たったひとつのイカレた代案
たったひとつのイカレた代案
リアルな戦争の最前線では、三回死んでもまだ時間があまる、五銀河標準秒という長い長い時間が過ぎた。
「我は、積極的平和主義者の前に立ちはだかる死の壁デス」
ブルーナイトメアは背中で語って、最前線に立ち続けた。
キャプテン・パンダーロックから全執行権限を貸与された、臨時暫定指揮官であるタッヤの命令に、アークは従うそぶりをみせなかった。
アーク! どうすんだい!?
きっちり五銀河標準秒、クッソ長い長考時間はもう過ぎたんだよ!
五銀河標準秒、メッタクソにゆっくりじっくりたっぷりと長考したろう?!
自民愚を破壊しきることはできない、だから中枢閣大本営まで凸できない!
イービル・トゥルース号はこの大穴から出ないとおしまいだ!
タッヤの言う通りの状況だよ。
ナニも思いつかないなら、さっさと、イービル・トゥルース号に帰還しな!?
このままだとイービル・トゥルース号が自民愚に取り憑かれて、あらゆる開口部にクッソキモい触手をブチこまれて、おナカのオクまでメッチャクチャにかきまわされちまうんだよ!
きっちり五銀河標準秒をカウントし終えたミーマ・センクターお姉様が、とっととケツまくってここからバックレないと、特殊な性癖まるだしの触手が宇宙戦艦を犯しまくる、超絶マニアックプレイが開始されちまうよ! とアークにがなる。
「アーク……」
五銀河標準秒もめっちゃ長考したのに、なにひとつ解決策が出てこなかったサディの声は暗かった。
メタル棺桶みたいに狭いキャンディ・アップルレッドの操縦席に、青い機動兵器からの通信が届く。
「代案はあるぜ」
その言葉は、サディの中枢神経細胞をグラグラとゆさぶった。
アーク・マーカイザックから届いた通信は、まだ勝つ手段はあると言ってた!
キャンディ・アップルレッドのメタル棺桶みたいな操縦席に、アーク・マーカイザックの声が響き、五銀河標準秒の長考からはじき出した道を語りだす。
海賊放送船イービル・トゥルース号、四番主砲塔、船尾副砲、実体弾発射状態に移行。
九式海賊放送弾を四番砲塔及び副砲にフル装填。
装填できしだい、海賊放送船のケツからバンバン撃って、ガンガン九式海賊放送弾をカルト・スターに叩き込め。
サディ、AXE、ハジメ、エイタは、前線より撤退。ケツまくって全力ダッシュで船に帰還してくれ。
俺はここに残って、海賊放送をやってからイービル・トゥルース号に戻る。
「はあああッ!!???」
まさかのアークの言葉に、全乗組員が大絶叫!
キャンディ・アップルレッドの通信機から流れてきたアークの言葉に、サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳が驚愕にみひらかれる。
細かいことはナニひとつわからにゃいが、アークにはまだ策があるらしい!
だけど、ここで海賊放送?!
確かにさっき、ドログチャの特級残虐行為をギュンギュンさせて、ガンガンにブチ込んでバンバン殺してバチボコにメッチャクチャにしてヤッた後、公開通信チャンネルで降伏を迫ったことは、大成功したけれど……
いま、この状況下でアークには、最凶と呼べるような切り札は、もうイチ枚だってないんじゃにゃい?
そして、あたしには……
アークがこういうことをする時に、イヤーな思い出がめっちゃある。
かつてあたしはこういう時に、とことんアークにハメられて首絞められて、意識失うとこまで徹底的にヤラれて、大宇宙にポイされたんだ……
「どういうことだよ!? てめえ! また一人で何もかも殺るつもりなのかよ?!」
サディの心の中で再上映される、意識を失うまでアークに首を絞められて、狭いシートに縛りつけられた、あの時の記憶。
「くそがぁぁああ?」
「このごにおよんで、海賊放送でどうにかできる状況じゃないよと、状況を判断するけどねぇッ!?」
アイアンブルーとガンメタルグレイで構成された艦橋から届く通信も、あんたナニイッテるんだいと叫んでいる。
「ちょっとおおおお!? 海賊放送でなんとかなるなら、とっくの昔になんとかなっているんじゃないですかぁぁぁ?」
「いくらなんでもそれはない。大穴どころじゃない破滅的な博打過ぎるような気がするけどなぁ」
「海賊放送弾じゃあ、人類どころか、虫一匹殺れねえぞ?」
艦橋からつぎつぎに届く通信は、つまりてめえは、いったい何を言っていやがるんだと言っていた。
「五銀河標準秒も長考したのは、俺だけじゃないはずだ。今ここでなにかできることがあると言うのなら、俺の案を蹴ってくれていいんだぜ」
通常の二倍以上に常軌を逸した男からの通信は、代案がないのなら俺の殺りたいように殺らせろよと言っていた。
「アーク……」
通常三倍以上に危険どころか、今や大宇宙の驚異級に危険な女のコは、なにひとつ代案を出せなかった。だとしたら、アーク・マーカイザックに、たった一人で好き放題に殺らせるしかないのかもしれない。
だけど……
「たった一人で前線に立って、いったいなにができるというんですか?」
防弾壁の内側をテキパキと片付け、撤退作業を進めながら、AXEは冷静にそう言った。
「嘘みたいだけど本当に、まだまだ大穴当てる可能性が、あるってことなのかなぁ?」
特にすることがない機関室を守っているコタヌーン機関長の言葉は、場違いなまでにのんびりしていて、それがすでにあきらめの境地にいたったようにも思えて、ゾッとする。
「くッ、そぉ……がぁあ……」
逃げることになりそうなのだが、逃げれる先があるのか怪しいし、何より銀河イチ逃げるのにきびしい状況に、銀河イチ逃げ足の速い操縦士は歯ぎしりしていた。
「ちょっとおおおお!? 本当に撤退しないつもりなんですかぁぁぁ?!」
臨時暫定指揮官タッヤの悲痛な悲鳴が響くなか、悲劇の現場は進行していく。
たった一人で前線に立つことを選択した、ブルーナイトメアの背中から、悲壮な気迫が青い炎のように立ちのぼる。
イービル・トゥルース号乗組員専用チャンネルに流れ出す、イカれきった暴威の言葉。
そうさ、俺は撤退しない。
なぜなら、俺にはここでまだ殺れることがあるからだ。
あきらめたらそこで終わりだとか、カッコいいだけで具体的なあてのない、お蛮勇なんかじゃねえぞ。
俺にはまだ、勝つあてがある。そして、俺にみえている道は、俺にしか歩めない。
だとしたら俺以外、全員とっととケツをまくってバックレろ。
俺には代案があるが、勝てる保証がついてるわけじゃねえんだからな。
まあ、勝てる保証がついている勝負なんてのは、そもそも勝負ですらないけどな。
俺がやる博打は、自分の生涯にすべてを賭けることだけだ。
誰かの生涯までも自分の博打に賭けちまうような、博打狂いなんかじゃねえよ。
俺が挑める道があるのなら、たった一人でその道を進む。
いまここで、俺には殺りたいことがある。
安心しろとは言えないが……
あいつ絶対死ぬだろうとか、自称頭の良い奴が言うようなことは、イービル・トゥルース号乗組員失格だぞ?
だから先に船に帰れ。
俺はガチでバチバチなマジモンの戦争屋だけどな……
俺は今日、戦争はもうじゅうぶん殺った。
一日最低二回は必ず取る、昼寝すら一回もとらずに俺は殺りまっくたんだぞ。
戦争はもう飽き飽きさ。
だったらよ、そろそろ海賊放送屋としての姿も、みせてやらねえといけねえよなあ?
権力にとってあまりにも不都合な、海賊放送を好き放題にガンガン流す、マジモンの海賊放送屋ってのが、俺の本職だ。
だから俺はここで海賊放送を殺る。
そして俺達は勝つぞ。この戦争にな。
通常の二倍以上に常軌を逸した男は、絶体絶命のどん詰まりであったとしても、俺はまだ殺れるのだと言っていた。
死の回廊でえんえんと続く地獄の戦争を、俺は海賊放送で終わらせるのだと、血みどろまみれの残虐王は言っていた。




