海賊放送船イービル・トゥルース号の危機
第一部完結より、長きの沈黙を破っての連載再開です!
海賊放送船イービル・トゥルース号の危機
深遠なる大宇宙。無数の銀河が存在し、様々な星がまたたく大海原を、一隻の懐かしい未来感を漂わせるレトロなデザインの宇宙戦艦が翔ける。
理解不能の出力を叩き出すエニグマ・エンジンの炎を船尾に灯し、いまどき宇宙空間ではありえないデザインの艦橋が甲板上にそびえ立ち、その背後にのびるメインアンテナにたなびくのは、濃密なブルーを背にしたドクロと交差した大腿骨の海賊旗。船首には禍々しいドクロの紋章が、真っ黒いふたつの穴で銀河をうつろにみつめている。甲板上と船底腹側に45口径48銀河標準センチメートル三連装砲をあわせて四基十二門を搭載し、銀河を統一せんと目論む巨大勢力、Space Synthesis Systemに対抗しうる、びっくりどっきり驚愕驚異の宇宙戦艦。
まだ誰のものでもない宇宙を好き勝手に航行する、このイカれきった完全武装バチバチの宇宙戦艦を、乗組員達は海賊放送船イービル・トゥルース号と呼ぶ。
「もう〜。勘弁してくださいよぉ〜」
アイアンブルーとガンメタルグレイに包まれたイカツイ艦橋に、もううんざりだという空気を漂わせる言葉が響く。
タッヤはぷんぷんに怒りながらも、やっぱり今日も言葉は穏やかに言いはした。しかし、その声はアイアンブルーとガンメタルグレイの艦橋に、しっかりと非難の響きをもって漂っている。
「いや〜。俺もまさか、あんなにブッ放すことになるとは……」
ぶ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる、遠い遠い銀河達をみつめながら、濃紺のミリタリージャケット姿の男、アークが言う。
「むー」
その横でふくれっ面で腕を組むのは、深紅と漆黒を組み合わせたバラ柄の和服に身を包んだ、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳の女の子、サディ。
「だってしょうがないじゃない。あんなにむこうが強気できたら、こっちだってドッカンドッカンやらなくちゃ……」
つい先日、イービル・トゥルース号の財布が空っぽになるくらい主砲をブッ放しまくったサディが、ふくれっつらにさらに口をとんがらせて言う。
「うーむ……。そうだなぁ。あれだけ強気でこられたら、こっちとしてもガチのコワモテで行くしかなぁ」
アークは遠い遠い銀河達をみつめながら言う。
「あれはマジキチ攻撃能力の行使と言っていいくらいでしたからね」
AXEがレーダーに視線を落とし、アップにまとめた髪を固定する斧をモチーフにした髪飾りをさわりながら静かに言う。
「クソがぁぁ……」
船の操縦桿を握るガスマスクとレザースーツ姿のネガは、歯ぎしりするように悪態をつく。
「状況的に仕方なかったとは思いますけど、次はああならないようにしないと。このままではこの船は間違いなく破産です」
タッヤがぷんぷんに怒ったまま、計器の数字と帳簿をみつめて冷静に言う。そんなタッヤは人ほどの大きさもある、巨大なスズメで、ぷんぷんに怒りながら帳簿をみつめているのだが、巨大なスズメなのでどうしてもその姿は愛くるしい。
「これからはもっと盛大に、シンセティック・ストリームが勝手に作ご禁制にしちゃった品をさばいて、しっかりがっつり稼がないと〜」
ミーマが氷砂糖のような半透明な体を揺らし、緑の髪をリズミカルに振って口笛を吹きながら陽気に言う。
「そうだな……。とりあえず、いまは星に降りるにしても、おとなしーく、本船が海賊放送稼業のお尋ね者だってことを、ばれないよーにそーっと降りて、なんとかして財布をうるおすのが先決だな……」
アークが遠い遠い銀河達に視線をさまよわせて言う。
「いかにシンセティック・ストリームがご禁制にしたブラック・レーベル作品(通称BL作品)が売れると言っても、この船のお財布事情は大ピンチに変わりはないですよぉ〜」
巨大スズメのタッヤが愛くるしい姿で、おそろしく現実的なことを言う。
「はぁ……」
陽気に体を揺らし口笛を吹いていたミーマがため息をついて、焦げ茶に黒を合わせたレザースーツに包まれた肩を落とす。
「銀河をうるわしき男の愛で満たし、乙女をうるおすブラック・レーベル(通称BL作品)で、好き勝手に銀河を旅するという夢が……」
ションボリしてしまったミーマに、アークがむむむむと言う顔をする。
「こうなったら、海賊放送船から放送をブッコ抜いて、シンセティック・ストリームの宇宙戦艦を襲って、金目の物をぶんどればいいんじゃない?」
ふくれっつらのまま、サディが恐ろしく物騒なことを言った。
「おいおいおいおい。俺たちは海・賊・放・送・船に乗っているんであって、海・賊・船に乗っているわけじゃないんだぞ」
アークはどうしても主砲をブッ放す方向に話をもっていきがちなサディを、横目にみつめる。
「じゃあ、どうやってこの船のお財布をなんとかするっていうのよぉ」
サディがふくれっつらに眉をひそめてアークに返す。
「そうだなぁ……。コタヌーンに博打でどっかーんと当ててもらうとか?」
「博打はダメです。ありえません。破産する可能性しか感じません」
アークの壊滅的アイディアに、間髪いれずタッヤのダメだし。
「普段はコタヌーンの博打で倍々に増やしているが?」
アークがタッヤに反論する。
「では、コタヌーンさんに聞いてみてくださいよ」
さすがの愛くるしい巨大スズメであるタッヤも、だんだん言葉にトゲが出てくる。
「ふむ。そうだな。聞いてみるのはタダだからな」
アークがそう言って、ヘッドセットマイクのスイッチを操作する。
「機関長コタヌーン殿。うるわしの本船のエンジンのご機嫌はいかが? そして奥様のご機嫌やいかが?」
「今日もエンジンのご機嫌は上々で、ガンガンに燃料をたいらげてますわぁ。オクタヌーンは相変わらず、この上々機嫌のエンジンに頭をひねっているところですわぁ」
コタヌーンのどんな緊急事態でも、人の緊張を取り去る声が艦橋に響く。
「その気分上々のエンジンの件なんだが……。うるわしの本船に食わせる食料を調達するゼニーに問題があってな」
「あー。つまり、私に稼げと? そういう話で?」
「機関長コタヌーン殿。話が早くて大変助かる。つまりはそういうことなんだが、博打でドカンといけるものか?」
「あー、それはですね。できると言えばできますし、できないと言えばできないですわぁ」
「ほうほうほうほう。できると言えばできると言うのは心強いが、できないと言えばできないというのは?」
「タネゼニですわぁ。タ・ネ・ゼ・ニ。つまりは軍資金。確かに毎度、降りる星降りる星でドッカンドッカン、バンバンバンとゼニーを増やしているように思えるんでしょうが、ありゃ潤沢なタネゼニがあるからできることなんですわぁ」
「つまり、できないと言えばできない。というのは、本船のいまの宇宙の果ての墓場みたいにさびしいフトコロ事情では、どだい無理な話じゃボケと?」
「そういうことですわぁ」
アイアンブルーとガンメタルグレイに包まれたイカツイ艦橋に、宇宙の果ての墓場みたいなさびしさが吹き荒れる。
「そうか……。よくわかった機関長コタヌーン殿」
アークはそう言ってヘッドセットマイクのスイッチをオフにする。
「こういう時は……」
「こういう時は?」
サディが口をむーっと突き出して聞く。
「船長のご英断をいただくしかあるまいな」
腕を組んでブ厚い硬化テクタイト製窓の先をみつめて、アークは言った。




