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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第六部

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君は無慈悲な俺の幸運

君は無慈悲な俺の幸運




 降伏してお手あげですをしている大群衆を、超重機動兵器自民愚ちょうじゅうきどうへいきじみんぐが蹴散らし踏み潰して迫ってくる。

 それでもなお、通常の二倍以上に常軌を逸した男を搭載とうさいした青い鬼は、最前線に立ちはだかったままだった。

 AXEはすさまじい速度で暫定陣地ざんていじんちを片付け、撤退作業てったいさぎょうを完了させる。

「イカれきることができない私達に、もうできることはないんです。船に帰りましょう。サディさん」

 絶対の冷静をほこるAXEの声が、即時撤退そくじてったいをサディにそくす。

「アーク……、海賊放送なら、イービル・トゥルース号からだってできるだろうがよぉぉ……。あたしと一緒に、ふたりの船まで帰ろうよぉぉ……」

 キャンディ・アップルレッドが、悪霊退散あくりょうたいさんきざまれたメタルハンドでブルーナイトメアの肩をつかみ、青い機体に直接振動を伝えて帰還きかんを誘う。


 これから俺が殺ろうとしている海賊放送は、最前線に立って殺るからこそ意味をなすのさ。

 戦争を終わらせるには、最前線に立ちマジモンの地獄をみた者が、本当の戦争の話をすることが最善さいぜんだ。

 君だってわかるだろう? サディ。

 安全な場所でぬくぬくしている、後方支援こうほうしえんのクソ野郎からキレイごと言われたら、君はどう思う?

 最前線に一度も出たことがない体にたっぷりとシャワーを浴びた後、のりがパリッときいた真っ白いシャツと、シワひとつないスーツを身につけて、ごたいそうに戦争を語る。そんなド偉いミスターホワイトカラー様の言うことを、リアルな戦場を知る君は聞く気になるか?

 リアルな戦場の最前線に立つ君なら、俺が言っている意味がわかるはずだ。

 サディ、俺の姿をみろ。

 返り血どころか、ぶちまけた臓器までもが、機体にこびりついて取れやしねえ……

 この血みどろの姿をみせてこそ、俺が言うことに説得力が生まれる。

 マジモンの戦場で、マジモンの残虐行為をした俺が言うから、骨身まで伝わるのさ。

 サディ、君ならわかるはずだ。

 特に何もしなくても、絶対安全安心な明日が普通にやってくる。そういう世界で生きている、後方支援のクソ野郎が何言っても、前線で戦争やってる奴にだって、クソ遠い安全地帯にいるド偉いミスター指揮官様にも、絶対に届かねえってことがさ。


 アーク……


 サディ、血まみれの俺を見ろ。

 積層複合装甲に張り付いているこの臓器だって、誰のものかすらもわからないんだぜ?

 確かにボンクラ坊やで、何も考えていなかったかもしれないけれど……

 話せるし文字も読める知的生命体が、こんなになっちまうんだぜ。

 どうだ? すさまじく残虐だろう?

 リアルな戦争の話をするには、こういう光景をみせるのが大事なんだ。


 ブルーナイトメアの肩をつかんだメタルハンドから直接伝わるアークの声に、前線に立つマジモンの戦争屋であるサディは、うなづくことしかできなかった。

 ハードでヘヴィなメタル装甲に覆われた、アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋の中から、リアルな戦争の話をしたとしても、それはただの放送でしかない。

 死の回廊の最前線で皆殺しの残虐王として君臨くんりんした男の、ドログチャ血まみれの姿があってこそ、これからアークがやる海賊放送に、はじめて骨身まで届く意味がうまれるのだ。そういうことを、アークは言っているのだと、サディは心の底から理解した。

「イチバチ。九式海賊放送弾の装填そうてんが終わったら、最速でバンバン撃ってガンガンにブチ込めよ」

 たった一機で前線に残る残虐王の言葉は、いつものアークの言葉だった。

 ナニを言われようが、どんな窮地きゅうちであろうが、自分が殺れることがまだあるのなら、俺は殺る。通常の二倍以上に常軌を逸した男の言葉は、簡潔かんけつにそう言っていた。

「九式海賊放送弾でどれだけブッ殺せるのか、殺戮機械さつりくマシンである俺にみせてみろ」

 イチバチからの返答は、冷たいキラーマシンらしいハードでヘヴィなセリフだった。

「サディ。これだけは言っておくぞ。明後日にふたりでパフェを食う約束を、俺はナシにするつもりはないぜ」 

 通常の二倍以上に常軌を逸した男は、ふたりのデートの約束をすっぽかすつもりはこれっぼっちもないと、明確に愛をサディに告白していた。

 アークは普段ふだん、こういうことを絶対に言わない。

 アークの言葉は、残虐王ですら死の予感を感じるほどの危機的状況に、この戦争はあるのだということを意味していた。

「アークぅぅぅ……」 

 サディの声は、すでに涙混なみだまじりだった。

 自分の名を涙声で呼ぶ女の声に、通常の二倍以上に常軌を逸している男は、どれだけ酔っている時でもしないことをする。

 青い機体が振り返り、残された右腕で、赤い機体を抱き寄せる。

 アークとサディを収める操縦席が存在する、複合積層装甲板で覆われたボディが接触。 

 ラスト・ドンパチの最終局面でたどり着いた、どん詰まりの死の回廊かいろうで、青い機体と赤い機体が寄り添い抱き合う。 

 ハードでヘヴィなメタル装甲が、ふたりの間をへだてていたけれど……

 近接格闘に特化された剛腕ごうわんが生む引力に引き寄せられて、赤い瞳の女のコのこころがぐっとアークにき寄せられる。

 ハードでヘヴィなメタルマシン同士が接触する、重金属音ヘヴィーメタルサウンドの中で響く、あたしのためだけにどこまでも暴力をふるい続けてくれる、あたしだけには絶対安全な危険過ぎる男の声。


 俺は大宇宙を自由気ままに翔けてきた。

 でも、この大宇宙のどこにも、神と呼ぶにふさわしい奴はいなかった。

 ただの一度も顔をあわせたことのないような、神の存在を信じれるほど、俺の頭は素敵なお花畑を所有していない。

 この大宇宙に神はいない。

 もしも仮に、100億光年ゆずって神がいると仮定したとしても、そいつはナニもできないマジモンの無能だ。

 神がいないのだとしたら、この大宇宙には女神もいない。

 女神がいないということは、幸運の女神ってやつもいないことになる。

 100億光年譲って女神がいても、神がマジモンの無能なら、女神も当然無能だろうよ。

 だけどな、サディ。君は間違いなくこの大宇宙に存在している。それはとっても素敵な真実だ。

 そして今の俺には、とびっきりの幸運が必要だ。

 だから、サディ。

 幸運ってやつを俺に、君がさずけてやってくれないか?


 行き止まりのどん詰まり、敗北が確定したと思われた暗い世界に、それでも君臨くんりんし続けようとする残虐王の声は、サディの聴覚器官にガンガン響いて、お胸のオクをめっちゃくちゃに揺れ動かす。

「アーク……」

 サディは、死の回廊に君臨する残虐王の名を口にすることしかできない。

「ここに頼むぜ。サディ」

 失った左腕のかわりに取り付けられた巨大な盾で、青い機体のメタルほっぺをツンツンして指し示すアーク。

 その意図いと明確めいかくだった。どん詰まりの行き止まりまできてしまった死の回廊で、アークはサディを求めたということだ。

 どんなに誘惑ゆうわくしても、指一本挿れてこない。あたしだけに絶対安全安心無害な残虐王が、いまはじめて、甘い行為を求めた。

 それは、死の回廊に君臨する残虐王であったとしても、幸運を求めるしかない絶対の危機を意味していた。


 あいつがあたしに甘いことを求める時は、いつもいつもマジモンの地獄の只中ただなかだ……

 そのことが、あたしは心の底からくやしくてたまらない。

 先に帰ってシャワーを浴びて、いい匂いだけを身に着けて、ふたりのベッドで俺が生きて帰るのを待っていろ。 

 そういう意味のことを言われた女のコは、要求に答えることしかできないよね。

 あたしはあんたを前線に残して、後方に撤退しないといけない。

 ガチでバチバチなマジモンの戦争屋をやっているのに、あたしが今できることはこれくらい……

 だけどあたしが、あんたに幸運をさずけることができれば、きっとこの戦争は終わるんだ。 

 ついこの間、合法年齢を突破した、めっちゃ体重軽い女のコからのくちづけだよ。 

 あんたは間違いなく、この大宇宙で一番幸運な男に決まってる!


 サディは心を決めて、死の回廊に君臨する残虐王の要求に答えるために、そっと操縦桿を動かした。

 キャンディ・アップルレッドのメインモニターに、蛮族ばんぞくの逆立つモヒカンみたいなブレードアンテナが目立つ、ブルーナイトメアの頭部が迫ってくる。

 複合積層装甲同士ふくごうせきそうそうこうどうし接触せっしょくする時に出る、無機質だけど胸のおナカのオクまで届く、クッソヘヴィな金属音メタルサウンド

 ラスト・ドンパチの最終局面でたどり着いた、何もかもがどん詰まりになってしまった死の回廊で、赤い機体は青い機体に抱きしめられて、ほんの一瞬なのに永遠みたいに感じられる、鋼鉄こうてつの味がする初めてのキスをした。

 青い機体と赤い機体の接触が、アークの言葉をサディに直接届け、ふたりだけの短い会話をする。

 アークの話は短かくて、ロマンティックなことはもう言わなかった。本当に、ほんの少しのふたりだけの一瞬だった。

「ありがとうよ、サディ。俺はいま、この広すぎる大宇宙で、間違いなく一番ラッキーな男だぜ」

 キャンディ・アップルレッドの腰を抱いていた、ブルーナイトメアの右手が、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳の女のコを後方へと押し返し、青い機体と赤い機体が離れる。

「先に行け、サディ。ここで俺はできるかぎりのことを殺る。このドンパチを終わらせるためにな」

 再び通信機から流れるようになったアークの声に、サディはうなづくことしかできなかった。

 あいつがあたしに手を出してくれるのは、いつもいつも絶望的などんづまりで、ベッドでふたりが甘いことをしている時間なんかない。

 だけど、あたしは信じる。あたしの男は必ず生きて帰って、あたしのベッドにもぐりこんでくれる男なのだと。

 キャンディ・アップルレッドが前線からの撤退てったいを開始して、ブルーナイトメアだけが、たった一機で死の回廊に残る。

 最後にサディは振り返って、ブルーナイトメアの背中を見た。

 青い機体の背中に走る稲妻いなづまは言っていた。

「我は、積極的平和主義者を憂鬱ブルーにする悪夢ナイトメアである」 

 死の回廊に君臨する残虐王は、この戦争にあらがうことをやめなかった。

 押し寄せてくる戦争をどこまでも止めようとする、消極的戦争主義者。

 最前線に立ちはだかり続ける死の壁は、青い炎すら立ちのぼらせているかのようにみえた。

 だけどその光景は、サディにとって、ふたりが永遠の別れになる瞬間なのではないかと思える、あまりにも感傷的かんしょうてきに過ぎる残酷なものだった。

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