまったからこその妥協案を手離すなど、殿下にとってはそれこそ堪らないのだから。


そしてその代償こそがこの忙しさなのだ。

正にジョンソンの言う通りの自業自得状態。

それでもこれで安全が確保されるのならば未来は明るい!とそれを糧に頑張っておられる殿下。


激鈍なお嬢様ですら実はお会い出来なくて寂しいと思われていると分かれば、直ぐに政務を放り出して駆け付けたであろうが、幸か不幸か知る術は無かった為に不本意ながら執務に励んでいる。


周囲も知るべくも無いが、もしお嬢様のこの想いを知ったならば諸手を挙げての大歓迎で主を送り出しただろう。……つまりはやはり不幸?


まぁ後始末を含めて未来に希望を持とうとしている者を無碍に落胆の奈落に陥れる事も在るまい。

上手く行けば、行くかどうかは神すら保証は出来ないが、お嬢様のこの認識がいずれは愛情へと繋がる糸に成るやも知れないのだし?


今のトコ、光に翳してようやく見えるかどうか程度の細さではありますけどね……。



☆☆☆☆☆



「お父様!家に王城から調査が入ったって本当なの?!ああとうとう来たのねっ!!」


「……お前の望む形では無いと思うのだがね」


「いいえ、きっと学園での私の姿をご覧になられてそしてきっと殿下が心を動かされたのだわッ!!その為の調査に決まっているじゃない!?」


父親とはいえ子爵家当主の執務室に、ノックも無しに飛び込んで来て叫び出す娘を殿下が見初めるとは到底思えないのだが、子供可愛さと後の面倒から来る保身により子爵は指摘するのは止めた。


飛び込んで来た勢いそのままにまた興奮して飛び出して行く娘の後ろ姿を見送り、子爵は父親としても貴族としても失望の溜め息を吐く羽目になる。

今の一番近い本音は「今までに掛けた分の教育費を返せ!」だったかも知れない。

それでも打てる手は全て講じなければならない!!


彼の知る王太子殿下はもちろんの事、その婚約者であるご令嬢の噂も耳にしており、国の未来は安泰だと常々思っていただけに、何がなんでも全力で娘を止める事を子爵は決意した。


これから娘が起こそうとしている愚行を止めねばむしろ自分達の未来が危ない。

先日の騒動の主犯の少女は知り合いの娘だった。

そしてその顛末を知るだけにその決意は硬い。


速攻で妻を呼び寄せ娘を甘やかさない様に淑女教育をより厳しく行う様に言い含め、その妻が愚かな真似をしないように旧くから勤める古参の使用人に見張りを頼み、自身もこの家の執事と今後についての協議を膝詰め談判で行う厳戒態勢を敷いた。



☆☆☆☆☆



……実は王城からの調査が入って後、こんな下位貴族の家が続出していたのだ。一部は何のリアクションも起こされなかったが。ちなみに調査は一度だけでなくある程度の期間を経て更に入っている。二度目以降は密かに行われた為に相手は全くと言ってよい程に気付きもしなかったが。


いわばこれは王太子からの二重の防御策。

騒動を起こした者の厳罰化をより明確にし、それに伴う各家の内情を表立って調査させる事で相手の警戒心と危機感を煽る。賢明な者は保身から対策を講じるし愚か者は気付かず放置のまま。

其処を裏からの秘密裏調査によって白黒を別ける。


時間は掛かるが確実な手でも有る。

被害を被るのは、その秘密裏調査に駆り出された影の一族の皆様と、目を通す報告書の量が倍増した王太子殿下と側近ジョンソンのみ。


いや、自身の未来の為に動いているのだから殿下は抜いて、やはり側近ジョンソンと影の皆様がこの一件での憐れな被害者達だろう。

ジョンソンの女運も含めて彼らに幸あれ……。


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