おかえりドデカイミスター宇宙戦艦〜忖度の平和達〜
おかえりドデカイミスター宇宙戦艦〜忖度の平和達〜
モッキンバードタウンの上空に、System Schutzstaffel主力森羅万象宇宙戦艦アベンシゾー級弐番艦、ガース・ヒーデの威容が浮かぶ。モッキンバード星で無法の限りを尽くした、所属不明の宇宙戦艦弐番艦を宇宙空間で追跡の果てに撃沈した、圧倒的積極的平和力行使平和統一凱旋記念式典と、モッキンバードタウンを所属不明の宇宙戦艦弐番艦から守るために特攻殉死した英雄、ヘル・ツゲル課長中佐 (二階級特進) の国葬儀が同時進行で行われている。
「ツゲルはなぜ死んだのかッ!? 暴威だからだ! 敵対する者が持つ武力によって生み出される暴威によって、ツゲルは死んだ! 我々は敵の持つ武力が生み出す、暴威を抑止しなければならぬッ! ツゲルを殺したこの悲劇を繰り返さぬためにッ! 我々は圧倒的な平和力を備え持って! 積極的に平和力を行使して、敵が備える武力が生み出す暴威を徹底的に平定せねばならぬッ! 見上げよ! この首都上空に浮かび守護する我が軍! System SchutzstaffelSSS主力森羅万象宇宙戦艦の勇姿をッ! 圧倒的ではないか! 我がSpace Synthesis Systemの平和力は! あえて言おうッ! 統一であるとッ!」
一般的な家庭が一年以上暮らせるであろう、高価極まる壺に収められたツゲルの遺灰 (とされるもの) を掲げる、Space synthesis system中枢閣、98代森羅万象絶対無謬総裁総理総合枢軸統一元帥総統陛下、アベンシゾーの姿と演説が、モッキンバードタウン中のモニターに映し出され、その力強い骨太に壮大な演説が鳴り響く。
あの日、空から降ってきた一隻の宇宙戦艦によって、ふたりの関係を一気に進めた彼氏と彼女は、最近みつけたお気に入りのラブホテルのベッドの中で、ベッドにかかるピンク色の薄布の天蓋をふたりでみつめていた。
モッキンバードタウンは、圧倒的積極的平和力行使平和統一凱旋記念式典とヘル・ツゲルの国葬儀で大騒ぎ、テレビをつければどのチャンネルも所属不明の宇宙戦艦が海に沈む映像と、所属不明の宇宙戦艦弐番艦が爆発する映像を流し続けているし、もうラジオからは嘘みたいな本当だって言い張る、あの意味不明なまでにイカれた放送は流れてこない。
そんな日常から抜け出して、彼氏と彼女はふたりだけの世界。つまりはベッドにいる。
「あの日から、いろんなことがあったね」
彼氏の言葉に彼女はうなづく。
「首都上空への正体不明の宇宙戦艦の襲来。そして、私達を一瞬で消し飛ばすように思えた、主砲発射」
「でも、あの宇宙戦艦が放った桜吹雪と、花火の中の君は、とってもきれいだった」
彼氏はそう言って彼女をみつめる。
「私はいまでも、あの日、時計台をみあげていたあなたが最高だと思っているけれど」
そう言って彼女は笑う。
「あの人達は海賊放送の中で、自分達のことをガチでマジモンの戦争屋って言っていたよね」
「そうね、あんなことをする人達が、本当に実在するだなんて、嘘みたいだって私は思う」
「もしもあの宇宙戦艦が撃ったのが、本物の主砲だったら? って今でも思う」
「あの宇宙戦艦が宇宙にむかって飛んでいた時、首都上空を走った艦砲射撃の閃光を、私はいまでも怖いと思う」
「首都を防衛するための積極的平和力の行使って、Space Synthesis Systemは言っていたけれど……」
「首都に向かって放たれたあの宇宙戦艦の花火は、確かに暴力だったのかなと私は思う。でもね、あの夜、一歩間違えればモッキンバードタウンと私とあなたを一瞬で消し去ったかもしれない。都市の上空を閃光で満たし続けたあの積極的平和力の行使は、私には混じりっけなしの本物の暴力に思えたの。ねえ君は、私のこの感情をどう思う?」




