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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪
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特別番組・あの時何が起こっていたのか?

特別番組・あの時何が起こっていたのか?



「バチバチ武装でガチガチ装甲なモビルトルーパーで行けるのはそこまでだった。目の前には、死体一つ漂わない、宇宙戦艦の中枢へと続く通路が口をひらいて待っている。ナニカが動き回っている形跡けいせきと思われる、不気味な爪痕つめあとが周囲にはいっぱいあったし、残骸ざんがいに機体を接触させれば、ナニカがうごめく音がする。はる彼方かなた昔の自立自動化兵器? いや、そんなものはとっくの昔にエネルギーが尽きて、ただのガラクタになってるはずだ。じゃあ、何が? 結論は簡単だった。この先にはどうもヤヴァイモノが待っている。だが、俺はそのヤヴァイブツをみてみたかった」

 艦橋のモニターが、濃密なブルーを背にドクロに大腿骨だいたいこつをあわせた海賊放送旗を表示。RADIO・EVIL TRUTH NOW ON AIRの赤い文字がドクロの上に踊る中、海賊放送船イービル・トゥルース号のいつもの面々はアークの語る、あの時のことを聞いている。

 アークは一人、あの時のことを振り返りながら語り続け、それはナイン・シックス・ポイント・ナイン96.9銀河標準メガヘルツにのって、宇宙の果てへと向かって飛んでいく。

「俺はモビルトルーパーを降りて、もしもの時のために、俺を引っ張り出すケーブルを相棒に持たせて、死体ひとつ漂わない通路に入っていった。船外活動スーツのライトに照らされた通路には、不気味なくらい何にもいなかった。こいつはどう考えてもおかしかった。宇宙の墓場に漂着ひょうちゃくした、誰にもとむらわれることのない艦に、死体がひとつもないなんてあり得ない。じゃあ、なにがあり得るか? この艦に残った死体を食うゾンビか? とっくの昔に死んでいるゾンビなら、真空中でも生きられる? 俺の頭の中は変な考えでいっぱいになったが、そんなものはヤヴァイヤツをみつければ、簡単に答えが出るわけだ。俺はなんでもストレートが好きだ。ストレートな考え方が好きだ。ぶん殴る時はストレートが一番だと確信している。だから、まずはまっすぐ、行けるところまで行こうと考えた。この艦の死骸しがいの最深部に向かって俺は、奇妙な爪痕が残る通路を進みはじめた」

 アークの語りに、いつもの面々がゴクリとつばを飲む。

 なぜアークがあの時、ケツに突っ込んだロケットを点火させたかのように、あの通路から飛び出すことができたのか? 

 現場にいたサディにさえ謎な現象だったし。アークの人格が一瞬だけネガになった謎についても、サディは興味深々だったりもした。

 アーク。やっぱりケツにロケットを仕込んでいたのかな?

「俺は真っ直ぐに通路を進んだ。途中、いくつも扉があったが、とっくの昔に耐圧扉を開けるパワーは切れているだろうし、俺は力仕事が大好きというわけじゃない。だから、ひとつも開けようとはしなかった。だが、扉に体を押し付けて、中で何か音がしないかは確認したよ。いきなり背後から扉が開いて、ゾンビにがぶりとやられたらたまらないからな。扉の中に音はしなかった。だが……」

「ゴクリ」

 ミーマの緊張が高まる。

「……扉の中ではないが、ナニカが艦内を動き回る音が確かにした。しかも、その音は近づいている。俺は、これは宇宙の驚異との遭遇そうぐうも近いぞと思い、さらにさらに通路を進んでいった。おそわれるならどこからか? これが上下の意味がない宇宙空間ではあらゆる方向からがありえるわけで、俺は前後左右上下をチラ見しながら進んでいったんだが……」

「ゴクリ」

「……あり得ないものが通路にただよってきた……」

「ゴクリ!」

「それは……。どこからどうみても……。クソだった」

「はあっ!?」

 とネガ除く乗組員一同。

「くそがッ?!」

 とネガ。

「宇宙の墓場に眠る。宇宙戦艦の死骸の最深部。そのど真ん中に……。人の頭くらいあるデッカイクソが、新鮮極まるできたてホッカホカの姿で、目の前をぷかりぷかりと漂っていやがった! 最初に思ったのは、汚えとかそういうことじゃなく、宇宙ってスゲエな……。ということだった。こんなあり得ないようなことが、本当に起きる可能性を持っているのが宇宙だ。だが、ビックリドッキリ胸が動悸動悸どうきどうきのできごとはそれでは終わらなかった! クソデカいクソの漂う通路の先にある通風口から、ナニカがい出してきやがった! ワオ! 真空の宇宙空間で! 通風口からご登場かよッ! こいつがクール・ジャンク! ってやつかと思ったら……。ナニカとかなまぬるいもんじゃない、マジデ宇宙を創造したもうた、やっつけ仕事のクソ野郎の神経を疑う、クソグロい被創造ひそうぞうブツがわさわさガリガリズンズンズン! こっちにドスゲエ速度で向かってくるじゃねえかッ! 目の前に浮かぶ人の頭ほどのデカさのできたてほやほやのデカいクソ! こいつの創造主様は今突進してきてるこのクソグロいブツにちがいねえ! 俺は叫んだ! くそがぁぁぁ!」

 にゃるほど! あの時のアークの人格が一瞬にしてネガになったのはこういうことか!

 サディが、ぽんっと拳を水平にした手のひらに打ち下ろして納得した瞬間。

「くそがぁぁぁ」

 とネガは言った。

「俺は確信かくしんした! このあたりに死体がひとつもいねえのは、間違いなくこいつが食っていたからだ! ……ということは、今まさに俺に突進ぶちかましてきているコイツは……」

「新鮮ピチピチのナマなアークを食おうとしてる!」

 サディが真っ赤なリンゴみたいに瞳をキラキラさせて、水平にした手のひらに、再びぽんっと拳を打ち下ろす。

「まったくもってそのとおり! エビでやんすもデータも査読済さどくずみの論文もいらねえよ。どこかの阿呆はこういう時も、それってあなたの感想ですよね? データでもあるんですか? とか言って何もしねえのかもしれねえが、俺はアークであって阿呆じゃない! であるならば、俺はいったいどうするべきか!? 決まってんだろ! 3発殴って撃破せよ! と俺の脳が明確極まる感情にたかぶりたぎった時、俺の右拳はもうクソグロいブツにしっかりバッチリガッツリ、ズッゴーンとブッこまれていたッ!」

「対処が早いですね」

「殴ると決める前に殴るぅ」

「気がついた時には、すでに殴っているのは危ないなぁ」

「どうしてこの船が謎だらけのまま飛んでいられるのか、なんとなく理解はできました」

「パンチはいいです。ですが気づいた時にはもう買っている。衝動買いだけはやめてください」

「クソがッ!」

「で?! 次はケツのロケットに点火したの!?」

 サディが真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をキラキラさせて、アークに迫る。

「……サディ。俺はケツにロケットは仕込んでない……」

 アークが、なんじゃそりゃ? という苦笑いのような表情でサディをみつめる。 

「じゃあ、どうやってあの通路から、ケツに仕込んだロケットをブッ放したみたいな勢いで飛び出せたの!?」

 サディが、アークにずいっと迫る!

「あー、それはだな。パンチだ。俺の必殺、すんません、気づいた時には殴ってましたパンチが、クソグロいブツにズッポシバッチリガッツリぶっ込まれたからだ。俺が叩き込んだパンチの破壊力が生み出す反作用+こっちに突進してくるクソグロいブツの運動エネルギーが合わさって、俺の右の拳から俺自身に流れ込み、それこそケツに火がついたような速度で俺を今来た通路の方向へぶっ飛ばしたのよ」

「ええ……。つまんない……」

 サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が一気にくもる。

「……面白いつまらんの話ではないぞ……」

 アークがあきれたようにサディをみつめる。

「宇宙空間でパンチはあり得ないです」

「っていうか、丸腰だったんですか」

「丸腰のパンチ一丁は危ないなぁ」

「まっすぐ通路を逆に戻れる、パンチの軌道が奇跡的過ぎます」

「アーク。もう少し考えて行動してください」

「くそが……」

 いつもの面々のあきれぶりに、アークが表情を引き締める。

「いや、あれは英断だった。もしももしもの万が一、あの時最初の一撃がパルスレーザー銃で撃つとかだったりした場合、どう考えても食われてた。なぜなら、キャンディアップルレッドの悪霊退散鉄拳制裁あくりょうたいさんてっけんせいさいを3発もらってようやく気絶するようなヤツだからな……。殴って正解! 気づいた時にはぶん殴っていたからこそ! パンチの生み出す反作用で俺は通路を高速でブッ飛んで、あのクソグロいブツの魔の手から、俺は逃れることができたってわけよ!」

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