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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦
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暗く深い海の中

暗く深い海の中




 艦橋前面の硬化テクタイト製窓に何かがはりつき、グロテスクな無数の触手を動かしながら移動していく。

 馴染みのない星の奥深く、未知の深海に存在する奇妙な生物を、アークはじっとみつめている。

 時刻は深夜零時。

「パッシブソナーに感は?」

 アークが静かに聞く。

「スデニ6ジカンイジョウ、カンアリマセン」

 艦橋右舷側の最後方の席に座る、銀色の球体に合計6本の機械の手足が生えたロボット乗組員のイクトが答えた。

「船長。特に問題ないようです」

 アークは振り返って、艦長席に座るゴツい艦長服に身を包んだパンダに告げる。

「ぱふぉ」

 パンダは微動だにすることなく、そう言った。

「船長はなんて? アーク」

 今は武器管制操作盤に突っ伏して眠るサディにかわって、AXEがアークに問う。

「総員警戒解除。総員警戒解除。本船はこれよりシステム管制下の自動警戒に移行する。今夜はおとなしくゆっくり休んでくれ。各位、たっぷり休んで明日の行動に備えよ。船長はそう言った」

 アークがヘッドセットに向かって、パンダ船長のご英断を告げる。

「クソが……」

 シートをめいっぱい倒し、天井を見つめていたネガは静かにつぶやき、アークの右隣の操縦席から立つと、そうそうに艦橋を出て行く。

「私達もやすみます」

 最前列のアークと最後方のパンダ船長の間に並んで座る、AXEとミーマが席を離れ、艦橋を後にする。

「それでは、イクト、後を頼みます」

 銀色の球体に六本の手足を生やすロボット乗組員のイクトに、律儀に一声かけてタッヤが席を立つ。

「アークも休まれては?」

 艦橋を去り際、いまだに艦橋最前列の席で、硬化テクタイト製窓をみつめるアークにタッヤは言った。

「俺は深海生物が好きだから、こいつらをもう少し眺めていることにするよ」

 アークはそう言うと、窓の外を這う不思議な生物を指差す。

「私にはただの不気味な光景にしかみえませんが……。船長の指示はたっぷり休めですよ。アーク」

 タッヤの言葉にアークは振り返ることもなく、人差し指と親指で拳銃を作り、人差し指を天に向けるしぐさで答える。

 艦橋に残ったのは、硬化テクタイト製窓を這う深海生物をみつめるアーク、操作盤に銀髪をひろげて突っ伏したまま眠るサディ。システム管制下の自動警戒にあたるロボットクルーのイクト、そして微動だにすることのないパンダ船長。

 深海3500メートルの強大な水圧にもびくともしない硬化テクタイトの上を這う、未知の生物をアークはじっとみつめている。

「この星に住む者ですら、おまえのことを知らないんだろうな」

 アークはそう呟いてシートを倒し、硬化テクタイト製窓の先に広がる、漆黒の深海をうごめく深海生物を眺めていた。



 明朝9:00

 タッヤが艦橋の扉を開くと、艦長席に座るパンダ船長と、不眠でシステム管制を行うロボット乗組員のイクトだけがいた。

「船長。お疲れ様です」

 タッヤは律儀にパンダ船長に挨拶したが、パンダ船長は何も言わなかったし、微動だにすらしなかった。

 タッヤは無視する船長を気にすることなく、艦長席の右隣の席につくイクトに声をかける。

「イクト。異常は?」

 夜間何の連絡もなかったことから、異常はないことはわかっていたが、タッヤは念の為イクトに聞いた。

「イジョウナシ。ヨハスベテコトモナシ」

 イクトはそう言いながら操作盤を触り、船を今も維持している。

「お疲れ様」

「アリガタキ」

 イクトは操作盤に向かったまま返事をすると、船を維持する操作を続ける。

 タッヤは艦橋前面の硬化テクタイト製窓に向かう。朝と言っても深度3500メートルの深海に光はなく、暗闇の中に艦橋から漏れる光に照らされた不気味な生物が、無数の触手を硬化テクタイトの上でうごめかせている。

 タッヤはぶるっと羽毛に包まれた身体を震わせる。

 これ……、危ない生物っぽいよなあ……。まさか、硬化テクタイトを溶かしたりはしないよね?

 アークはこの不気味な生物の何が気に入って、真夜中にみつめていたのやら。とタッヤは思う。

 背後で耐圧扉の開く音がする。

「おはようさん。タッヤさん」

 あくびをしながら現れたのは機関長のコタヌーン。

「おはようございます。コタヌーンさん」

 タッヤは律儀に一礼。

「みなさん遅いようですな」

 コタヌーンは空いている席に腰をおろすと、スラックスに革靴を履いた足を組む。

「この船は腰が抜けるほど自由ですからね」

 タッヤはそう言って羽を広げる。

「種族、年齢、性別、肌の色、瞳の色、髪の色、服装、すべて一切制限なしの自由。学歴不問で経験不問の海賊放送稼業。しかも、雇い主は、正体不明な謎のパンダときている」

 コタヌーンは艦長席に座る、ゴツい艦長服を着込んだパンダ船長に視線を向ける。

 パンダ船長はコタヌーンの失礼な物言いにもなんの反応もなく、艦橋前面の硬化テクタイト製窓の先をじっとみつめている。

「そうですね。ウチの船長はとやかくは言いませんね」

 そう言ってタッヤは笑った。

「しかも航海士は無免許もぐり、戦闘隊長はド派手な深紅と漆黒バラ柄の和服姿で、時に好き勝手に主砲をぶっ放す。レーダー担当はやたらいなせに着物を着こなし、アクティブにうなじをみせつけてくれるし。そんでもって探知探査状況把握のプロは半透明の氷砂糖のお嬢さん。そして経理担当は愛くるしい巨大スズメのあんたときたもんだ」

「そんなあなたも、銀河を渡り歩くギャンブラーにしてやりてのビジネスパーソンかつ機関長、さらには銀河を飲み歩く大呑兵衛」

 タッヤの言葉にコタヌーンはニヤリと笑って、人差し指と親指で銃の形を作り天に向ける独特の敬礼をして返す。

「おはよう」

 声とともに開いた耐圧扉から現れたのは、焦げ茶色と黒を組み合わせたレザースーツ姿の、氷砂糖を思わせる半透明の体を持つ、緑髪の少女。ミーマ・センクター。

「おは」

「おはようございます」

「オハヨウゴザイマス」

 コタヌーンとタッヤ、そしてロボットクルーのイクトの挨拶が返される。

 ミーマは自分の席に着いて一通りの情報確認をすると、今度は妙にそわそわしだした。

「いつまでここにいるのかな?」

 ミーマの言葉に、ピクッとコタヌーンの眉が動く。昨日、アークが夜半までは動かない、と言っていたが、戦闘中のどさくさでミーマは聞いていなかったのだろう。これは言わない方がいいな。とコタヌーンは口をつぐむ。

「アークが起きてきてからですかね。船長の言葉はアークしかわかりませんし」

 タッヤの言葉に、がっくりとミーマが肩を落とす。

「はやくアーク起きてこないかな〜」

 そう言いながら、座るバケットシートの上で足をぶらぶらさせている。

「おはようございます」

 声とともに耐圧扉から現れたのは、大きく衣文を抜いた着付けで大胆にうなじをアピール、そして今日も黒髪アップに斧モチーフのかんざしをさしたAXE。

「おは」

「おはようございます」

「おはよう」

「オハヨウゴザイマス」

 みんなの挨拶にAXEは艦橋を見回し。

「アークは?」

 と言った。

「まだ起きてこないようで」

 タッヤは羽を広げて言う。

「本当にこの船は自由な船」

 AXEはそう言うと優雅にバケットシートに座る。

「深海じゃあ、レーダーもなにもあったもんじゃないんだよね」

 そう言って肩をすくめた。

「そろそろ起きてきてもいい頃ですけどね」

 タッヤが九時を過ぎた時間表示の計器を見つめて言った瞬間、耐圧扉が開き出す。

 このタイミング的にはアークか? 艦橋の全員の視線が耐圧扉に集まる。

 その視線の先に現れたのは、全身ガチゴチハードなレザースーツ姿のガスマスク野郎。ネガだった。

「アークじゃないのか……」

 ミーマが思わず漏らした声に

「クソが」

 とネガは言った。

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