彼女のイカれた衝撃と、時代遅れの男達
彼女のイカれた衝撃と、時代遅れの男達
「機動兵器が一機コンテナから離脱だとッ?!」
反撃平和力行使突入陣の先頭を、音速を超えて翔けるシラセが叫ぶ!
あり得ない! あり得ないぞ! 安全性について一切言及されない不思議な粒子によって生み出された、電波障害バリバリの宇宙空間で、今どき有視界戦闘などという、ど・こ・ぞ・のドンパチならいざ知らず、ここは音速を超える戦闘機が王として君臨する重力下の大気圏! 飛行能力などオマケレベルの人型機動兵器で、本気でやりあうつもりなのか!?
「ひさしぶりの本業だからね! ここはド派手に撃たせてもらうよ!」
残された1基の固体燃料ロケットで無理やり空を飛ぶキャンディアップルレッドの操縦席で、サディが牙のような犬歯をむいて舌なめずり。
左肩に装備された六本の銃身が束ねられたヘヴィマシンガンが、アクチュエーターを唸らせて六本の銃身を高速回転させていく。
「ただの悪あがきだ! 反撃平和力行使突入陣! 反撃平和行動全力開始ッ! 徹底的に平定するぞ!」
シラセがトリガーを引き、満載したすべての平和力を一列縦隊の支援迎撃機達が次々に解き放ツ!
「抑えきれないこの気持ち! 君の心に全弾発射!!」
サディが叫び、ヘヴィ・マシンガンのトリガーを引く!
キャンディアップルレッドの高速回転する六本の銃身から、ドラゴンのブレスのような炎があがり、秒間75連射の弾丸達が空へと走る!
そして空を翔ける1550発の弾丸が空中で変化を開始。迫りくる対空ミサイルを待ちかまえる!
「なんじゃこりゃゃゃゃあ!?」
ヘヴィ・マシンガンから発射された後に空中ではじけて浮かぶ、1550個の真っ赤なリンゴみたいに赤いハートマーク達に、System Self-Defense Force SSF支援迎撃隊の隊員達は絶叫した!
「しまった! あれは囮だ!」
シラセが拳を自らの膝に打ち下ろす!
電波照射と熱感知を組み合わせた誘導対空ミサイルは、空中ではじけたハートマーク達の生み出す熱とレーダー反射に欺瞞され、1550個のハートの群れへと突入しては無意味に次々と爆ぜていく!
「シラセより隊員に告ぐ。おまえらは逃走する武装トラックを、残存平和力の六身収束回転平和杖で平定しろ……」
「隊長……」
「いけ! こいつは俺の平定対象だ!」
シラセの命令に、各機が武装トラックへと向かう。
「貴様は俺が徹底的に平定してくれるッ!」
すべての対空平和力を解き放ったシラセ機が、唯一残った平和力、六身収束回転平和杖のトリガーに指をかけ、キャンディアップルレッドへと20mm平和力の雨を叩き込もうと機首をむける!
「援護です!」
ゼニーとイケナイブツが満載のコンテナにしがみついたAXE-AXEが、片手で小型ハンドアックスを次々に投げつける!
回転して飛来するハンドアックスは、1基の固体燃料ロケットで無理やり飛行するキャンディアップルレッドの周囲で爆発!
空中に巨大な電波妨害をともなう煙幕を形成! 通常の三倍キャワイイキャンディアップルレッドの姿を灰色の世界へと隠していく。
「おのれぇぇぇぇ!」
電波障害を生み出す煙幕の中に消えた赤い人型機動兵器に、六身収束回転平和杖から20mm平和力を闇雲に秒速75連射しながらシラセが叫ぶ!
レーダーも視界も駄目だ……。これではヤツを平定できる確信がない……。
ならば! この機体を平和力へと変えるだけ!
シラセは操縦桿を倒し、煙幕の中へと突入を開始する!
せまる煙幕。このどこかに詳細不明の赤い機動兵器はいる。
この星の平和を乱す者を、俺は絶対に許さないッ! 俺はこの星を守る、System Self-Defense Force SSF支援迎撃隊、ヘル・シラセ係長准尉なのだッ!
「サディ! ヤヴァイよ! そいつ、煙幕の中にいるあんたと交わるまで、何度も何度も突入を繰り返すつもりだよぉ!」
センクターの悲鳴。
まずい……。いくら電波障害を生み出す煙幕の中にいても、自爆覚悟で何度も何度も挿入……じゃない、突入されたら……。
AXEがAXE-AXEの操縦席で歯ぎしりする。
その時!
「明後日の方向から、謎の機影が急速接近!?」
AXEの座乗するAXE-AXEのレーダーに突如、謎の光点が現れる!
「なに、これッ!? 生命体が耐えられる加速の限界を突破している!?」
音速の壁をはるか彼方の後方へとブッ飛ばした速度で、謎の飛行物体が人型機動兵器と超音速戦闘機の大乱戦のど真ん中へと急速接近!
「なにぃッ!?」
ヘル・シラセ係長准尉の搭乗する支援迎撃機のレーダー盤に、突然現れた謎の光点!
音速を超えて空を翔ける自分の機体がクソ遅いドンガメ頭に思える、空前絶後の速度で迫る正体不明の謎の飛行物体!
「敵の新手かぁぁぁ!?」
レーダーがイカれたのではないかと思う速度で迫る光点は、まっすぐにシラセの突入進路と煙幕との間に割って入ろうと空を翔ける!
シラセの思考が混乱する。一直線にまっすぐにためらうことなく煙幕へと機体を挿入……ではなく、突入しよとうとていた決断が鈍る。
どうする?! 敵の新手だとして、今から回避行動をとって間に合うのか!? だが、いま回避したら、次の平定チャンスはない。
どうする!? System Self-Defense Force SSF支援迎撃隊隊長シラセ係長准尉ッ!?
ええい! ままよ! 俺はSystem Self-Defense Force SSF支援迎撃隊隊長、ヘル・シラセ係長准尉だ!
俺はイク! 俺はイクぞぉぉぉッ!
シラセの思考が、いきりたつ狂ったエモノみたいにドクドク脈打つ!
通常の三倍かわいいキャンディ・アップルレッドが潜む煙幕!
一撃必殺の無理心中を狙って迫るSystem Self-Defense Force SSF支援迎撃機!
明後日の方向からあらゆる常識を打ち破った速度で迫る謎の飛行物体!
その三者が交差する直前!
センクター、AXE、サディ、シラセの世界を流れる時間が、ねっとりと白濁した液体のようなスローなものへと変わる。
「サぁぁ デぃぃぃ ィィィぃ !」
センクターの悲鳴。
「やぁぁぁぁ、めぇぇぇぇ、てぇぇぇぇ!」
AXEの悲鳴。
「へぇぇぇぇぇぇ、てぇぇぇぇぇぇぇ、すぅぅぅぅぅ、るぅぅぅぅぅ、ぞぉぉぉぉ!」
シラセの絶叫!
「いぃぃぃぃぃ、やぁぁぁぁっ、ほぉぉぉぉぉっ!」
煙幕の中で104mm RINGO砲をかまえるサディの絶叫!
キャンディ・アップルレッドを覆う煙幕に、シラセ機が突入する直前。明後日の方向から飛来した正体不明の飛行物体が、シラセ機へ真横へ突き刺ささろうと迫る。
世界の時間がゆっくと流れていく。
真横から謎の物体に突入されるシラセに見えたのは、生命体の肉眼ではとらえきれないはずの、あり得ない光景だった。
音速をはるか彼方の後方へブッ飛ばし、知的生命体の生存限界点を突破した加速Gで真横から突入してきたのは、System Self-Defense Force SSFの紋章を刻んだ機体だった。
あれは! AF-19!!
System Self-Defense Force SSF制式支援平定機 AF-19だ!!
ひどくゆっくりと流れる時間の中で、シラセの脳が迫りくる機体を認識する。
俺が駆る機体と同じじゃねぇぇぇかぁぁぁ!
ありえないッ! AF-19は音速を突破できても、こんな速度では空を飛べない! できたとしても、中の人が死んじまうッ!
さらにあり得ないことに、ブッコンでくるAF-19のコクピットの中に、ヘルメット、ガスマスク、ボディーアーマー、すべてが黒尽くめの人物までもが見える。
それはSystem Self-Defense Force SSFの制式自衛装。
俺と同じ装備じゃねぇぇぇかぁぁぁ!
さらにさらにあり得ないことに、ドロドロ進む時間の中で、通信機が突然シラセにがなる!
「てめえの命を武器にするとは、このマジキチのド腐れ外道のクソバカ野郎がぁぁ! そんなことでぇぇ! この星を守れるかぁぁぁ!」
ガツーーーん!
通信機の向こうで、謎の人物が拳で激しくぶっ叩く音が炸裂!
ありえんッ! こんなことは絶対にありえないッ!!
シラセの脳が理解不能の状況に叫びをあげた瞬間。シラセ機の真横から意味不明の速度で空を翔けるAF-19が衝突!
そして煙幕の中では、キャンディ・アップルレッドの鋼鉄の指が、104mm RINGO砲の引き金を引く。
おまえを殺してやるよと狂おしく叫ぶ轟音と共に、RINGO砲が必殺の104mm弾を解き放ち、同時に生み出された凶悪な反動が、キャンディ・アップルレッドの機体を後方へとブッ飛ばす。AXEが生み出した煙幕からキャンディ・アップルレッドが飛び出し、死の104mm弾はシラセ機へとまっすぐに突き進む。
真横から意味不明の速度で突入されたシラセ機は、なぜか爆散四散していなかった。
AF-19に見えた正体不明の飛行物体は、シラセ機を真横から貫通していった。
真横から直撃体当たりを受けたはずのシラセ機は、なぜかまだ空を翔けていた。眼の前に迫る死の104mm弾をギリギリかわせるだけのわずかな角度を、真横から直撃してきた謎の機体によってシラセ機は進路をずらされていた。
0.01銀河標準ミリメートルの、互いの体温さえ感じられるほどのわずかな隙間を残して交差する、死の104mm弾とシラセ機。
わずか0.01銀河標準ミリメートルの厚みしかない、ポリウレタン樹脂一枚分の極小空間に、音速を突破した物体が生み出す衝撃波が衝突して反発しあい、両者を急激に引き剥がす!
「いったいなにが起きたというんだ!?」
正体不明の飛行物体の体当たりと、ギリギリ直撃をまぬがれた104mm弾の生み出す衝撃波ではじき飛ばされ、煙幕への突入進路をそらされたシラセが、必死で機体のコントロールを取り戻しながら呆然とつぶやく。
レーダーには、あり得ない速度でブッ飛んでいった意味不明なAF-19が残した光跡が、流星の尾のように今も残る。
「あのAF-19はいったい!?」
混乱するシラセが機影を追うが、鬼火のような青い炎をケツに灯した謎のAF-19は、地平線の彼方に飛び去る前に、まるで幽霊のように消えてしまう。
「あんたは俺を救ってくれたのか!? あんたはいったい誰なんだッ!?」
さっき突然がなりだした通信機にシラセは問う。
「俺はただの、時代遅れの男だよ」
通信機はそれだけ言うと、もう二度とシラセの問いに応えることはしなかった。
「いーやっほぉぉぉぉ!」
RINGO砲の反動で煙幕から飛び出したキャンディアップルレッドが、固体燃料ロケットの炎を燃え上がせ空へと翔け上がる!
「あれ? あいつ、なんでまだ生きてるの?」
真正面から迫る死の砲弾をかわして、まだ音速を超えて翔ける機影を後に、キャンディアップルレッドは上昇していく。
「あんたはとびきり運がいいみたい。だけど、トゲトゲマックスなお姉さん達はヤラセないから」
再装填を終えた104mmRINGO砲を両手に再びかまえ、今度は地上に狙いを定めたサディが笑う。
「ブッ放すのは、やっぱりキモチがいいよねぇ!」
黒いマニキュアの細い指と同期して、巨大なトリガーを引く鋼鉄の指。すべてを塵へとかえしてやるよと、狂おしく吠える轟音が104mm RINGO砲から解き放たれて、地上へと死の砲弾を叩き込む!
ズッガーン! ドッガーン! バッガーン!
「ズッコン! ドッカン! バッコン! ガンガンに撃ち込んでくるじゃないかよ! 全然キモチヨクないけどね!」
トゲトゲマックス仕様の強襲トラックのハンドルにかじりついて赤髪のヴィーが叫ぶ!
「いいや、こいつは援護だよ! 物流トラックだらけのハイウェイまでもうちょっと、このズッカンドッカンぶちまかれる砂煙に隠れて、物流トラックにまぎれちまいな!」
緑髪のエノレが進行方向及び周囲に次々に着弾する、100mmあたりと思われる砲弾の爆発をにらんで言う。
「あ! なる(ほど)!!」
赤髪のヴィーがメタル仕様のダッシュボードの赤いボタンに拳をふりおろす!
あらゆる障害物を粉砕串刺しにするトゲトゲマックス仕様の外装が、爆薬によって爆裂し強襲トラックからぶっ飛び切り離されていく!
「ハイウェイに乗るよ!」
あらゆる追加装甲と武装を切り離し、あっという間にドノーマルに戻ったトラックで緑髪のエノレが勝利宣言! 空を翔けてくる腐った組織の戦闘機に窓から手を出し中指をたてる!
「ちくしょう! 砂煙だらけだ! こんなんで六身収束回転平和杖なんかブッ放したら、一般人にまで20mm平和力を突っ込んで平定しちまう!」
爆走する武装トラックに向かった支援迎撃隊員の悪態が無線から響く。
「ただいま!」
104mm RINGO砲を砂漠に向かってひたすらにブッ放し、発射時に生まれる反動を利用して加速上昇。ついにはセンクターとAXEが抱くコンテナにまで、たった一基の固体燃料ロケットで戻ってきたキャンディアップルレッド。
「ま、マジなんですか……。突然現れ突然消えた、あのブッ飛び戦闘機、あれ、いったいなんなんですか? というか、RINGO砲の反動って、どんだけスゴイんですか……」
眼の前で起きた超常現象と、キャンディアップルレッドの理解不能レベルの曲芸に、AXEはおかえりなさいもまともに言えない。
「ほら、あたし、体重めっちゃ軽いから」
サディは涼しい顔してAXEに返す。
「細かいことはおいといて、とにかく生きて戻ったんだ。さあ、お母さんのお腹に帰るよ」
センクターがみあげる空には、砂漠を照らす太陽を覆い隠す、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号が浮かぶ。




