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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦
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沈没するぞ! 沈没するぞ! 沈没するぞ!

沈没するぞ! 沈没するぞ! 沈没するぞ!




「艦内重力制御問題なし。現在艦橋部水深800メートル」

 巨大なスズメのタッヤが計器類を読んで言う。

「船体破損、海水流入偽装音送出中」

 AXEが操作盤を叩いて言う。

「海底まで推定5000メートル以上。船尾が着底する心配はありません」

 ミーマがヘッドセットからの海中音に耳をすませて言う。

「太陽にきらめく水面はきれいだが、いつまでも船を立たせているわけにはいかないな」

 艦橋前面、硬化テクタイト製の窓にきらめく、水面に踊る光達をみつめながらアークは言う。

「船体、水平潜航に移行します」

 AXEが告げ、硬化テクタイト製窓の景色が動き出す。

「もう少し見ていたかったのに」

 武器管制操作盤に肘をついて、両手にあごをのせて窓の外を眺めていたサディが言った。

「しかしだな。サディ。最後の主砲発射は……その、ちょっとやりすぎだったんじゃ?」

 両手にあごをのせて窓の外を見つめているサディに、アークが視線をうつす。

「この船は二度と戻れぬ海底深くに沈むんだ。だったら、断末魔の叫びぐらいはいいんじゃない?」

 サディは軽くため息をついてそう言った。

「いや、まあ、たしかに劇的な瞬間ではあったけれども……」

 アークはうーんという表情で窓の外に視線をうつす。窓の外からは水面から差し込む太陽光のきらめきは消えて、今は暗い深海の色に沈んでいる。

「主砲弾、けっこうするんですよ。サディさん」

 巨大なスズメのタッヤが、アークが言えなかったことを言う。

「アークはもっと夢がある人だと思っていたけどな〜」

 サディの言葉にアークは虚空を見上げる。

「ぶっ放したい気持ちはわかるが……。サディ。ぶっ放し過ぎると、宇宙の墓場で金目の物を探す日々のはじまりだ」

「はーい」

 サディの返事に、アークは腕のいい戦闘要員なんだが、ちょっと暴走し過ぎるきらいがあるよな。と思う。

 System Self-Defense Force SSF支援要撃隊が命中したと思っているミサイルはすべて、サディが対空パルスレーザー砲で破壊していた。

 艦の直近で撃墜され爆発するミサイルを、ツゲル達はすべて命中したと思いこんでいるだろう。だが、この船はまったくの無傷だ。潜航していくイービル・トゥルース号の周りで警戒するSS潜水艦には、船から送出される偽装の船体破壊音が聞こえるため、光のない深海をあわれに大破した船が海底へと沈んでいくように認識されている。

「艦に比較して小型な航空機には、大出力を必要とする極大威力のビーム兵器を搭載できない。か」

 アークは艦橋最前列の席で、窓の外に広がる海中を見つめながら言う。

 かつて太古の昔、海を支配するのは戦艦だった。やがてそれが航空機に変わり、戦艦は時代遅れになり、航空機と航空母艦が海を支配する時代が訪れた。その流れは宇宙にまで続くことになる。宇宙空母と艦載機による宇宙戦争。しかし、宇宙戦争の大転換期と言われるドレッドノート戦役によって、大艦多機主義と揶揄される航空母艦の優位性は一気に崩壊した。圧倒的長射程、実体弾とは比較にならぬ弾速を誇る極大威力のビーム兵器の前では、広大な宇宙空間に浮かぶ航空母艦とその艦載機はなすすべがなかった。

「重力と大気の中、無防備に接近させてくれる条件下では、いまだ通用するのであろう。懐かしい闘いかただったな」

 イービル・トゥルース号にまとわりついてきたSSF支援要撃隊のことをアークは思う。

「時代遅れなのはあなたもそうでしょ? アーク」

 サディが笑いながら言う。

「そうだな。今どき宇宙船なのに艦橋付きの船に乗る、無免許もぐりの航海士なんていうのは、ずいぶんと時代遅れどころか、銀河系を三周回って新しいって感じだよな」

「船体水平。現在深度1000メートル。重力トリム安定。重力バラスト使用率25%」

 巨大スズメのタッヤが計器類を読み上げる。

「メインタンク、さらに注水。深度2000メートルより先まで沈む。シンセティック・ストリームの連中に、完全に沈没したと思わせないといけないからな」

 アークがタッヤに答える。

「アーク。メインタンクなんてないんですけどね。反重力装置逆転率上昇。重力バラスト使用率30%」

 計器類を読みながら巨大スズメのタッヤが返す。

「気分だよ。気分。潜水艦と深海にはロマンがある。気分や心構えってのは大事だぜ?」

 そんなことを話していると、艦橋の厚い耐圧扉が音をたてて開かれる。

「いや〜。みごとに沈みましたなぁ〜」

 そう言いながら入ってきたのは、スラックスと背広姿に革靴を履いた男性。

「深海に沈んだとなれば、シンセティック・ストリームもめんどくさくて探りに来ないだろうからな。お疲れ様だ。コタヌーン。奥様とメインエンジンのご機嫌は?」

 コタヌーンは艦橋のあいてる席にどかりと腰を下ろすと、革靴を履いた両足を組んでくつろぐ。

「メインエンジンのご機嫌は最高。奥様はまあまあ。いつもの調子ですよ。で、アーク。出発はいつにします?」

「そうだな。明日の夜半……。にするか。とりあえず、明日の夜半までは動かない。オクタヌーンにも伝えておいてくれ」

「あいよ。それにしても、楽しみですな。この星にはいったいどんな酒があるのか」

 そう言ってコタヌーンはにこにこと笑う。

「モッキンバード星系は、ジャポン酒というものがあるらしいぞ」

 アークが答えると同時に、不思議な反響音が連続で艦橋に響く。

「SS潜水艦の接近を確認。SS潜水艦からのアクティブソナーです」

 ミーマがヘッドセットの音に耳をすませながら静かに言う。

「撃沈確認でここまで追うか。ご苦労なこった」

 アークは急に静かになって、艦長席に座る艦長服に身を包んだパンダ船長を見つめる。

「船長、ご指示は?」

 静かに尋ねるアークに、

「ぱふぉ……」

 そう船長は小声で返した。

「アーク。船長はなんて?」

 つまらなそうに暗い深海を見つめるサディがつぶやく。

「深く静かに潜航せよ。船長はそう言った」

 アイアンブルーとガンメタリックグレイを基調とした艦橋は以後沈黙に包まれ、船は静かに深海へと潜っていく。


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