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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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さらば海賊放送船イービル・トゥルース号

さらば海賊放送船イービル・トゥルース号



 ギャラクシータートル製菓の、チョッコレート・カッキー・シードをポリポリ。

 ハミングバード・チョコレートファクトリー製の、ナイフ型ひとくちチョコをモグモグ。

 発酵乳製品から作られた焼き菓子、チーズキックーをくちばしの中でカリカリ。

 ギャラクシータートル製菓の、カッキー・シードにたまに入ってるナッピーをはむはむ。

 銀河のどこか、地球という星ではみなれない、いかにもSF世界的な珍しいお菓子達が、それなりの量お腹に消えると……

「追われる心当たりはまったくねえが、軍団規模で追っかけてくるアホウタロウのシンセティック・ストリームがうざってえのは間違いない。しばらくおとなしくしていることにするか」

 ということに艦橋のいつもの面々は話が落ち着き、海賊放送というsynthetic streamの頭に湯気がたちのぼるような素敵な行為は、しばらくおやすみしておくか、とあいなった。

「じゃあ、これからどうしようか?」

 という話になるのは当然で、いつもの面々は思い思いに語りはじめる。

「7000万ゼニーもあるんだ。黙ってても給料がしばらくは出るはずだ。ということは、これはもう銀河中のナマモノを食べ歩くしかないじゃない?」

 とはサディ。

「7000万ゼニーもあるんだ。これは材料をわんさと仕入れて、バカスカ新しいマシーンを開発しようや」

 とはアーク。

「7000万ゼニーもあるんです。乗組員大浴場の邪悪湯を、ラグジュアリーかつビッグで素敵なお風呂にリフォームしましょう」

 とはAXE。

「7000万ゼニーもあるんだもん。船内に銀河中の乙女を愛でうるおらす、ブラック・レーベル専門図書館を作りましょ」

 とはミーマ。

「7000万ゼニーもあるんだしー。とか言っているから、いつもあっという間に素寒貧(スカンピン)なんですよ」

 とはタッヤ。

「オレニキュウヨメイサイヲダシテミロ」

 とはイクト・ジュウゾウ。

「くそがぁぁ……」

 と7000万ゼニーの大金にうなるネガ。



 喧々諤々(ケンケンガクガク)朝まで生ビール。議論に議論を重ね、重ねに重ねた検討を粒子加速器で加速させて、衝突しょうとつさせてドカン! 

「食べ歩くべきだ!」

「新しいマシーン(おもちゃ)を開発したい!」

「素敵でキレイなお風呂でくつろぎたい!」

「読んでるそばから大興奮のムフフな専門図書館がほしい!」

「機関室に革張りのソファと天然素材のマホガニー机とかが欲しいなぁ」

「そんなことではあっという間にスカンピンです!」

「どう考えてもイカれているとしか思えない計器類を、この機会に全部とっかえるべきですよ」

「ロボットノリクミインニ、キュウヨメイサイトジンケンヲ!」

「く、くそ、がぁぁぁ」

 議論はめぐり大回転。グルっと回ってもとにもどって再び走り、最終目的地はいまだに見えず。やがては生ビールも、ギャラクシータートル製菓のカッキー・シードも、ハミングバードチョコレートファクトリーのひとくちナイフチョコも、チョコレート・カッキー・シードも、ナッピーも、ギャラクシーブドウアイスも、タッヤのチーズキックーもすべてが尽きた。

「全員の意見を採用するのは不可能ですし、ひとつひとつがスカンピンの危険性がバリバリです! 唯一まともなのは計器類の入れ替えですが、それは校正こうせいすれば済むことですので、それはちゃんと見積もりとって考えます。結論はひとつ! もっともっと稼ぐしかありません!」

 最後には経理担当のタッヤがキレて、異論があるならこのくちばしでその散財思考さんざいしこうの詰まったドタマを突っつくぞ! という剣幕でついに議論は決着をみる。

「もっと稼ぐって言っても、ウチらは自慢のドデカイ主砲はあるけれど、コアなリスナーを星に置き去りにして飛んでっちゃう、超絶零細ちょうぜつれいさいの海賊放送稼業じゃないの」

 サディが口をとんがらせて言う。

「その海賊放送もしばらくおやすみだからなぁ」

 とはコタヌーン。

「銀河を食べ歩きながら、ゼニーを稼げばいいんです」

 ぷんぷん怒りながらタッヤが解説する。

「食べ歩きしてゼニーがもらえる美味しい仕事が!?」

 サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が、お魚マークに変わる!

「そんなうまい話はありません」

 ギラリと巨大くちばしをギラつかせ、サディにむけてタッヤが言う。

「えー。だってえー。タッヤが食べ歩きしながらゼニーを稼ぐっていったんじゃん」

 タッヤのくちばしに負けじと、サディが口をとんがらせて抗議する。

「稼ぎながら食べ歩く。と言えばよかったですね。この宇宙には、シンセティック・ストリームの嫌がらせで通商妨害つうしょうぼうがいをされて、大変困っている人たちがたくさんいるんです。そういう困っている人の通商、交易、貿易をこの船がになうことでゼニーをいただき、その道すがら立ち寄った星で食べ歩くんですよ」

 とタッヤが提案。

「ほう」

 サディが納得。

「途中で寄る星々には、安いジャンク品を扱っているパーツ屋だってあるでしょう。そこでご自身のお給料の範囲で、ジャンクパーツを買って、あの予算的に青色吐息の悪夢みたいなマシーンをいじりまわしてください。いいものができたら、船の予算で新規構築を検討します」

「はーい」

 とはアーク。

「キレイで大きなお風呂は私も欲しいです。なのですが、とにかくこの船は特別仕様の規格外のビックリドッキリマシーンのカタマリなものですから、業者に頼むにはリスクもお値段もビックリドッキリクラスでブッチギリに高いんです。7000万ゼニーは虎の子です。もっとガッツリ稼いでからお風呂のリフォームは着手です。シンセティック・ストリームに妨害された通商網を翔ければ、それなりに稼げるはずです。何より、立ち寄った星には温泉があったりもする。一緒に素敵なお風呂を目指して宇宙を翔けましょう」

 巨大スズメのつぶらな瞳をギラリと光らせて言うタッヤに。

「そうですね」

 と言ったのは無表情なAXE。

「本船の格納庫にはすでに、図書館級にご禁制のブラック・レーベル作品が山ほどあるじゃないですか。つまり格納庫はもうすでにブラック・レーベル専門図書館です。格納庫から作品を借りて読んでください。それに、通商活動で立ち寄る星々に、ご禁制になったブラック・レーベル作品を広めることが、乗組員しかムフフできないブラック・レーベル図書館をこの船に作るよりも、ずっとずっと銀河をうるおらすのではありませんか?」

 タッヤの言葉に

「はぁい……」

 とミーマ。

「本船のロボット乗組員のみなさんには、すでに製造時から無条件にすべてのロボットに付与される、ロボット権がパンダ船長によって認められています。確かにイービル・トゥルース号時間で24時間365日、本船の稼働を三交代制で担っていただいていますけども、メンテナンス時間もバッチリ確保。残業ナシの超絶ホワイト職場環境です。しかも、好き勝手に発言することもかまわない、言論の自由もバッチリ保証されています。これは緊急事態条項でいとも簡単にとりあげられてしまう、synthetic stream住人の人権よりすごいことなんですよ。……ちなみに、ゼニーが欲しいというお気持ちは、ちょっと理解しがたい部分もありますが、確かにまっとうなご意見です。ですが、いまこの船に全ロボット乗組員に給料を出すほどの財政的余裕はありません。というか、何にゼニーを使うつもりなんです?」

 タッヤの言葉に

「タチヨルホシデ、バッテリーヲカッテミタカッタ……」

 とはイクト・ジュウゾウ。

「わかりました。これからは交換用のバッテリーはいろんな星のを試してみましょう。もちろん、複数業者に相見積あいみつもりしての話ですが」

 タッヤの言葉に

「ジブンデエランデカウノガイインダガ……」

 と言いたげな無表情さで、メタリックな作動音をあげてうなづくイクト・ジュウゾウ。

「本船の重要機関であるメインエンジンを担当されている、コタヌーンさんには常日頃感謝しています。ですが御覧ごらんください、パンダ船長が不眠不休で執務しつむにあたる、あの艦長席を。席位置はもっとも上座ですが、基本的に座っているシートは私達とまったく同じ、アーク的に言えばマジでガチでバチバチの戦闘用シートです。指揮管制盤についても質実剛健質素倹約実用一本槍(しつじつごうけんしっそけんやくじつよういっぽんやり)のイカツイ物です。そのことを考えれば……」

 タッヤが羽先で差す先に、イカツイ艦長服で座るパンダ船長は、乗組員達の議論に口をはさむことなく、じっとブ厚い硬化テクタイト製窓の先の宇宙をみつめている。

「機関室に、革張りソファとマホガニーの机は置けないなぁ……」

 激しく意気消沈いきしょうちんしたコタヌーン。

「そして、ネガさん。あなただけ7000万ゼニーという大金にめがくらまなかった。大変によろしいですよ」

 そう言ってくちばしをギラつかせつつ、ニヤリと笑うタッヤに、

「くそが」

 と返すこともなく、固まるネガ。

「あなたはとにかくすべてからトンズラするのが大好きで、前に進むことをまったくもってよしとしないのは理解しています。あなたが銀河イチ逃げ回ることに長けた、スゴ腕の操縦士であることは間違いない。いいですか? 通商、交易、貿易でこの宇宙を翔けることは、決して前向きなことなのではないのです。あなたは逃げているんですよ。なにから? 財務的破綻からですよ。いつ追っかけてくるかもしれない借金取りから、あなたはこの銀河中を逃げ回っているんです。わかりますね? それでは一緒に、財務的破綻からこの宇宙を逃げ回りましょう!」

 両の翼を広げて力強く宣言するタッヤに

「い、イービル・トゥルース号、ぜ、全力逃走……了解……」

 とネガは言った。



 ガッツーン! ガッツーン!

 バチバチバチバチ!

 イービル・トゥルース号の船外で、アークがカスタムしまくった人型マシーン、モビルトルーパー達が工作機械をふるい、溶接機の火花が宇宙の闇にきらめき散っていく。

「これでだいぶ違うだろ」

 近接戦闘特化型マシーンの性能をフル活用して、船首極厚装甲板のドクロマークを、巨大なパンダマークに変更し終えたアークが言う。

「こんなので変わります?」

 切った張った作業で活躍するA2(AXE-AXE)が、赤熱せきねつするアチチ・アックス(断じてヒートホークではない)をかまえつつ、その操縦席からAXEが言う。

「変わる変わる。てめえの嘘も信じちまうシンセティック・ストリームは、看板変わりゃなんのことかわかんなくなる、マジモンのアホウタロウのケツノアナ、ボンボンクラクララリパッパーの副総理ちゃんだからよ」

 そう言ってアークはふふんと笑う。

「船尾の海賊旗もパンダに変えておきましたし」

 船尾で海賊旗をパンダマークの旗に交換していた、タッヤがGTZの操縦席から言う。

「自慢の主砲もドーム型のカバーでタンクに偽装ぎそうされちゃったし」

 自慢の主砲をタンクに偽装されてしまったサディは、通常の三倍カワイイキャンディアップルレッドの操縦席で、大変ご不満そうに唇をとんがらせてそう言った。

「しばしさらばだ。海賊放送船イービル・トゥルース号。この船は今日から、キャプテン・パンダと愉快ゆかいな仲間達号だ!」

 アークの宣言に

「まじかぁぁ……」

 とサディは言った。

 


 たった一隻でシンセティック・ストリームに対抗しうる、ビックリドッキリ驚愕驚異の宇宙戦艦イービル・トゥルース号は、船首のカワイイパンダがつぶらな瞳で宇宙をみつめ、船尾にはパンダ旗がはためくキャプテン・パンダと愉快な仲間達号にその名と姿を変えて、タダ・サバイバー銀河をぷかりぶかりと航行している。

 艦橋では無免許もぐりの航海士アーク・マーカイザックが、濃紺のうこんのミリタリージャケットのポッケから取り出した、俺にとっての最新版の銀河ヒッチハイク・ガイドを開き、近場で儲けの出そうな積み荷がありそうな星を探している。

 艦橋前面のブ厚い硬化テクタイト製窓の先では、ドーム型のカバーで覆われ、無味乾燥なタンクにされてしまっている主砲達。それを残念そうにみつめるサディ。しばらくはお役御免おやくごめんの巨大なリボルバーカノン型の主砲操作桿をピカピカに磨きつつ、これから立ち寄る星であらゆる魚介類を食ってやるよと、サディは犬歯をむきだしニヤリと笑う。

 AXEはレーダー盤をみつめてSS艦を警戒しつつ、脳裏ではいつかこの船の無骨な大浴場(通称・邪悪湯)を、素敵でラクジュアリーなスパにするんだと夢見ている。

 ミーマはタッヤに、まずは格納庫の本を読みなさい、といわれたので、自席で堂々とシンセティック・ストリームご禁制のブラック・レーベル本を開いてムフフしている。

 タッヤは自席でキーボードを叩き、イクト・ジュウゾウ達ロボット乗組員に約束した、いろんな星のいろんなバッテリーを調べ、いろんな業者に見積もり依頼を出している。

 イクト・ジュウゾウは、

「ソウイウコトジャナインダガ……」

 と言いたそうな無表情さで、操作盤を無言で叩き、キャプテン・パンダと愉快な仲間達号を、今日もしっかり管理している。

 うるわしの本船の素敵なケツにアッツイ青き炎を灯す、艦橋背後の機関室ではコタヌーンが

「やっぱりソファは欲しいよなぁ。次の博打バクチで当てたらもう一度言ってみるかぁ」

 と言いながら、順調に高出力を叩き出し続けるメインエンジンを眺めている。

「んー? こういう時は正常値を指している気もするんだけど、やっぱりなんかおかしいのよねえ」

 とオクタヌーンは言いながら、レッドゾーンには突入しないけれど、常識の範囲をブッチ切るあたりの出力を順調に表示し続ける計器類をみつめている。

 そんな乗組員達に何一つ口を出すこともなく、究極にクソ面倒くさい事態になった時だけご英断を求められるパンダ船長は、今日もつぶらな瞳で硬化テクタイトの先に広がる、どこまでも続く星の海をまっすぐにみつめ続ける。

 海賊放送船イービル・トゥルース号は、いまやキャプテン・パンダと愉快な仲間たち号となって、広大過ぎる星の海をぷかりぷかりと気ままにゆく。

 しばし、さらば! 海賊放送船イービル・トゥルース号!

 キャプテンパンダと愉快な仲間たち号のふところがもっともっと温かくなって、シンセティック・ストリームのクソ野郎どもの記憶が薄れた頃、この船は再び船首にドクロを冠し船尾に青いドクロ旗をはためかせ、ケツに青い炎を燃え上がらせて、どこかの銀河でシンセティック・ストリームに公然こうぜん反旗はんきをひるがえす!

 いまは雌伏しふくの時。この屈辱くつじょくに耐えるのだ。今日を生きのびて、明日の闘いに向かうのだ! 

 このぶったまげるほど広い銀河で、いつか君と出会うまで! 

 しばしさらば! 海賊放送船イービル・トゥルース号!

 という最終回風な感じで、物語はまだまだ続きます。

「くそが!」

 最終回風の締めかたが気に食わないのか、いまやタッヤによって財務的破綻から全力逃走する銀河一の運び屋にされてしまったネガは、今日も操縦桿を目的地に向かって倒しながら毒づいた。


注・本当に最終回ではありません

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