死んだふり
死んだふり
艦橋に響き続ける奇妙な反響音は、SS潜水艦からの探知音。
「いまだアクティブソナー多数。海底まで残りおよそ3000」
小声でミーマが告げる。
「船体破壊偽装音継続中」
AXEが斧のかんざしをさわりながら静かに言う。
「予想以上にしつこいな……」
アークが真っ暗な窓の外をみつめながらつぶやく。
「クソが……」
操縦桿を握ったまま微動だにしないネガは、静かに毒づく。
「水深2000メートル突破です」
タッヤが計器を静かに読みあげる。
「SS潜水艦。まだくらいついてきます」
ヘッドセットからSS潜水艦の潜航音を聞くミーマが告げる。
「メインタンク、さらに注水。3500メートルまで潜る。2900メートルで偽装爆雷放出。SSどもに圧潰したと思わせる偽装圧潰音後にさらに誘爆を偽装する。これにまぎれて本船は急速潜航を開始。この海域から離脱する」
ささやき声で告げるアークの言葉に、席に座っていたコタヌーンが静かに立ち上がる。
コタヌーンは人差し指と親指で拳銃の形を作ると、人差し指を天に向けてこめかみの横に添える合図。アークもまた同様のしぐさでコタヌーンに返す。
コタヌーンは音を立てないようにゆっくりと歩き、艦橋の耐圧扉を手動で開けて出ていった。
「偽装爆雷装填開始。静音での装填のため数分かかります」
サディが小声でささやく。
「反重力装置逆転率さらに上昇。水深2300」
巨大スズメ、タッヤの声が静まり返る艦橋内に小さく響く。
「2400……2500……」
繰り返されるSS潜水艦からの探知音が耳障りに響き続ける。
「2600……2700……」
沈黙の中、重苦しく流れる時間の中に、タッヤの静かな深度読みと探知音が響く。
「偽装爆雷。装填完了」
サディがささやく。
「SS潜水艦。水深2000メートル付近に留まっています」
ミーマがパッシブソナーから状況を読み取る。
「SS潜水艦との距離を確保し、2900と同時に放出」
アークが返す。
「了解」
繰り返し鳴り続ける、SS潜水艦の執拗なアクティブソナー。
「2800……2900」
タッヤの読み上げる深度が目標深度に到達。
「偽装爆雷。放出」
サディが静かに告げる。
重厚な機械音が静まり返った艦橋に響く。
「偽装爆雷の爆発と同時に、急速潜航開始します」
巨大スズメのタッヤが反重力装置のレバーに羽をそえる。
「クソが……」
操縦桿を握るネガは静かに毒づく。
アークはヘッドセットに触る。
「機関長、コタヌーン殿。圧潰偽装音の後に発生させる爆発音に合わせて、メインエンジンを軽く一回ふかす。これよりカウントを開始する。こちらからのGOの合図で軽いのをたのむ」
「あいよ」
ヘッドセットから返ってきた答えはそれだけだった。
アークの機関長への言葉を読み取ったサディが、アークにうなづをかえす。
「偽装爆雷発動まで10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ」
サディがアークのゼロに合わせて、操作盤のボタンを叩く。
身の毛のよだつような、金属がひしゃげ潰れる音が深海の暗闇を震わせ艦橋内にも響く。
「GO」
アークがささやいた瞬間、サディがさらに操作盤のボタンを叩く。
すさまじい爆発音が艦橋直上で響き、同時に強い衝撃がブリッジに走る。偽装爆雷で作り出した爆発音にあわせ、メインエンジンからの推力が船体を動かす。
「急速潜航」
タッヤが羽で反重力装置の逆転率を急上昇させ、イービル・トゥルース号が深海へと急速に沈んでいく。
「クソがぁぁ……」
操縦桿を握りしめたネガは静かに悪態をつきながら、深淵へと向かう艦の姿勢を安定させ、未知の深海へとイービル・トゥルース号を進ませる。




