こういう方面のレアについて
こういう方面のレアについて
いろいろあったが……
宇宙の怪異と言っていい、あのクソグロいブツを手に入れたイービル・トゥルース号は、アイアンボトムサウンド銀河、ポイントナインナインを離れ、今新たな銀河を目指して宇宙を翔けている。
「確かに、めっちゃくちゃレベルの激レアなコだとは思うけど……」
ブ厚い硬化テクタイト製窓の外に浮かんでいる、あのキモいヤツを閉じ込めている急造の歪な箱を横目にサディが言う。
「けど?」
めいいっぱい倒した自席のシートに寝転んでアークが言う。
「売るアテはあるんです?」
レーダー盤に視線を向けつつ、AXEの冷静な質問。
「そうですよぉ。あれが売れないことには、どうにもならないですよぉ」
と、ミーマが状況を冷静に分析。
「コタヌーンさんに聞きましたが、こういう方面のレアには全然詳しくないからなぁ……。って言われちゃいました……」
タッヤがしょんぼりと言う。
「カイトリカカクヒョウヲモッテキヤガレ」
と言ったのはイクト・ジュウゾウ。
「くそがぁ……」
ネガも売るアテはまったく思いつかないと見える。
「あるぜ」
アークのセリフがあまりにも簡単に響く。
「あるの!? アーク!?」
サディが色めき立つ。
「ある。しかも、とっくの昔に連絡までしてある」
「ええっ!?」
アークの驚きの返答に、艦橋全体が驚愕に包まれる。
「なんで言わないのよ?」
サディがほほをぶーとふくらませて言う。
「んー、まあ、アテって言えばアテなんだが……」
ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる、広大な星の海をみつけながらアークが言う。
「あれですか? ヤヴァイ宇宙生物を兵器転用しようとかする。そういう企業につながりが?」
AXEが目を細めてアークをみる。
「ない」
アークが即答。
「あれですか? こういうブツに興味がある。ド変態の知り合いが?」
ミーマが緑の瞳をじとーっとさせてアークをみる。
「あー、そうだな。そう言っていいヤツなのかもしれんな」
アークが即答。
「ええ……。それ、ダイジョブなんですかぁ?」
タッヤが不安そうにアークをみつめる。
「ダイジョブだろう」
アークが適当なことを力強く言う。
「ホショウショヲダシヤガレ」
と言ったのはイクト・ジュウゾウ。
「ダイジョブだ。一応は船長のツテだしな」
アークはそう言うと、席から振り返り、パンダ船長をみつめる。
「ええ? 船長のツテ?!」
艦橋のいつもの面々の声がキレイにハモる。
「くそが!?」
と一拍遅れてネガは毒づく。
「俺もくわしくは知らんのだがな」
アークはそう言うと大きくあくびを一回した。
「いったい誰に連絡したんですか……」
タッヤがあきれ気味にアークに言う。
「そこに連絡した」
アークが指差す先には、パンダ船長の座る艦長席の指揮管制盤の前にはりつけられた、恐ろしく古びて色あせたマグネットシートが一枚あった。
色あせたマグネットシートには、これまた時代遅れどころではないデザインの宇宙戦艦のイラストに、チューブの中を飛ぶ古風な未来デザインの車等が描かれていた。
「砲身消耗、エンジン不調にはオーバーホール。その他よろず整備対応いたします。ボディ板金修正全塗装可。シール類交換請負。生命維持装置関連点検修理更新歓迎。全銀河メーカーいずれも対応いたします。チューニング大歓迎! ワンオフ改造制作たまわります。フルスクラッチ大歓迎! まずはお見積りから! その他、宇宙のお困りごと応相談。さらに宇宙の神秘、高額買い取りいたします! お見積り無料! まずは気軽にお電話を!」
とこれまた色あせて消えかけた文字で書かれている。
「あ、あの……。本当にそこに……。電話したんですか……」
AXEが目を見開いて言う。
「あれ……。レトロデザインの……。ジョークステッカーだと思っていたんですけどぉ」
ミーマが緑の瞳をびっくりまなこにして言う。
「ちゃんとつながったぞ」
アークはそう言ってまた大きなあくびをする。
「つながったんですか……」
タッヤがぶるっと震えて言う。
「どうした? タッヤ?」
アークの問いに
「だって……。どう考えても……。怪しいじゃないですか……」
とタッヤは言った。
「ここで待て。というわけですか」
レーダー盤に表示される、一切の電波が戻ってこないグラジ・ゲートが生み出す暗闇をみつめて、AXEが言った。
「ここで待つ。ということで話がついている」
めいいっぱい倒したシートに寝転んでアークが返す。
「グラジ・ゲートからくる。ってことは、グラジ・ゲートの向こうにいるわけですよね? 当然」
AXEがアークに問う。
「そうだ。そういうことになる」
アークがAXEに答える。
「グラジ・ゲートの向こうにいる相手と、いったいどうやって話をつけたんです? グラジ・ゲートの先にはどんな電波も届かないはずですよね」
あらゆる電波を飲み込み、何一つ電波を発することのない、レーダー盤上に存在する黒い空隙をみつめて、AXEが言う。
「格納庫のガレージから持ってきた、電話とか言ういにしえの通信装置は、見事につながっちまったんだよな……」
めいいっぱい倒したシートのうえで、アークが肩をすくめて言う。
「いったいどんな相手なんです?」
宇宙にぽっかりあいた、神のやっつけ仕事と呼ばれることもある、グラジ・ゲートをみつめてミーマが言う。
「マグネットシートのイメージとは程遠い、ずいぶん優雅な感じで礼儀正しい奴さ」
アークがこんな感じかなと言う。
「具体的なことはまったくわかりませんが……。礼儀正しいというのは……。まあ、いいことではありますね」
タッヤが言う。
「いざとなれば、ブッ放す準備はできてるよ」
サディがリボルバーカノンを模した主砲操作桿をみつめて言う。
「沈めて奪うじゃ、本物の海賊になっちまうし、沈めるには……いろいろとな」
アークが抑えろよという意味の視線をサディに送った時、グラジ・ゲートの中心に、白い点が現れる。
「おいでなすった」
アークがめいいっぱい倒したシートを起こして、ブ厚い硬化テクタイト製窓の外に視線を向ける。
それは最初、小さな白い点だった。
宇宙の時空を飛び越える、グラジ・ゲートの中心に浮かんだ点。すぐにそれは、白く細長い菱形に変わり、急速にその大きさを増して行った。
「ええ……?」
艦橋前面最前列左に座るサディが、自席から立ち上がり声を漏らす。
「クソが……」
最前列右に座るネガからも言葉が漏れる。
グラジ・ゲート上の白く細長い菱形だった点は、いまや鋭利で巨大な刃に変わり、グラジ・ゲートからイービル・トゥルース号にむかってどんどん伸びてくる。その巨大さはもはや常軌を逸していると言っていい。
synthetic streamにたった一隻で対抗しうる、ビックリドッキリ驚愕驚異の宇宙戦艦、海賊放送船イービル・トゥルース号は決して小さな船ではない。そのイービル・トゥルース号を遥かに上回る、いや、余裕で飲み込んでさえしまうほど、薄く長い刃のような白き菱形は巨大だった。
グラジ・ゲートからのびてくる、白く鋭利なあまりにも巨大過ぎる菱形の刃。
「まじかぁぁ……」
サディが目を見開いて、宇宙を切り裂くかのような、壮麗巨大な白き刃をみつめる。
「毎度のことながら壮観だな」
アークはそう言うとシートの上で片眉をあげた。
「この船……。武装がひとつもない……。一切の武装を持たない巨大な白き刃……。ねえ、この船って……、もしかして……」
サディが信じられないという表情で、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に存在する、白く巨大な宇宙船をみつめている。
「そうだ。ウチの船長は、ハサウェイとつながりがあるらしい」
アークがあたりだよと、サディに向けて人差し指と親指で拳銃を作ってみせた。




