イクト・ジュウゾウからの入電
イクト・ジュウゾウからの入電
「コチラ、オタカラミツケタイ。カタクソウサクノホシ、クソフルイセイキュウショノタバヲミツケタゾ」
相変わらずロボットらしくないセリフを、いかにもロボットらしく発言するイクト・ジュウゾウから通信が届いたのは、それからさらに数日が経過してからだった。
「おおおお。みつけたか! 本船からの距離と方位を!」
アークがいろめきたって、寝っ転がっていたシートから体を起こして言う。
「ホウイ、テメエノケツノ、ハンタイガワノナナメウエ。キョリ、サンガツナノカワルコトノハチ」
「おおお。それはつまり、方位313。約46宇宙キロの先ということか。了解承知よ。イクト・ジュウゾウ、お宝見つけ隊特務隊長殿はその場で部下達とお宝艦を探しつつ、本船の到着を待たれたし」
「トットト、カガクゴウセイオイルヲショッテ、モエアガルオレニソソギニコイ」
アーク的に翻訳すると
「承知した。船長代理代行の無免許もぐりのクソ野郎殿。うまい料理を持って、ケツから火を吹いて迎えに来やがれ!」
ということなのだろう。
アークは一人うんうんとうなづくと、ヘッドセットマイクのスイッチを船内放送に切り替える。
「お宝見つけ隊、特務隊長、イクト・ジュウゾウ殿からただいま入電。お宝が眠っていそうな宙域を発見した。繰り返す、お宝が眠っていそうな宙域を発見した。総員取らぬ狸の皮算用に時間を浪費することなく、大至急艦橋へ集合せよ!」
「おはにゃ〜」
サディが真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳のおめめを眠気にどんよりさせながら、艦橋にやってくる。
「おはよ」
「おはようございます」
「おは」
「クソが」
「オハヨウゴザイマス」
普段艦橋詰めのイクト・ジュウゾウのかわりに、今現在の船体管制にあたるイクト・フタロク他、いつもの面々の挨拶がかわされる。
「むー。これはまたアークは……。寝てるね?」
イクト・フタロクといつもの面々からの挨拶を耳にしたサディが、口をとんがらせる。
「ご明察」
「そのとおり」
「よくおわかりで」
「クソが」
「イツナントキドンナトキモネレル」
「ビジネスってのはスピードが大事ですからなぁ」
コタヌーン機関長はアークからの通信に答え、開店休業状態だったメインエンジンをぶん回しに入る。
「こんな大出力の低燃費エンジンなんてありえないのよ」
とその横でオクタヌーンが首をかしげる。
「んー、まあ、いまは燃料を買うおゼニーが一番大事だからなぁ」
とコタヌーンがいつもの調子でかえす。
「クソがクソがクソがクソがクソが」
お宝見つけ隊がいまも鋭意捜索にあたる宙域に向かって、悪態の限りをつきながら、ネガは操縦桿を倒している。
「ネガよ。常に後ろ向きでバックレるのが大好きで、前向きとかポジティブとか前進が大嫌いというのは、よーくよーく承知している。だがな、俺たちは今、前向きに前進しているわけじゃない。この船を破産させようとしている、synthetic streamが新しい資本主義とか呼ぶ異次元級のガチな化け物から、うるわしの本船の素敵なケツの穴から火を吹いて、全身全霊全力全開で逃げ出しているってわけよ」
「クソが」
「だからよ。とっとと新しい資本主義という異次元の怪物から、全身全霊全力全開で逃げきってくれよ」
「クソが」
ネガはしぶしぶ、大変不本意ながら、新しい資本主義とか言う、財布の破綻という恐怖の大王から全力逃走するために、お宝に向かっていま前向きに前進する。
バッタバッタの死屍累々(ししるいるい)。はるか彼方の昔、繰り返される宇宙戦争で小破、中破、大破、全損、爆発、爆裂、爆散、散華した宇宙戦艦達の亡骸の海をかきわけて、synthetic streamに反抗するパンダ船長率いる、いつだって逆らい隊、海賊放送船イービル・トゥルース号が宇宙を翔ける。
艦橋では、とにかくあらゆることから全力で逃走したい、銀河一逃げ足の早い操縦士が、前向きに前進して目的地に進むことに、とにかくやたらと積極的に文句を言い、それを財務的破綻から全力で逃げているわけだから、本気出してガチのマジでお宝のもとに急行せよとなんとか言いくるめ。イービル・トゥルース号はお宝見つけ隊・特務隊長イクト・ジュウゾウがみつけだした、第19次宇宙大戦頃の艦の死骸がゴロゴロ漂う宙域へとやってきていた。
「さあて、チョロいと思っていたが、実はクソ大変だった山場は超えた。ということは……。ここからはもっとチョロい。つまりは、チョロいチョロい。というわけで、気合い入れてワクワクドキドキお宝を探そうぜ!」
「クソが」
とにかくやたらと前向きなアークの発言に、さっきからずっとずっと目的地に前向きに前進していることが、まったくもって気に入らないネガはガスマスクの中で毒づく。
アークはそんな声はまったくもってお耳にはいりませんのことよ。とそれを無視して、左の手のひらにぱしんと右の拳を打ち付けてワクワクしている。
「一時はどうなることかと思いましたけど、ホントに山場をこえたんでしょうか?」
AXEが冷静にかつ、あまりに多いスクラップだらけのレーダーをみつめて、ダメだこりゃという表情で言う。
「もうここまできたら、死んでもお宝をみつけないと、財務的にスクラップになって、ここのお仲間になっちゃいます」
おだやかな愛くるしい巨大スズメのタッヤも、いくら主砲をぶっ放しても打開できないどころか、財務的にもっと詰むこの状況に、さすがに本気の鋭さをみせて言う。
「ブラック・レーベル作品(通称BL)がめっちゃはかどる〜」
お宝見つけ隊の捜索時間を、とにかくやたらと有意義に楽しみ尽くしたミーマの声。
そんな艦橋に、珍しく、あのブッ放すのが大好きな、元気ありあまるサディの気弱な声が響く。
「……やっぱり。あたしも捜索に出ないとダメですか?」
珍しくしゅんとした顔のサディが、どーんよりと瞳をにごらせて言う。
「そんなに……。幽霊が怖いか?」
アークが、意外極まるな。という表情でサディをみつめる。
「怖いです……。苦手です……。でも見てみたい気持ちもあるんです。だけどやっぱり、もーーんのすごく怖くて嫌です……」
今までみたことのないほど、しゅんとしたサディの言葉に、アークが、ふーむと考える。
「何がそんなに怖い?」
アークの問い。
「45口径48銀河標準センチメートル砲を100万発ブッ放しても、幽霊だから殺せないじゃないですか……」
サディがぶるっと体を震わせて言う。
「やめてください。幽霊を殺す殺せない以前に、私達が経済的に殺されてしまいます」
タッヤが100万発の主砲弾のお値段を想像して、ぶるっと体を震わせて言った。
「幽霊に物理攻撃が通用しない。というのがそんなに怖いか?」
アークがふーむ、と考えながら言う。
「……メッチャクチャ、死んじゃうほど怖いです……」
サディが真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳をうるうるさせて答える。
「よし、サディ。俺と一緒に格納庫へこい」
表情をキリリっと引き締め、アークはサディにそう言った。




