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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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ハサウェイがやってきた

ハサウェイがやってきた




 広大な銀河に、その名を知られた伝説的な船、というのは何隻かいる。

 あるものは、遠い太古の姿をしているくせに、惑星ひとつをまるまるぶっ飛ばせる驚愕驚異の戦闘力を誇る、昔々の海洋戦艦的な艦橋を持つという、古風なデザインの宇宙戦艦であったりする。またあるものは、艦首にドクロを掲げる、どこかデザイン的にイービル・トゥルース号に類似点を感じる、伝説的な宇宙海賊船であったりもする。またあるものは、単艦に格納した数機の人型兵器でもって、宇宙戦争の戦局を塗り替えたと噂される、白い木馬のような船もいる。その他多数、宇宙のどこかに実在すると噂される伝説的な船達の中にあって、宇宙最強であるとか、そういうこととは無縁でありながら、宇宙の船乗りに語り継がれる有名な船がいる。

 銀河を旅する宇宙船乗りなら、どこかで一度はその名を聞いたことのある、驚愕驚異の非武装艦。この船に治せない船はない。この船に作れない艦はない。銀河鉄道さえこの船が一隻で作りあげたのではないか? と言わしめる、宇宙の伝説的なメカニック達の座乗する、宇宙戦艦さえまるごと収容可能な航宙ドック艦。

 その名を、航宙機械艦ハサウェイと言う。

「ウチの船長……。……ハサウェイさんと知り合いなんですか?」

 AXEがレーダー盤に映る、あまりにも巨大な菱形の鋭利な刃物をみつめて言う。

「俺はマグネットシートの番号にかけただけで、詳しいことは知らん」

 アークは振り返ることなく、AXEの問いに答える。

「マジですか……」

 ミーマが振り返り、パンダ船長をみつめるが、船長はいつもの冷静な視線を硬化テクタイト製窓の先から動かさない。

「あの……。ハサウェイさん。あんなヤヴァイ生物。欲しがるものなんですか?」

 タッヤもさすがに驚いた様子だが、思考は冷静。

「欲しいんだろうよ。その証拠に、こうしてやってきたわけだしな」

 アークがそう言うのと同時に、ミーマの操作盤にハサウェイからの通信を示す表示が点灯する。

「ハサウェイから通信です!」

 ミーマが告げる声に、アークが

「船長におつなぎしよう」

 と答える。

「え? それ、いいの?」

 と言う空気が艦橋に流れる。

「船長のツテだからな」

 続くアークの言葉に

「……船長につなぎます」

 とミーマが通信を船長へとつなぐ。

 艦橋前面の硬化テクタイト製窓から、白く巨大な鋭利な刃物が消え、黒髪短髪のイカツイ男性が映し出される。

 真っ白い巨大な宇宙戦艦とは対照的な、真っ黒いスーツに身を包んだ、ぶ厚い胸板の男性。

 この優雅な雰囲気の男……。パンダ船長にいったいどう対応するのか?

 いつもの面々がモニターに映し出される男に大注目。

「ハサウェイにございます。お久しぶりでございます。ご健在とは何より」

 そう言って、男は優雅に一礼。

「ぱふぉっ」

 それに対してパンダ船長はやはり微動だにすることはなく、答えたのはいつものセリフだった。

「さて、なんでも宇宙の驚異を捕獲したとか。さっそく話を進めたい。この船の実務を担当さている方はいらっしゃるかな?」

 ハサウェイは静かにそう言った。

「船長代行をやっているアークだ。ご足労ありがたき。例のブツが、グラジ・ゲートを生きて抜けられるか怪しかったんでな。わざわざきていただけて大変ありがたい。感謝する」

 アークがハサウェイとパンダ船長の会話に入る。

「おお、これは代行殿。ご健在で何よりです。せっかく得た宇宙の驚異を、不用意に毀損きそんされてはたまりません。賢明けんめいな判断ですよ。さっそくですが、私達は宇宙の驚異に目がありません。ぜひゆずりうけたいところですが、実際に物をみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」

「それでは、さっそくあなたの船に向かいたい」

「ぱふぉっ」

「乗船許可を感謝します。それでは、のちほど」

 再び黒髪短髪、ぶ厚い胸板を真っ黒いスーツに包んだ男性は優雅に一礼。そして通信は切断された。

「あの……。アーク……。ハサウェイさんと知り合いなんですか……?」

 タッヤが静かに言った。

「知り合いというか……。過去に一度この船をみてもらったことがあるだけだ」

 アークはふりかえらずにそう言った。

「ハサウェイって言ったら、大宇宙のビッグネームシップじゃない! ねえ、この船ってもしかして、ハサウェイ製のワンオフモノだったりするの!?」

 サディが興奮して言う。

「いや、違う。銀河の最先端技術者が、こんなレトロなデザインで作るかよ。むかーしむかしのその昔、船の調子が悪くなった時に、船長の席に貼ってあったマグネットシートの番号に電話したことがあるだけさ」

 アークは静かにそう言った。



 純白無武装が生み出す壮麗美麗そうれいびれいな、あまりに巨大に過ぎる鋭利な刃のようなダイヤモンド型をした、伝説的な航宙機械船ハサウェイ。

 船の頂点に向かってゆるやかに傾斜けいしゃする白い斜面しゃめんから、イービル・トゥルース号に向けて、一機の小型宇宙船が発進する。

 それは白く優雅な楔形くさびがたをした、ミニハサウェイと言って良い機体だった。

 ミニハサウェイはイービル・トゥルース号の艦橋の目の前に到達すると、優雅な楔形の機体を一変させる。

 純白の多角形によって構成された人型機体へと変形し、艦橋に向かって青いモノアイを点滅させる。

「物をみてもよろしいか?」

「もちろんだ」

 ミニハサウェイからの通信に、アークがうなづいて答える。

 純白多角形の人型機体がうなづいてアークに答え、艦橋横に係留されている、あの歪な急造の箱を純白の手につかみ、青いモノアイで中をのぞきこむ。

「はっはっはっ。真空の宇宙空間に丸裸で生きている。冗談のようだが、実在しているのだからしかたがない。これは宇宙の驚異に違いない」

 どことなくアークの笑い方を思わせる笑い声をあげて、ハサウェイが言う。

「宇宙の驚異過ぎてな。とっ捕まえるのに、そいつを3発ほどぶん殴った」

 とアーク。

「……3発殴って、撃破してしまわなくてなによりです。失礼であることは承知だが、これが本当に生物なのか、確認させていただきたい」

 ハサウェイの言葉に、

「ぶん殴った時の感触だけど、きぐるみじゃないことは確かだったよ」

 とサディが答え、通信機の向こうでかすかな笑い声が漏れる。

「納得の行くまで調べてくれ、それまでにこちらはお茶の準備をしておこう」

 もはやアークの言葉は聞いていないのだろう、食い入るように青いモノアイを歪な箱の中に突っ込み、ハサウェイは宇宙の驚異に夢中になっていた。



 結局ハサウェイは、イービル・トゥルース号の艦橋横に係留された宇宙の驚異に張り付いたまま、すでに一時間以上が経過中。

 サディがあくびまじりに

「どう? そいつのチャックはみつかった?」

 と通信。

「これは大変失礼しました。いささか夢中になり過ぎた」

 ハサウェイは本当に夢中になっていたのだろう、サディの言葉に快く答え、ようやく歪な箱の開口部から青いモノアイを引き剥がした。

「船首下部の、格納庫ハッチへどうぞ」

 アークの言葉に、多角形で構成された人型機体が手をあげて答え、イービル・トゥルース号艦首下部の格納庫へつながるハッチへと向かう。

「では、ハサウェイ殿をお迎えにあがるか」

 アークがめいいっぱい倒していたシートから立ち上がる。

「伝説的な宇宙船乗りとなれば、これは総員でお迎えするのが礼儀ですよね」

 すくっとAXEが自席から立ち上がる。

「純白の機体と対照的な、ブラックスーツにイカツイ体。ぜひ一度おめにかかりたいです」

 すくっとミーマが自席から立ち上がる。

「なんか……。どこかで会ったような……。気がするからあたしも行く」

 サディが自席から立ち上がる。

「これはいきなり価格交渉があり得ますし、コタヌーンさんも呼びましょう」

 タッヤが自席から立ち上がりながら言う。

「セイキュウショヲダシテコイ」

 イクト・ジュウゾウは操船業務のため、艦橋に残留ざんりゅうの意向。

「くそがぁあ」

 何が気に入らないのか、ネガは毒づきながら席を立つ。

「私もふるき友との再会に行こう」

 パンダ船長はそう言うこともなく、無言でぶ厚い硬化テクタイト製窓の先を真っ直ぐにみつめて、艦長席に座り続けていた。

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