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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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ポイント・ナインナインへむかう

ポイント・ナインナインへむかう



「ポイント・ナインナイン……。けっこう遠いですね……」

 一攫千金いっかくせんきんを目指してアイアンボトムサウンド銀河をひたすら進む、イービル・トゥルース号の艦橋にタッヤの声が響く。

「なにせ見捨てられた宇宙の墓場だからな、そんなに手近なところにはねえよなぁ」

 今も武器管制盤に突っ伏して眠るサディの横で、アークが硬化テクタイト製窓の先に広がる宇宙をみつめて言う。

「船長のご英断でやってきちゃったけど、墓場にお宝なんてあるものかな?」

 ミーマの疑問。

「少なくとも、宇宙のスクラップ置き場とも言えるところなので、それなりの収穫しゅうかくはあるのではと思いますけど……」

 AXEが斧モチーフの髪飾かみかざりをいじって言う。

「けど?」

 ミーマがAXEの言葉のにごしかたに反応する。

「普通に考えたら、一攫千金いっかくせんきんが狙えるようなスクラップ置き場があるのなら、とっくの昔に金目のものは持ちさられて……。スカスカのただのスクラップ置き場になっているはずですよね」

 AXEがレーダーをみつめながら冷静に言う。

「た、たしかに……」

 ミーマがAXEの冷静な推理に同意。

「ダイジョブだ」

 アークの力強い声が割って入る。

「なぜ?」

 ミーマがゴツいバケットシートの上で、足をぶらぶらさせてアークに聞く。

「俺が銀河のクソ怪しい古本屋で、最近買いなおした俺にとっての最新版の銀河ヒッチハイクガイドによれば、アイアンボトムサウンド銀河ポイント・ナインナインに金目の物をパクリにやってきた奴らは、墓場に潜むなんらかの宇宙の怪異になにかされて、光の速度でも脱出できないブラックホールにのまれたかのごとく、二度と墓場から戻ってこないと書いてある。それはつまりだ。まだ誰も墓場に眠るお宝には到達できていないってことよ」

 アークの言葉に、ミーマが足をぶらぶらさせるのをやめて、体をこわばらせて言う。

「データベースの銀河ヒッチハイクガイドと、かなり内容が違うんですが……」

「そらそうよ。ついこの間、モッキンバードのクソ怪しい古本屋で買ったばかりだからな。データベースにまだいれてないくらい最新版よ」

「あの……。俺にとっての最新版って……。古本屋で買ったんですよね?」

 AXEが目を点にして言う。

「おうよ」

 アークがそれがどうした? という顔でAXEの目をみつめる。

「古本屋で最新版を買ったんですよね?」

「ああ、俺にとっての最新版をな」

 AXEが、ああ……、これはダメだ……、という表情で空をみつめる。

 タッヤが言葉はおだやかに、そんな適当な情報でダイジョブなんですか? という意味の発言をし、アークが適当に答え、もめている間に目を回してお昼寝していたサディが起きて、ネガはクソと言い、議論が未知の明後日の方向へ飛び、いつの間にかトゲトゲしい言葉が飛び交い、ついにはマシンガンが持ち出され、艦橋中が修羅のカオスに包まれても……

 全ての発案者であるパンダ船長は、艦橋最奥の艦長席にどーんと座って微動びどうだにせず。

 なにひとつたしなめることもしなかった。


 宇宙の墓場へ向かいながら、海賊放送船イービル・トゥルース号の艦橋は大騒ぎ。

 ワイワイがやがやの楽しい遠足も、やがて現実が突きつけられてくる。

 艦橋前面のぶ厚い硬化テクタイト製窓に、完全にフリーズドライ化した宇宙を永遠にさまよう死体がぶつかるようになると、全乗組員の表情は引き締まり、これは本物の墓場なのだという緊張感に背筋をのばしていた。

「おうおうおうおう。コイツはガチの墓場じゃねえか」

 アークが硬化テクタイト製窓にひっかかったフリーズドライの死体をみつめて言う。

「見たことのない軍服だね」

 サディが真剣な瞳で、フリーズドライの死体を確認する。

「俺もだ。おそらく、そうとう昔の死体なんだろうな。synthetic streamがまだ存在していなかった頃、そんな大昔の戦争からやってきたヤツかもしれねえ」

「それか、synthetic streamがいない、最果ての宇宙であった戦争から流れてきたのかも」

「そうだな。……会ったこともねえド偉いミスター権力の頂点にそそのかされて、自分の本意とかそういうものとはまったく関係ない理由で、コイツが死んだんじゃないことを願おう。いい夢をみるんだな。この宇宙の暗黒物質にかえるまで」

 アークはそう言うと、艦橋前面の硬化テクタイト製窓の前に立つと、目を閉じて黙祷もくとうささげる。

「バイバイ。あいにくウチの乗組員は間に合っているんだ」

 サディがそう言って、深紅と漆黒の和服の袖をひらめかせ、ぶ厚い硬化テクタイト製窓に掌底しょうていを叩き込む。

 ドンッ。という鈍い音とともに、硬化テクタイト製窓に引っかかっていたフリーズドライの死体が、サディの掌底しょうていから伝わる衝撃しょうげきに窓から離れ、宇宙の果てに向かって再び飛んでいく。

「おい……。サディ。なにげにそれ、すごくないか?」

 アークがサディをみつめて言う。

「そう? アークに習った通りに打っただけだよ?」

 キョトンとした顔で、サディが返す。

「そうか。じゃあ俺も……」

 アークが掌底を硬化テクタイト製窓に叩き込もうとした時。

「やめてください。窓が抜けたら、全員即刻永久フリーズドライの刑なんですからね」

 とAXEが冷たく言った。



 宇宙の果てへと流れて行った、フリーズドライのさまよう死体さん以後、宙域にはありとあらゆるガラクタとスクラップと大破した宇宙船が増えていった。

「これはガチもんのスクラップ置き場……。宇宙の墓場ですね……」

 ミーマがゴクリと唾を飲んで言う。

「ありとあらゆるガラクタとスクラップと障害物だらけで、レーダーで敵を捕捉することはもはや困難です。レーダーに感があっても、それは幽霊かもしれません。つまりここから先は、SS艦が潜んでいても、レーダーでは感知できない可能性が高いです」

 AXEがこれはもうお手上げ、といった感で仕事を半ば放棄する。

「で、何かお宝のあてはあるんですか?」

 ミーマがアークに問う。

「おうおうおうおう。ここにきてようやく聞くとは、お主もなかなかやりおるな」

 アークがまた意味不明なことを返し、ゴツい席から立ち上がり艦橋の前に立って話はじめる。

「以前、パンダ船長におすすめされた戦記があってな。その戦記を読んでいたらだ。ポロッと莫大ばくだいな軍資金をのせた巡洋戦艦の話があってな。ゼニー勘定かんじょうにうとくて、バクチは命しか賭けない俺としてはだ、莫大ばくだいな財宝を積んだ巡洋戦艦って言うと、これはもう一気にいろめきたってだな、自分なりにイロイロ調べたってわけよ。そうしたら、だいたいあの艦なんじゃねえかってとこまできてな。そんでもって、だいたいあの艦なんじゃねえかって目をつけた巡洋戦艦は、ものの見事に沈んでいるわけよ。その残骸ざんがいはいまも発見されていない。となると……」

「この墓場のどこかに、その巡洋戦艦が莫大ばくだいな財宝を積んだまま眠っていると?」

 タッヤがガクガクブルブルしながら言う。

「その通り!」

 アークが自信まんまんで言う。

「……いったいどれだけの艦がこの宙域にあると思っているんです?」

 タッヤが恐ろしく冷たい現実をアークに告げる。

「ダイジョブだ。元の情報は戦記だからな。戦争の時期はわかっている。こういう宙域は、同じ時期、同じような宙域で散った残骸ざんがいがだいたいダマになっているもんだ。だから、そのダマをみつければチョロい」

「全然チョロそうじゃないんですが……」

 いまやタッヤの表情は完全に凍りついていた。

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