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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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戦争よ永久に眠れ

戦争よ永久に眠れ




 アイアンブルーとガンメタルグレイの艦橋に、オーバードライブし歪んだ音色と、魂が躍動やくどうするビートが満ちる。ハードで野蛮なロックンロールの中にメタリックな悲壮さが漂う、どれぐらい昔からやってきたのかわからない音楽が流れていく。

「こいつはいいな」

 音楽がよほど好みにあったのか、かかとでリズムをとりながら、アークがつぶやく。

「ぶっ放したくなる音楽だね」

 そう言ってサディがにやりと笑う。

 数分間、艦橋のいつもの面々は、どれくらい昔から、どれくらい遠い銀河からやってきたのか、一切不明の曲に耳をかたむけた。

「モウヒトファイルハイッテイルゾ」

 曲の終わりに、ジュウゾウが言った。

 次に流れ出したのは、深い水の底に沈んでいくかのような、暗い暗い音楽だった。

「宇宙戦艦どもの最後の地には、ぴったりの音楽だな」

 アークはぶ厚い硬化テクタイト製窓の先に漂う、宇宙戦艦の死骸達をみつめながらそう言った。

「あれをお宝と言うかは疑問ですが……。もうこの宇宙の墓場に用もないのでは?」

 タッヤが曲に耳をかたむけるアークに言う。

「そうだな。こんなとこに長居する理由はない。それに、あのクソグロいブツが永遠に生きているとは限らんしな。とっととおさらばするとしよう。だが……」

「だが?」

 ミーマがアークに問う。

「最後に、この宇宙の墓場に、哀悼あいとうの意を表することくらいはするべきだ」

 アークはそう言うと、人差し指と親指で拳銃の形を作り、ミーマの席にある、放送開始ボタンを指差す。

「ここで海賊放送を?」

 ミーマがアークをみつめて言う。

「真空なる宇宙空間では、言葉と音楽は空気を振動させず、どこかに届くことは永遠にない。だが、俺たちの海賊放送は電磁界を振動させて、音楽と言葉をどこかに届けることができるかもしれない。この宙域を去る前に、俺はこの宇宙の墓場にささやかながら哀悼の意を表したい」

「アークは、野蛮だけど感傷的だよね」

 AXEが言う。

「それでは、哀悼の意をこめて、さようならの海賊放送を!」

 ミーマが拳をふりあげ、操作盤のドクロマークが描かれた赤いボタンを押下する。

 艦橋のモニターが濃厚な青い背景に、ドクロと交差する大腿骨のマークに変わる。

「RADIO EVIL TRUTH NOW ON AIR」

 赤い文字がドクロの上へと踊り、アークの海賊放送が電磁界を震わせて、宇宙の墓場に深海へと沈んでいくかのような暗い音楽を伝えていく。


 いつかどこかの宇宙で、おっ死んじまったあんたに。俺は言いたいことがある。殺し殺され、殺し合った果てに、あんたが力尽きたのなら、それはまだ救いがあるということだ。もしも一方的に、抗うことすらできず、戦うことすらかなわず、ただ殺されたのならば、それはもう戦いではない。それは虐殺だ。殺戮だ。ここに眠るあんたが、殺戮されたのでも虐殺されたのでもなく、殺戮したのではなく、虐殺したのでもなく、互いにぶつかりあい殺し合う戦いの果てに力尽きた、最後まで抗い戦った者であると俺は信じる。

 この宇宙の墓場で永遠に眠るあんたが、会ったこともないド偉い権力の頂点に、だまされて死んだのではなく、己の信じる信念のために死んだのだと俺は信じる。志半ば力尽き果てたのであったとしても、やってきた結末はあんたの決断と選択の結果であったはずだ。

 俺もいつか死ぬ。永遠に生きていることはできない。生きている方がいいけれど、誰もが最後は死んじまう。それは悲しい現実だ。だから、死んだように生きるより、俺は死ぬまで生きていたい。それが俺の選択だ。まだ生きている俺から、先にいっちまったあんたに、今ここに哀悼の意を表す。戦争は終わった。安らかに眠れ。

 そして最後に、殺戮を行い、虐殺を行い、この墓場に集った者たちを死地へと送った頭デッカチのクソ野郎が、この墓場を漂っているのなら、おまえは地獄へと堕ちて、永遠の責め苦に苦しむことを、俺は心から願う。


 アークが言い切った後、深い水の底へと沈んでいくかのように暗い暗い音楽が終わり、静寂が艦橋を満たす。

 普段することのない軍隊式の敬礼をアークが行い、目を閉じて黙祷もくとうする。

 艦橋のいつもの面々、機関室詰めのコタヌーン、オクタヌーンも、自席から立ち上がり、宇宙の墓場に眠る戦争に、軍隊式の敬礼と黙祷を捧げる。

 ジュウゾウがリピートに設定していたのか、再びオーバードライヴする歪んだ音色と、魂が躍動するビートが艦橋の静寂を破る。

「さらばだ。俺たちはまだ墓場に入る時間じゃないんでな。もう行くよ。そして、永久に眠れ、戦争よ」

 アークが敬礼と黙祷を解き、最後のセリフをヘッドセットマイクに言う。


「メインエンジン出力好調」

 機関室からコタヌーン。

「ぱふぉっ」

 艦橋最奥の艦長席から、イカツイ艦長服に身を包んだパンダ船長の号令。

「イービル・トゥルース号! 出航! 船長はそう言った」

 アークがパンダ船長の言葉を翻訳。

「クソが!」

 銀河一逃げ足の早い操縦士、ネガはスロットルペダルを踏み込む。

 オクタヌーンが

「どう考えても収支があわない」

 とぼやく、桁外れの出力を叩き出すエンジンの生み出す青い炎が、麗しの海賊放送船の素敵なケツに明るく灯る。

 お宝が眠るはずの宇宙巡洋戦艦でとっ捕まえた、クソグロい超激レア宇宙の神秘を閉じ込めた急造の歪な箱を牽引し、イービル・トゥルース号が宇宙の墓場を後にしようとした時……

「レーダーが……」

 AXEの不安げな声が、艦橋に漂った。

「どうしたの? 宇宙の墓場は乱反射がひど過ぎて、レーダーおかしくなっちゃった?」

 隣の席に並んで座るミーマが、AXEに話しかける。

「そ、そうなのかな? そうだよね、こんなのあるわけないよね?」

 とAXEが言って、真っ青な顔でレダー盤を指差す。

「んー?」

 ミーマがAXEが指差すレーダー盤を覗き込み……

「ええ?!」

 と言った。

「どうした?」

 アークが後方で起きた騒ぎに、振り返る。

「なになになになに?! 怪現象!? 怪現象なの!?」

 サディまでもが自席から振り返り、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をギラギラさせて、AXEをみつめる。

「映像、出します」

 ミーマが自席から操作して、AXEがみているレーダー盤を艦橋前面の硬化テクタイト製窓に表示する。

「ああ?」

 アークが言った。

「ええ?」

 サディが言った。

「なんですと?」

 タッヤが言った。

「カイブンショガトドキヤガッタ」

 ジュウゾウが言った。

「クソが……」

 ネガは言った。

 常に冷静沈着、身じろぎすることもないパンダ船長は、何も言わなかった。

 艦橋前面、ぶ厚い硬化テクタイト製窓に表示されたのは、いままでただの障害物としてレーダーに映っていた、宇宙の墓場に集結した宇宙戦艦の死骸達を示す光点が、ゆっくりと動き出している映像だったのだ。

「タッヤ! 大至急で対抗障壁領域展開ッ! 何が起きるかわからん!」

 アークが叫ぶ!

「え!? え!? 了解です!」

 あわてながらも操作盤を叩きだすタッヤ。

「幽霊船!? 幽霊船なの!?」

 サディが主砲照準機に顔を突っ込む!

 アークは自席のヘッドセットマイクをひっつかみ、

「機関長、コタヌーン殿ッ! 大至急補助機関に対抗障壁をぶっつないでくれ!」

 と叫ぶ。

「急に忙しくなったなぁ」

 機関室からコタヌーンの返事。

「アーク……。ヤヴァイよ……。ズッタボロの幽霊みたいな艦が一隻、宇宙戦艦の死骸達を押し分けて、こっちに向かってる……」

 サディが超遠距離まで視認できる、主砲照準器に顔を突っ込んだまま言う。

「マジカ、マジデ幽霊船なのかよ」

 サディの言葉にアークが目を丸くする。

「主砲照準。メインモニタに映像出します!」

 ミーマが操作盤を叩き、硬化テクタイト製窓に映る映像がレーダーから切り替わる。

 どう考えてもとっくの昔に死んでいる、大穴までもが開いている宇宙戦艦が一隻、進路に漂うダマになった宇宙戦艦の死骸達に体当たりをぶちかましてどかしつつ、イービル・トゥルース号にむかってくる!

「宇宙スゲエな……」

 とアーク。

「ちょっとぉ。本物なんじゃないですかぁ?」

 とタッヤ。

「カイブンショガジツザイスルゾ!」

 とジュウゾウ。

「クソが……」

 とネガ。

「銀河ヒッチハイクガイドに書いてあったのは本当だったんだ」

 とAXE。

「これが宇宙の恨みなのかしら?」

 とミーマ。

「幽霊船の主砲塔が動きだしてる!」

 照準器に顔を突っ込んだサディが叫ぶ!

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