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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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サヨナラ永遠に続く夕焼けの世界

サヨナラ永遠に続く夕焼けの世界



「レーダーに感あり。大気圏離脱進路に、多数の建造物」

 AXEが告げる。

「放棄された都市かな?」

 サディが主砲照準器をのぞき込んで、超遠距離の映像を確認する。

「主砲照準器、映像出します」

 ミーマが操作盤を叩き、艦橋前面の硬化テクタイト製窓に映像を投影する。

 永遠に続く夕焼け色の空のした、赤茶けた大地に広がるのは、円錐台型えんすいだいがたの建造物複数と巨大な四つのパラボラアンテナ。そして巨大パラボラアンテナ同士を直線で結ぶと現れる、延長線が生み出す十字照準の中心に立つ、無味乾燥なデザインの巨大な円柱型高層建造物。

「こいつは……。赤茶けた砂しかない大地にピッタリの、なんとも寂しい都市だな」

 アークは画像をみつめて言った。

「唯一確認できる電波は、巨大パラボラアンテナによって受信される宇宙太陽光発電からの送電と思われます」

 ミーマが状況を確認。

「と、いうことは? この星の知的生命体は生きている?」

 AXEが言う。

「の、わりには、バリバリ領域侵犯状態のこの船に、警告、砲撃どころか、呼びかけることもしてこないよね?」

 主砲照準器をのぞきこんだままサディが言った。

「とっくの昔に滅びているにしては、電力が継続して送電されているのが不思議ですし、生きているなら何の反応もないのがまた不思議ですね」

 とはタッヤ。

「もっとも手近なグラジ・ゲートに向けての大気圏離脱ルートは、現在投影中の建造物群付近の上空を通過することになります」

 ミーマが状況を報告。

「進路このまま。あれが都市だとするのなら、近くを所属不明の船が飛べばさすがに何かの反応があるだろう」

 アークがぶっきらぼうに言う。

「テラフォーミング中の移民団かな?」

 とはサディ。

「海に水没している超高層建築。海辺には船の残骸達。放棄された六本足の巨大マシーン。テラフォーミングというより、昔は豊かで栄えていた星を必死でもとに戻そうとしているのかもしれない。宇宙はぶったまげるほど広く、あまたの銀河が存在する。そんな宇宙のどこかの銀河のこれまたどこかの星には、とっくの昔に滅んじまった世界もある。もしかしたら、ここはその瀬戸際せとぎわにいるひとつなのかもしれねえな」

 とはアークはさびしそうに言った。

「また放棄されたマシーンがいる」

 サディがのぞく主砲照準を映したモニタに、巨大パラボラアンテナの前でひざまづき朽ち果てつつある、六本足の蜘蛛型巨大マシーンが映る。

「さびし過ぎる世界だ」

 サディにただ一言だけ、アークは返す。

 イービル・トゥルース号は永遠に続く夕焼け色の空を翔ける。眼下に広がる多数の円錐台型の建造物と四基の巨大パラボラアンテナ、そして中心に位置する円柱形の高層建造物を背後においやり、エニグマエンジンの青い航跡が夕焼けに染まる空にきらめく。おおいなる海に水没した過去の遺物達と、なにひとつ物言わぬ寂し過ぎる都市を置き去りにして、赤茶けた大地が引き寄せる重力をイービル・トゥルース号はふり切って、あまりにも広過ぎる宇宙へと脱出して行った。



「大気圏。離脱します」

 ミーマが状況を報告。

 艦橋前面のブ厚い硬化テクタイト製窓には、宇宙にまたたくあまたの星々。

「ただいま。宇宙よ」

 アークがひとりつぶやく。

「周辺宙域に多数のSS艦!!」

 AXEが顔色を変えて叫ぶ!

「まじか!?」

 アークがめいいっぱい倒していたイカツイシートを、一気に起こして背筋をのばす!

「対抗障壁領域展開!!」

 タッヤが銀河一早く羽ばたく鳥がごとく、羽先で次々に操作盤を叩く!

「主砲はいつだってブッ放せるよ!」

 さっそくリボルバーカノン型の主砲操作桿を握りしめたサディが、尖った犬歯をみせてニヤリと笑う。

「シャッキントリガ、カエリヲマッテイヤガッタ!」

 とはイクト・ジュウゾウ。

「くそがぁッ!」

 銀河一逃げ足の早い船を駆る、銀河一逃げ足の早い操縦士がスロットルを床まで踏み込む!

「機関長、コタヌーン殿。当たってほしくない予想が当たっちまった。本船は現在SS艦だらけの超絶めんどくせえ宙域にいる。このゴミカスクソだらけ状態の宙域を脱出するために、最大戦速にてもっとも手近なグラジ・ゲートに突入する! メインエンジン・オーバードライヴ! 対抗障壁領域維持のため、補助機関もオーバードライヴだ! あらゆる砲撃を消し飛ばすまでブン回すぞ!」

「こいつが徒競場での当たりだったら、がっぽり儲けのウマイ話だったんだけどなぁ〜」

 緊急事態にも関わらず、前に訪れた星での女の子徒競走博打の話をのんきにするコタヌーン。

 イービル・トゥルース号はエニグマエンジンのアッツイ青き炎をケツに灯し、もっとも手近なグラジ・ゲートへ向かって宇宙を翔ける!

「射撃レーダー照射されました!」

 ミーマの状況報告!

「やっぱり問答無用で撃ってくるのかよ!」

 アークがあきれかえったように言う。

「七千万ゼニーも稼いだんだ! 全艦ブチ抜いて宇宙のデブリにしてやるよ!」

 早くも主砲照準器にカワイイお顔を突っ込み、リボルバーカノンを模した主砲操作桿の引き金に指をかけたサディが吠える!

「やめてください! SS艦なんて建造時からピンハネされまくり中抜きスカスカのハリボテばっかで、中身ヌキヌキすっからかんのカラッケツの素寒貧すかんぴんばっかなんですよ! 沈めるだけこっちの財布が空っぽになるだけです!」

 経理担当のタッヤの悲鳴が艦橋に響き渡る!

 ブ厚い硬化テクタイト製窓に走る赤黒い閃光!

「対抗障壁領域に直撃!」

 ミーマの状況報告。

「SS艦多数! 艦隊規模の戦力が本宙域に展開されています!」

 AXEがレーダー盤に明滅する光点を目で追いながら、もはや軍団レベルのSS艦の存在を告げる。

「対抗障壁使用率1.5%。補助機関による冷却順調。50発食らっても余裕です。相手にすることはありません」

 タッヤの冷静な計器読みと判断。

「黙って撃たれてることはない! ブッ放そうよ! アーク!」

 タッヤの冷静さを冷酷に蹴っ飛ばす残酷なセリフを、サディが真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をギラギラさせてアークに叫ぶ!

「船長のご英断が必要だ!」

 アークはサディの視線に一瞬目を合わせてから、艦橋最奥に座るイカツイ艦長服姿のパンダ船長に振り返る。

「ぱふぉっ!」

 この緊迫する状況に微動だにすることなく、じっと艦橋前面のブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる星の海をみつめていた船長が、間髪いれずにすみやかにご英断!

「アーク! 船長はなんて!?」

 ガチンガチンと音をたてて、あらゆるゴツい武装達のイカツイ安全装置を次々解除しながらサディが問う!

「なんでこんなに執拗しつように狙われるのか意味がわからん。それと同時に、意味がわからん戦闘なんてものをするのは、本当に意味がない。何より逃げられるのなら、とにかくケツをまくってバックレて、グラジ・ゲートに突っ込んでこの宙域を脱出しろ。グラジ・ゲート離脱後、急速砲撃ターン。グラジ・ゲートを超えてなお追ってくるようなら、交戦を許可する! 出てくる先から始末しろ!」

 アークがパンダ船長のご英断を翻訳!

「やっぱりまずは逃げるのかよぉぉぉ」

 サディが照準器に顔を突っ込んだまま、がっくりと肩を落とす……

「イービル・トゥルース号! 全力逃走! 了解ッ!」

 銀河一逃げ足の早い操縦士が、全身全霊をかけた逃走へとまっしぐらの一直線! 本気のベタ踏みをペダルへと叩き込む!

 今再び星の海を、海賊放送船イービル・トゥルース号がケツに青い炎をともして翔ける!

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