コタヌーン、ハサウェイにふっかける
コタヌーン、ハサウェイにふっかける
アーク、サディ、ネガ、AXE、ミーマ、タッヤ、コタヌーン、オクタヌーン。
イービル・トゥルース号の船長をのぞいた総員が格納庫に出迎えに立つ。
格納庫のエアロックから現れたのは、壮麗美麗な純白の多角形で構成された人型機体。
「可変型の宇宙船なんて……。スゴイ技術力ですね……」
タッヤの感嘆の声が漏れるなか、純白の人型機体がひざまづき胸に手をそえる。
胸のハッチからあらわれたのは、黒髪短髪、ブラックスーツにイカツイ体を包んだ男性。
「ハサウェイにございます」
機体から格納庫に降り立ち、通信機の向こうでみせた、優雅な一礼をハサウェイが再びみせる。
「ようこそ。イービル・トゥルース号へ。船長は艦橋を離れられない仕事一徹の頑固者ゆえ、代行のお出迎えにてご容赦を」
アークがそう言い、総員がイービル・トゥルース号独特の、手で作った拳銃を天に向ける敬礼。
「存じてますよ。あのお方のことは。さっそくですが、ぜひにあの宇宙の驚異をひきとりたい。そちらの条件の提示を」
ハサウェイはアークに視線をあわせて言う。
「格納庫で、というのもなんです。まずはお茶でもいかがか?」
アークがまあまあお茶でもとそくす。
「いえ、正直いますぐにでもあの宇宙の驚異をいじりまわしたい。条件の提示をいただけますか?」
ハサウェイの言葉に、スーツ姿のコタヌーンが前に出る。
さてさて、まずはご覧になってご理解いただいているとは思いますが、なんと言っても宇宙の驚異ですからな。少々値が張るのはご理解いただきたいところ。
まずは宇宙の驚異捜索までの燃料費、旅費。本船自慢のエニグマエンジンは大食らいでしてなぁ。さらに宇宙の墓場にまで突入して、ひそみ隠れていた幽霊宇宙戦艦と沈むや沈まざるや!? の大激戦をやりあった本船の損料、諸経費のみならず、ウチの代行含め、探索に出た乗組員の命までもを危険にさらしてます。
なんと言っても驚愕の宇宙の驚異です。なんとかウチの無免許もぐりの代行殿は、無事に帰ってはきましたが……
「無免許もぐりの航海士」
アークの訂正がわって入る。
ですな。無免許もぐりの航海士である代行殿は無事に帰ってきたわけですが、もしかしたらの万が一、大破した宇宙戦艦の最深淵で、口から管を突っ込まれて、その腹にたまごをパンパンにブチ込まれ、しれっと何事もなかったかのようにこの船に戻ってくるなんてこともあったかもしれないわけです。
そうしたら……。こちらとしてはなんてったってみためは無免許もぐりの代行そのものなわけですし、それはもう普通に一緒に共同生活を……
「無免許もぐりの航海士」
でしたな。まあ、話を進めましょうや。
なんか……。こいつ……。前からやったら飯食うやつだったけど……。もっともっと食うようになったな? と思った時にはもう遅い。腹から宇宙の驚異がウジャウジャワシャワシャ。ワシラもワシワシもしゃもしゃされて、宇宙の驚愕驚異の一部になってハイおしまい。ということもじゅうぶんにアリ得たわけですなぁ。
怖い怖い……。マジで怖い……。
宇宙恐るべし。なめたらあかんぜよ。
そんな世界で探索にいそしんだ乗組員すごい! こいつはもう血と汗と涙の一大プロジェクトなわけでして……
となると、危険手当等もコイツをとっ捕まえた乗組員にたんまり出さないといけません。
なんと言っても……。
宇宙の驚愕驚異の一部になってハイおしまい。これもありえたわけですからなぁ!
コタヌーンの言葉が格納庫の中に響き渡り消えていく。
それを眉一つ動かさず聞いているブラックスーツのいかつい男性。
しかしコタヌーンは一切ひるみもせずにこう言う。
「……synthetic stream……おっと失礼。Space Synthesis System 7000万ゼニー相当でいかがですかな?」
おおおッ!! 誰もが思った!
7000万ゼニー! あれが買える! これが買えるッ!
サディだけは追加でさらに思う。
主砲弾が買えるッ! つまりは好き放題ぶっ放せるッ!
というか!
眉一つ動かさない奴を相手にここまで話して、巨額を提示できるコタヌーンすげえ!
パンダ船長を除いて格納庫に終結した、いつもの面々はそう思った。
しかし、ブラックスーツのイカツイ男性はじっとコタヌーンをみつめたまま、微動だにしない。
1銀河標準秒が過ぎ。2銀河標準秒が過ぎ。4銀河標準秒が過ぎ……
まるで時間の流れが遅くなったように感じられた時……
男性の口角がわずかに歪む。
「ふむ。いいでしょう」
言い値が通ったッ!
タッヤの羽毛がざわつくざわつく。
「3500万ゼニーを現ゼニ。及び、残りは3500万ゼニー相当の別の支払い方法でお願いできますかな?」
コタヌーンが支払い内容の詳細について詰める。
「かまいません。現ゼニでお支払いします。残りはお好みの物で」
ブラックスーツ姿のイカツイ男性は涼しい顔で、巨額の取引を了承した。
「いい男だったな〜」
ミーマは上機嫌で自席で足をぶらぶらさせていた。
「着目点はそこか」
アークがつぶやく。
「いい男でしたよ」
AXEが宇宙の驚異が閉じ込められた、歪な箱を牽引していく美麗な白い機体をみつめながら言う。
「茶の一杯も飲まずに帰って、即ブツに触りたいとは、よっぽどの好きモンだな。ありゃ」
アークが去りゆく白い機体にため息をつく。
「ナニカ話したいことでもあったの?」
サディがそんなアークを横目に言う。
「まあな」
アークはそう言うと、めいいっぱい倒したシートにごろんと横になった。
「なんか、どこかでみたことある気がするんだけどなぁ〜」
サディはどうも記憶に何かひっかかるのだが、それが何か出てこないらしい。
「いい男ですからね。以前、ファッションモデルでもしていたんじゃないです?」
ミーマがサディにそう言った。
「うーん……」
サディはどうも納得しない感じ。
「とにかく、これで本船の懐事情も安心ですね」
タッヤがホクホク顔で言う。
「いや〜。あの感じだと、もっと高くてもいけたかもなぁ」
艦橋にきているコタヌーンが残念がる。
「せっかくなら、伝説的な航宙機械艦の中を見てみたかったんですけどね」
艦橋にきているオクタヌーンが残念がる。
「セイキュウショハヒカエメカ」
と言ったのはイクト・ジュウゾウ。
「それにしても、船長とハサウェイさんって、いったいどんな関係なんです?」
とタッヤ。
「俺も詳しくは知らん」
アークが寝転んだシートのうえで肩をすくめる。
そんな中、船長は冷静沈着。艦長席に無言で座り、ぶ厚い硬化テクタイト製窓の先の宇宙をみつめる。
そしてネガは
「くそが」
と言った。




