Restaurant Evil Deliciousでパーティを
Restaurant Evil Deliciousでパーティを
「宇宙の神秘をハサウェイさんに買い取っていただいて、シンセティック・ストリームではご禁制のブラック・レーベル作品もすべてゼニーにかわりました。そして、一時はどうなることかと思われたクソヤヴァイブツが満載のポンコツマシーンも、本日見事に取引成立! 懐はあたたかく心もほっこり。つまりは当面、給料も船の維持管理費も安心です。ということで……」
ほくほく顔のタッヤが、柑橘系のアルコール飲料入りのグラスをかかげる。
「かんぱーい」
サディが、AXEが、ミーマが、ネガが、アークが、コタヌーンが、オクタヌーンがグラスをかかげて乾杯する。
乗組員食堂・Restaurant Evil Delicious (邪悪な美味しさ)のテーブルには、アークとAXEが作った料理がずらりと並び、あらゆる銀河を訪れるたびに、土産物としてためこんできた酒があけられる。
「いーやっほー!」
「これはうまいですなぁ」
「これは最高なのかもしれません」
「腕をふるったかいがありましたね」
「センクターになったほうが、いっぱい食べて飲めるのかもー?」
「いやー、アークとAXEさんが料理してくれると、いろいろ安くあがってありがたいですねー」
「はっはっはっはっ。俺に作れない料理はないッ!」
「くぅぅぅそぉぉがぁぁぁ♡」
「ツイカノ、ユウキヨウザイデス! ツマリハ、シンケイドク! デゴザイマス!!」
ジュウゾウが次々運ぶ酒瓶の中身はみるみる減り、テーブルの料理も腹の中へと消えていく。
「しかし世の中、信じられないようなことはありますなぁ」
コタヌーンがスパイス香る蒸留酒の入ったグラスをかたむけながら言う。
「この船が1番信じられませんけどね」
とは、酒を飲まないオクタヌーン。
「懐があったかくなったということは、お給料の増額はいかがでしょう?」
とは、着物を大きく衣紋を抜いた着付けで、あでやかなうなじをみせつけながら勝宙を満たしたグラスをかたむけるAXE。
「懐があたたかくなったってことは、そろそろこの船で、あらゆる銀河をめぐるブラック・レーベル移動図書館をはじめてもいいんじゃない?」
とは氷砂糖のように半透明の体に、透明なジャポン酒を流し込むミーマ。
「散財思考というものは、あっという間にこの船を破滅に追い込む、甘過ぎる誘惑ですよ?」
とは、ほくほく顔ながら、危険思想のドたまをブチ抜けるくちばしを、ギラリと光らせることを忘れないタッヤ。
「くそが」
給料の増額を一蹴されたかことが気に食わないのか、ネガは今日も毒づく。
「とにかく、飢えることのない懐ぐあいに、ブッ放してもこっちが破綻しない弾代も稼いだんだ。これでキャプテン・パンダと愉快な仲間達号ともお別れね」
ニコニコ顔のサディが、漆黒と真紅に薔薇柄の袖を揺らして、オレンジ色の泡立つカクテルをかたむける。
「そうだな。いい加減シンセティック・ストリームのど真ん中、暗部の心臓ドクンドクン、阿呆タロウの鳥頭なアスホールダロウも、イービル・トゥルース号のことなんて忘れたろ。そろそろキャプテン・パンダと愉快な仲間達号ともお別れしていい頃だ」
とは、泡立つ白い液体が満たされたジョッキを豪快に傾けるアーク。
「だよね! だよね! だよね! この船はなんてったって、海賊放送船イービル・トゥルース号なんだ! キャプテン・パンダと愉快な仲間達号に偽装して、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門を眠らせておくのは、この船に対する冒涜だよね!?」
サディがアークの発言に一気に食いつく。
アークは泡立つ白い液体を飲み干し、空になったジョッキを置くと泡だらけの口のままサディに話し始める。
大宇宙を駆けるたった一匹の獣。本船のオーナーかつChief Execution Officer、つまりはCEO・最高執行責任者であられる、キャプテン・パンダーロック船長は、この船が背負抱く主砲は言いたいことを言うためにあると言っている。サディ、そのことを忘れるなよ。
俺たちは海賊放送をブチ込むために、synthetic stream勢力圏内にやってきたが……。synthetic streamの横暴はますます常軌を逸した、異次元の異常で異様なイカれた世界に突入しつつある。つまりは、synthetic streamの現状は、まったくもって正気の沙汰ではない。
synthetic streamの暴走を抑える最高法規である憲法を、大自民統一教会党はその支持母体であるイカレた宗教からの指示を、まるまる突っ込まれるままに改憲してしまった。
大自民統一教会党は、カルト宗教が言うことと改憲内容が、本当に偶然にもたまたま一致しただけだ、などと言うが、そんなことが偶然の一致だと思うのは、大自民統一教会党の、アホウタロウで無能なタロウぐらいの脳無しだけだ。ちょっと脳組織があればどんなヤツでも、そんな偶然の一致などと言う話は、すぐに嘘だとわかる。
イカレた宗教とイカれた政党がくっついた、大自民統一教会党が行った改憲は、それはそれは恐ろしいものだった。synthetic streamの存在を最優先に格上げし、synthetic streamの主権者であった銀河臣民を、synthetic streamに隷属する存在にしてしまった。
憲法とは本来、権力の暴走を縛るための鎖だった。それを、synthetic streamは、権力ではなく知的生命体を縛りあげる鎖、独裁の道具にしてしまったんだ。
憲法は国の形を決めるもの? いいや違う。憲法とは国を縛りあげるものだ。国を縛りあげるものがなかったら、国はいったい何をすると思う? 縛るものが何もない、法を超えた世界に生きる巨大な怪獣は、あらゆるものをその権力でもって好き勝手に蹂躙するだろう。そういうことをできないようにするのが、最高法規である憲法というものなんだ。
しかしだ。大自民統一教会党は憲法をただただヤヴァイだけのブツに変えただけでなく、もっとも恐ろしい猛毒を改憲の中に仕込みやがった。ドブラックな改憲のど真ん中に仕込まれたクソヤヴァーイ罠、それこそ暗部の心臓と言っていいブツの名を、緊急事態条項と言う。
大事なことだからもう一回言うぞ。
緊急事態条項。だ。
え? なんだって? それ、よく知っているだって?
サディ……。君がよく知っていると言うのは、緊急事態宣言というものじゃないか?
「え? アーク、緊急事態宣言のことじゃないの?」
ヤヴァイ! ヤヴァイ! ヤヴァイ! そいつはマジで大自民統一教会党の罠にズッポシガッポシかつズコズコにハメられて、頭の中から脳組織とふくらむ胸から魂まで抜かれてケツの穴から引きずり出されて、頭の先からつま先までもが大自民統一教会の懐に、まるまるゴクリと食われまうことになるぞ!
いいか、緊急事態宣言というものはだ……。流行り病が拡大した時に法律によって出されるものだ。
ちょっとこのあいだにまき起こり、いまもまだ続く不可解な疫病騒動。こいつが起こり始めた時、synthetic streamは緊急事態宣言というやつをブチかました。これをsynthetic streamは改憲に仕込んだ暗部の心臓の隠れみのに使ったんだ。
サディ。君が勘違いしたように、緊急事態宣言と緊急事態条項は言葉だけならとても似ている。だがしかし、緊急事態条項は宣言なんかとは全然格が違う。クソ恐ろしい怪物みたいな存在。いや、クソ恐ろしい怪物を生み出す暗部の心臓をドクンドクンとドライヴさせる、クソヤヴァイ破滅のエンジンなんだよ。
緊急事態条項には、緊急事態がなんであるかの具体的な基準が何もない。言ってみれば、synthetic streamが
「はい。今は緊急事態です」
と言えば、いきなりそれが緊急事態条項の発動につながる。
例えば、空からイカツイマークの宇宙船が降りてきて、耳に痛い放送をおっぱじめたとする。
「これは緊急事態だ!」
とsynthetic streamが言ったら……。改憲に仕込まれた暗部の心臓、緊急事態条項が発動する。
緊急事態条項が発動すると、いったい何が起きるのか?
synthetic streamがすべての権力を握っちまう。synthetic streamの存在が最優先であり、個人の持つ人権が停止される。何をするにもsynthetic streamのご意向に縛られる。そして、緊急事態が続く限り、選挙が行われることはない。緊急事態には選挙なんかしている余裕なんかないんだ! って言ってな!
よくいろんなところで聞くだろう?
「民主主義なんだから、文句があるなら選挙で落としてみろ!」
そんなセリフさえ無意味になるんだ。なんてったって選挙自体が行われないんだからな!
つまりは、完全なる独裁だよ。大自民統一教会党による独裁だ。だって、選挙もないんだぜ!
カルト宗教とカルト政党がくっついた大自民統一教会党がすべてを牛耳る。異次元の異常で異様な世界が、ずっとずっとずっと永遠に続くんだ。
「はい。緊急事態は終わりました」
とsynthetic streamが自分から言うまでだ! そんなこと、全ての権力を牛耳って、あらゆる人々の権利を停止した、キング・オブ・ド偉いミスター権力の頂点様が自分から言うと思うか?
俺は絶対に言わないと思うね。緊急事態が続くけば続くほど、キング・オブ・ド偉い権力の頂点様はどっかりあぐらをかいて、支配した銀河を好き放題にできるんだ。そんな美味しいことこのうえない緊急事態を、自分から終わらせるなんてあり得ない。そんな話はお笑いぐさだよ。むしろ緊急事態を続けるために、自らヤヴァイ事態を生み出すことすらするだろう。
そうやってずっとずっと緊急事態は続く。あらゆる手段を使ってだ!
だが、その緊急事態を終わらせる方法は、銀河の住人にはないんだ……。
これが緊急事態条項だ! どうだ? クソヤヴァイだろう!?
カルト宗教に言われるままの改憲と、さらには緊急事態条項の追加によって、synthetic streamがすべての権力を掌握し、憲法と法律の制限から解き放たれた野放しの獣のような暴走暴力権力団を生み出してしまった。
その結果やってきたのは、搾取に等しい増税と、民衆が二度と権力に物言えないようにあらゆる情報は統制され弾圧される。synthetic streamは今や人権までもが停止された、事実上の奴隷達の世界だ。
どうしてこうなってしまうのか?
synthetic streamにきてから、俺はsynthetic streamに流れる放送というものを参考のために確認しているが……。あまりにも酷過ぎる内容だ……。
ついさっき売りつけたポンコツリアクターにしたってそうだ。あんなものは遥か彼方の昔の技術で、しかも現代においては、知的生命体の存続に関わるヤヴァイテクノロジー認定されている出来損ないのクソみたいなシロモノだ……。そんなものがsynthetic streamでは最先端技術かのように語られ、synthetic streamスゴイ! synthetic streamバンザイ! synthetic streamマンセー!
synthetic stream絶対安全安心! synthetic stream全戦全勝圧倒的! とかやっているわけだ……。
どうしてそうなってしまうのか? 混じりっけなしの嘘を繰り返し繰り返し言い続け、
「毎日毎日、絶対安心安全と放送が言っているなら、そういうものなんだろう」
と人々が思ってしまうからだ。こんなものは洗脳だよ。マジでカルトのやりかただ。
synthetic streamの勢力圏内はいま、あまりにも強い情報統制の下にある。
synthetic streamのやりかたは実にうまい。自分達に都合がいい内容を、いかにも
「みんながこう言っているんですよ」
というように放送で流し続ける。
この船が無許可で空から降ってくるとか、主砲からブチあげる花火がとにかくド派手だとかは関係なく、この船が流すsynthetic streamでは嘘みたいな本当の話が、とにかくsynthetic streamの気にさわるのは、俺達が奴らに都合の悪い本当のことを話しているからだ。
だからこの船はまぎれもない邪悪なる真実で、その名を海賊放送船イービル・トゥルース号と言う。
「声をあげても何にもならない。だから黙っていましょうね」
とsynthetic streamはあの手この手で必死で工作していて、案の定それに染まっちまった奴らがしたり顔で、いかにも自分はメチャ賢いんですよというツラをしてる。そのくせ奴らはなーんにもしないで寝っ転がって、路上にまき散らされたクソのカタマリのようにのさばっている。あちこちにクソが転がる悪い空気の中にあって、俺達が放送をするだけでsynthetic streamが目の色変えてデッカイ砲をドカンドカン撃ちながら追っかけてくる時点で、声をあげることがどれだけ奴らにとって恐ろしいか、どれだけ奴らを震え上がらせるかわかるというもの。つまりは奴らはチンケでクソヘボ、いざとなったら役にはたたない、フニャ汚ちんたまどもなんだ。
そして、キャプテン・パンダと愉快な仲間たち号はいまや、言いたいことを言っていても、餓死するようなことはないくらいに懐もあったかくなったわけだ。
そうなれば……。synthetic stream勢力圏内ではもう誰もあげられなくなった声を、俺達があげようということになるのが海賊放送船ってもんだろう。
どうだ? サディ? 君だって言いたいことを言いたいだろう? 45口径46銀河標準センチメートル砲が火を吹くみたいに、ガツンと君が話すことを俺は聞きたい。
言いたいことを言ったなら、確かにうるさいこともあるだろう。波風立つこともあるだろう。
だがな。そういう世界が、何にも言わずに黙って眠るだけの世界なんかより、ずっとずっといいと俺は信じる!
うるさかったら静かに話し合い、波風立ったら波に乗って風に吹かれてどこまでも行こうぜ!
そして俺たちはいま、言いたいことを言うためのものがすべてそろったと言っていい。
つまりこれは、さらばキャプテン・パンダと愉快な仲間達号ってことさ。
45口径46銀河標準センチメートル砲三連装四基十二門を、この船が背負抱く理由はただひとつ。
デカい棍棒を振り回しながら奴らがやりたい放題やってるそのケツを、俺達は手酷く蹴っ飛ばすために、言いたいことを言うってことさ!!
「任せて! アーク! あたしがsynthetic streamに、キッツイ46銀河標準センチメートルの衝撃ってやつをブチ込んでやるよ!」
ニコニコ顔でサディは銀髪をゆーらゆら揺らしながら言った。
口の周りに白い泡をつけたまま、アークはサディをみつめて微妙な表情をした。
「俺の話……。ちゃんと聞いてたか?」
「うんッ! アーク!」
と真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳のお目々をキラキラさせて、サディは笑う。
アークはサディの赤い瞳をじっとみつめていたが……。
「まあ、俺も酔っているということか……。だいぶ説教じみたことを言ったかもしれん」
と軽くため息をつく。
「ですが、大事な話でしたよ」
とタッヤが言った。
こくりとうなづくAXE、ミーマ、ネガにヌーン夫妻。
「それじゃあさー。主砲をタンクに偽装している、あの野暮ったいドームカバーを早くぶっ飛ばそうよぉー」
サディがスゴイ速度で酒を流し込みながら言う。
「その前にサディ。俺達にはまだやり残したことがある。この船が海賊放送船イービル・トゥルース号に戻るのは、それを済ませたあとだ」
一転してキリリと表情を引き締めて言うアークに、サディが目を丸くする。
「やり残したこと、なんてあったっけ?」
「ある。大事なことだ」
そう言うアークの背後では、イクト・ジュウゾウが
「チクショウ! ロボットニモ、ジンケンヲ!」
と言いながら、皿とグラスを厨房でひたすら洗っている。




