お空に向かって飛んできな
お空に向かって飛んできな
「海上ブイ。装填完了」
操作盤から顔をあげてサディが言った。
「周囲にSS潜水艦なし」
深海に漂う音を聴取し、状況を確認したミーマが告げる。
「アクティブいってみよー」
アークがめいっぱい倒したシートに寝転んで言う。
「アクティブソナー、撃ちまーす」
AXEが操作盤を叩く。
イービル・トゥルース号から放たれた探知音が響き、真っ暗闇の深海の中へ走る。
「いませんねー」
AXEがアクティブソナーの結果をそっけなく伝える。
「よしよしよしよし。これはSSの奴ら、俺たちがとっくの昔に魚の餌になっていると思っているな」
アークはシートに寝っ転がったまま、はっはっはっはっと大声で笑う。
「発射管注水」
サディが射出する海上ブイを装填した発射管に、深海の冷たい水を引き入れる。
ブイ発射管のある艦橋の背後から、海水が船内に侵入する音が響く。
「静かに送り出してくれよ」
アークがシートに寝転がりながらサディに言う。
「もちろんです」
サディは口をとがらせて返す。
「それでは、そろそろ放送開始のお時間も迫っているということで。海上ブイ。射出」
アークの声に合わせて、サディが操作盤のボタンを押す。
艦橋背後からの海上ブイが、海中に射出される動作音。
「ブイ、海面に向かって上昇中。送出中の通信ケーブルに異常なし」
ミーマが状況を読み上げる。
「ブイ上昇中も周囲警戒。海上に到達後、さらに10分間の状況把握」
アークがシートを起こして、まじめに座りなおして言う。
「さすがに大丈夫じゃない?」
AXEがアークに言う。
「まあ、99.89%ダイジョブだと思うけどさ。一発目からケチがつくのは嫌なもんだろ?」
アークの言葉に、雑なようで用心深いんだよね、とAXEは思う。
「上昇中のブイからの海中音聴取によると、やはりこの海域にはSS艦はいないと思われます」
ミーマが上昇中の海上ブイからの海中音を確認して言った。
「よしよしよしよし。圧潰爆沈を演出して、ケツまくって逃げたかいがあるってもんだ」
とアーク。
「ウチには、銀河一逃げ足が早い操縦士がいますものね」
そう言ってタッヤが笑う。
「クソが」
と言ったのはネガ。
「ネガ、この後もたのむぜ〜」
アークの言葉に、表情の読み取れないガスマスクの男は無視かつ無言。
「海上ブイ海面に到達」
ミーマが告げる。
「10分間は様子を見よう」
アークはまた硬化テクタイト製窓を這う、深海生物に視線をうつして言う。
「パッシブソナー異常なし。海面カメラ画像出します」
ミーマが操作盤をさわる。艦橋前面の硬化テクタイトの窓に、海上ブイからの画像が映し出される。
広大な海に揺れる波と、水平線に区切られた空と雲。他には何もない。
「いい天気だねぇ」
サディが青と白の世界をみつめて言う。
アークはヘッドセットをつけると、機関室につなぐ。
「機関長、コタヌーン殿。微速前進を用意願う。状況によってはまたバックレることになるからよろしく」
「あいよ。映像をみていますが、なかなかきれいな海と空ですな。銀河一逃げ足が早い操縦士によろしく」
「ネガ。コタヌーン殿がよろしくと」
「クソが」
アークはネガの言葉はコタヌーンには告げず、そのままヘッドセットを切った。
しばし、艦橋の全員で海と空を見つめる。
「状況オールクリア。周囲にSS艦及びSS航空機を発見できず」
ミーマの報告にアークがうなづいて言う。
「バルーン放出」
「お空に向かって飛んできなー」
そう言って元気よく操作盤のボタンを押すサディを、アークは横目にみつめる。
「楽しそうだな」
「楽しいよー」
とサディは真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をきらきらさせて言う。
「何よりだ」
アークは視線を、硬化テクタイト製窓に表示された画像にうつす。
空に向かって上昇して行くバルーンの姿が消えていく。
「バルーンとの通信テスト良好」
AXEが告げる。
「よしよしよしよし。これで準備は整ったな。メインタンクブロー。深度100メートルまで静かにあがろう」
アークが上機嫌で続ける。
「……ブローするメインタンクはないんですけどね。反重力装置逆転率低下中。船体浮上開始します」
タッヤが計器類を操作しながら言った。
「こういうのは雰囲気が大事。それでは、100メートルまできたら、ネガ頼むぞ」
アークが右隣の席に座るガスマスクの男に言うと、
「クソが……」
とだけネガは静かに答え操縦桿を握る。
モッキンバード星、ビッグウエスト海洋深海3500メートルの暗闇から、レトロな未来感を漂わせるデザインの宇宙戦艦が上昇を開始する。